第72話「内鑑冷然」
「諸佛菩薩の知慧の光は鏡のように澄んで冷ややかである。その智慧の光に照らされて、如来たちはこの世に顕現し、衆生を教化するのである。この世で修行するものは、この仏たちの姿を手本として、無我の境地に達するべく努力するものである。そして、その道を歩むものは、必ずや、悟りを得て涅槃に至ることができるであろう。すなわち、一切衆生が悟った境地は、仏たちが悟り得た境地であり、また、その悟りを得た仏たちは、そのまま、悟りを得たまま、衆生の中に降りて行き、衆生とともに生きるのである」
「つまり……どういうことなんです?」
と、直美が言った。
「そうね。じゃあ、こんなふうに考えてみたらいいんじゃない? 仏陀と同じようにすればいいってことよ」
「そんな簡単にいくかなぁ」
「とにかくやってみましょう。まず、仏さまと同じ格好をするわけよね。たとえば、お坊さんみたいに袈裟を着てみるとか」
「でも、あたしたち、まだ高校生だから、制服だし」
「それもそうね……」
真琴は腕組みをして考え込んだ。「何かこう、それらしい服はないかしら」
「あるわよ」
と、陽子が立ち上がった。
「ちょっと待ってて」
彼女は自分の部屋へ行き、何着かの衣類を持って戻ってきた。真琴の前に広げて見せる。
「これなんかどう?」
それは紺色の着物だった。袖口には金糸で刺繍が施されている。帯も金色だ。「『和』っていう字を書くんだけど」
「まあ、きれい!」
「そうでしょう。実はこの前、デパートへ行ったとき買ってきたの。試着してみたけど、なかなかよかったから」
「いいわねぇ。これを来て学校へ行くの。なんだか楽しそう」
陽子は苦笑を浮かべた。
「今はそんなことしなくていい。高校生らしく生活しとけ!」
突然現れた洋子の父が叫んだ。
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