第66話「和顔愛語」

「自分のものの言い方が荒々しいのもであれば、それに応じて相手の受け答えもやはり荒々しい言い方となる。自分の言葉づかいが丁寧で和やかであれば、相手の応答も和やかであるものだ。この原則は人間関係全般に適用される。

そしてそれは、相手への思いやりから発している場合であっても例外ではない。相手を慮って言葉を選ぶときでさえ、その言葉には、自分にとって心地よい響きを宿らせるという効果がある。そうやって言葉を紡ぐことによって、相手に対して自分はこう思っているのだということを、明確に相手に伝えることができるのだ。

また、言葉そのものが持つ力にも注目したい。言葉というのは、音であり、文字だ。言葉は、声に出さなければ意味を持たないし、書き留めなければ跡形もなく消えてしまう。だからこそ、言葉とは、他のどんな手段よりも強い影響力を持っていると言えるだろう。

人は誰でも、自分の気持ちを誰かに伝えたいと思うことがあるはずだ。そのとき、相手がどう受け止めるかということばかり考えて言葉を選ぼうとするのは危険だと私は思う。自分が伝えたいと思ったことをそのまま伝えれば良いのだと思う。もしそれで相手に嫌われたとしても、それが自分に正直な言葉でなかったからだと思って諦めよう。

もちろん、これは私の意見であって、すべての人に当てはまるものではない。私の考えが正しいかどうかなど誰にも分からないことだし、そもそも正しいことなんていうものは存在しないのかもしれない。

それでも私は、自分が感じたことをそのまま伝えることが大切だと考えている。それはきっと、私以外の人たちも同じ気持ちのはずなのだ」

「……はい!」

とりあえず記者はお坊さんに対し元気よく相槌を打った。しかしすぐに、あれ?と思い直す。

──何言ってるんだろうこの人……。

思わずそんな感想が浮かんできた。だってお坊さんの言っていることは、ただ単に、人間は自分の思った通りに生きればいいとか、そういう話だったような気がするのだが……。……まぁいいか。

記者はすぐに気を取り直した。

そして、今の言葉を聞いているうちに、ふとあることに思い当たった。

──そうだ! 僕はもっとこの人のことを知らなくちゃいけない。

僕はずっと前からそう思っていたんだ。でもなかなかきっかけがなくって、今までインタビューをするチャンスがなかっただけなんだ。今日はこんなところで会えるなんてラッキーじゃないか。

それにしても、お坊さんのインタビューなんて初めてだぞ。一体どういう風に話を聞けばいいのか分からないけど、せっかくだからいろいろ聞いてみよう。

「えっと、じゃあ次の質問ですけど……」

記者は次の質問を考え始めた。するとお坊さんの方から口を開いた。

「ちょっと待ってくれないか」

「はい?」

「実は私はまだ、君の名前を知らない」

「ああ、僕ですか?……あっ」

そこでようやく、お互い自己紹介がまだだったことに気付いた。

「すみません、名乗ってもいなかったですね。僕は三図川利という者です」

「そうか。では改めてよろしく頼むよ。……ところで、君はどうしてここに来たんだい?」

「えっ!?」

予想外の質問に面食らう。まさかお坊さんの方からその話題に触れるとは思ってもいなかった。

「いえ、特に理由があったわけじゃないんですけど、たまたま通りかかっただけです」

「は?」

「えーと、あの、つまりそのぉ……」

記者は必死になって言い訳を考えた。

「申し訳ないがこれから用事があるので話を終わりにしたい」

「……はい!」

記者はまた元気よく返事した。

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