第74話「五風十雨」
「五日ごとに風が吹き、十日ごとに雨が降るといいんだよね。だって稲作にいい気候じゃん!」
なんてことを言ってたっけなぁ……。
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に目的の店が見えてきた。
『万屋 山吹』
そう書かれた看板を横目に扉を開ける。カランカランとドアベルの音が鳴り響き、その音に反応してカウンターにいた女性が顔を上げる。
「いらっしゃいませー」
鈴の音のような声が店内に響く。ふわっとした栗色の髪は肩までの長さで、前髪を横に流してピン止めしている。そして綺麗な青い瞳をしている。背は160cmほどだろうか? 小柄だがスタイルが良く胸も大きい。歳は20代前半くらいだろう。少し幼さを残した可愛い系の美人さんだ。
「こんにちは! 今日はどんなご用件ですか?」
彼女は俺の顔を見るなり笑顔で尋ねてくる。
「えっと、実はこの子たちに防具を作って欲しいんですけど……」
俺は後ろにいるメイサたち3人を紹介する。
「あら! 3人ともとても可愛らしいですね! わかりました! じゃあ採寸するのでこちらへどうぞ~」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
俺たちは彼女の後に続いて奥の部屋へと移動する。
部屋に入ると、そこには簡易的な試着室のようなものがあり、カーテンで仕切られている。中に入ってサイズを測るようだ。
「ではみなさん順番に入ってくださいね!」
彼女はテキパキと準備を進めていく。
「じゃあ最初は私から入りますね〜」
そう言いながらメイサが入っていく。
するとすぐに「キャッ」と言う声と共に、「いた〜い」と言ってくる。
「大丈夫か!?︎」
俺は慌てて声を掛ける。
「うん、ちょっと擦りむいちゃったみたいだけど大したことないよ〜」
メイサの声を聞いてホッとする。しかし、念のため後でポーションでも渡しておくかな。
次はメイサよりも年上に見える少女が入る。
「うぅ……痛いです……」
涙目になりながらもなんとか耐えている様子だ。
「よし、もうすぐ終わるから頑張れ!」「はいぃ……」
そんな会話を聞きつつ最後に残ったのは、一番小さい女の子だった。まだ5歳くらいだろうか?
「大丈夫だよ〜、みんなで一緒にやろうね〜」
彼女はメイサに声をかけると、先に入ってきた子の手を握りながら一緒に入って行った。しばらくして、2人が出てきたのだが、2人はなぜか少しだけ服が破れていた。
「あれ? 2人の服ってこんなに破けたっけ?」
疑問に思い聞いてみる。
「えぇ、まぁ……。ちょっと色々ありまして……」
なんだか微妙な顔をする彼女達を見てそれ以上聞くことはできなかった。それから少ししてメイサたちの採寸が終わったようなので、俺達は外に出ることにした。
「あの、本当に防具を作ってくれるんですか?」
俺は店を出てすぐ、先ほどの女性に質問をする。
「もちろんですよ! 私は防具作りに関してはプロですから任せてください! それに、あなた達が今持っている武器を見た感じだとかなり強いモンスターを倒してきたんでしょう? それなら素材の質もいいはずだし、きっと良いものができあがりますよ!」彼女は自信満々といった表情で答えてくれる。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は山吹 流と言います。これからよろしくお願いしますね!」
「俺はタクミと言います。こっちがリリスとメイサ、それとこの子はミルキーといいます。こちらこそよろしくお願いします」
俺達は順番に名前を伝えて頭を下げる。
「はい! こちらこそよろしくお願いします! それで、お兄さんの職業は何ですか?」
「俺は一応魔法使いをやっています。レベルはまだ7なのでたいしたことありませんけど……」
「え!?︎ そうなんですか! すごいじゃないですか! 魔法使いは珍しいんですよ! あ、ちなみに私のことは気軽に流と呼んで下さい。呼び捨てでいいですよ!」
「わかりました。じゃあ流さんと呼びますね。ところで防具の方なんですけど、とりあえず今の手持ちで足りるものを作ってもらえませんか? 残りはまた今度来た時に払いますので……」
「いえ、お金はいりません! その代わりといってはなんですけど、防具を作る間この子達の相手をしてあげてくれませんか? この子達も寂しいと思うんですけど、なかなか私以外の人が来なくて……」
「えっと、それは全然構わないんですけど、その子たちは一体……」
「あぁ、すみません! この子たちは私の趣味で作った子なんです! この子たちが可愛いからって理由で作っちゃいまして……。だから本当はこの子たちにも防具を作ってあげたかったんですけど、作る時間が無くなってしまいまして……」
趣味で作った子って……? 詮索するのはやめようと思った。
「なるほどそういうことなんですね。わかりました。じゃあこの子たちと遊ばせてもらいますね。ただ、あまり無理だけはさせないでくださいね」
そんなこんなで防具を揃え、万屋をあとにした。その晩、宿泊先の部屋の扉がノックされた。誰だろうと思い扉を開けると、そこには先日助けた少年がいた。
彼は俺の顔を見ると、ひどく怒った顔で
「お前のせいで姉ちゃんが大変なんだ! 早く助けろ!」
と言ってきた。
「どう言うことだ?」
「お前が昨日の夜に姉ちゃんを助けてくれただろ! その時に変な奴らが姉ちゃんを連れて行ってしまったんだよ!」
「それは俺には関係ないことだろ」
「うるさい! とにかくさっさと行けよ!」
「いや、どこに連れて行くのかわからないと、そもそも助けることなんてできないだろ?」
「チッ、仕方ない。ついてこい!」
そう言って俺の手を掴み走り出す。
「おい、何をする!?」
少年から連れ去られた先には、牢屋の中だった。中には女性が3人捕まっていた。1人は気を失っているようでぐったりとしている。残りの2人は必死に抵抗しているが、全く歯が立たないようだ。
「おら! これで満足か!?︎ さっさとここから出せ! 」
「よし。そいつと交換だ」
俺は牢屋に入れられてしまった。
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