第60話「近い将来?のあるブログ記事」
新型コロナウイルスが流行した。ロシアがウクライナに侵攻した。世界大戦が勃発した。地球温暖化による海面上昇が起こった。
だが、私にとっていちばんのショックは「リーマン・ショック以来の大不況」だった。
「このご時世だから仕方がない」と周囲は言うけれど、私にとっては「このご時世だからこそ」である。そもそも私が就職活動をしていた90年代でさえ、これほどの不況は経験したことがない。「景気が悪い」「失業者が多い」ということは耳にしていたものの、せいぜい「失業率は上がっている」程度のことだった。それが今回のコロナ禍では、連日のように「倒産件数が増え続けている」とか、「自殺者が急増している」といったニュースが流れてくる。「これじゃあ、日本は滅びるんじゃねえか」と不安に思う一方で、「もうどうしようもないよ」とあきらめの境地に至る自分もいる。
こんな時代に生まれてしまったことを嘆いても始まらない。とにかく明日を生き延びるためには、何かを考えなければならない。だが、私のようなフリーターにできることなんてたかが知れている。
「俺にできることがあるとすれば……」
私はふと思いついて、最寄りのスーパーに行った。
そこには、「マスク売り切れ」の貼り紙があった。
「ああ、そうか」
考えてみれば当然の話だ。
今の時代、健康で若い人間は、みんなマスクを買っている。この店だって、在庫がある分だけを売りつくしてしまったんだろう。
俺は、この店の店員さんのことを思った。
「あの人は、きっと困っているはずだ」
そう考えたら、なんだか急に腹が立ってきた。
どうして俺が怒る必要がある?別にこの店で買い物をしたわけでもないのに!
「……まあいいか」
こういう時は、「他人は他人のことなんか気にする必要はない」と思うに限る。
俺がこの店で買いたいものは、他にいくらでもあるのだ。
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