第63話「河原に生えている葦」

我こそは あしの下折れ 一ふしの ありとも誰か ありとみるべき

私は河原に生えている葦の下に折れている一本の葦のような者である。生きている時でさえ誰も気にかけてくれないのだから、死んだあと誰が覚えていてくれようか 契沖

「ねえ、聞いた? あの子たち」

「えーっ! ほんと?」

「うん。この前もさ……」

その日、授業が終わってから廊下を歩いていると、そんな声が聞こえてきた。どうやら私の噂をしているらしい。まあ、別にいいけどね。

「でも、ちょっと意外よね」

「そうかなぁ。だってあの二人って仲良かったじゃない」

「でもほら、いつも一緒だったし……」

「あっちにも色々あるんでしょ」

きゃいきゃいと騒ぐ彼女たちの声を聞きながら、私はその場を離れた。あの二人は……もういないんだ……。

私は今年で高校二年生になる。私の通っている学校は公立の進学校で、いわゆるエリート校という奴だ。入学する生徒のほとんどが偏差値の高い学校を希望して入ってくるため、自然とクラスの雰囲気はピリッとしたものになる。それは勉強だけではなく、部活や委員会活動においても同じことだった。

そしてもう一つ、私たちには共通して言えることがあった。それは、みんな成績が良いということ。全国模試の上位者は校内新聞に掲載されるくらいだし、部活動では全国大会に出場したり、インターハイの常連になったりしている。私はそこまで優秀ではないけれど、成績は上位をキープしていた。

「あっ! ごめんなさい!」

曲がり角で誰かとぶつかった。私は慌てて謝る。

「いえ、こちらこそすみません。大丈夫ですか?」

相手の女子生徒が手を差し伸べてくれる。

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、これで」

彼女はそのまま立ち去って行った。私は彼女の後ろ姿をじっと見つめた。

(また会えた)

心の中でつぶやく。彼女は去年からよく見かけるようになった転校生だった。彼女は誰よりも早く登校してくる。朝練のある運動部でもないのに。彼女はいつも一人で本を読んでいる。休み時間になると教室から出て行くこともある。あまり話したことはないけれど、私は彼女に少し憧れていた。彼女ならきっとどんな人とも仲良くできるだろうなと思うのだ。

ある日、彼女に突然こんなことを言われた。

「あの、何か困ったこととかありませんか? 相談に乗りますよ」

思いがけない言葉だったので驚いたけれど、同時に嬉しかった。私の周りにはほとんど人がいなかったから。だからその時もつい甘えてみてしまった。そしてそれから毎日彼女と話す機会が多くなった。

「ねえ、私はあなたに恋をしてるのよ」

「はいはい」

彼女は軽く受け流す。

「もっと真剣になってくれても良くない?」

「いや、だって……」

彼女は目を逸らす。

「何よ、はっきり言いなさいよ」

私が詰め寄ると、観念したようにこう言った。

「だってさ……私たちはただの友達じゃん」

「……そっか」

やっぱり無理なのかなと思った。でも諦めきれなかった私は、何度も彼女を呼び出した。でも結局駄目だった。

それからしばらくして、彼女が転校するという話を聞いた。私はショックを受けたが、その気持ちはすぐに消えた。

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