第56話「粒粒皆辛苦」

「われわれの食べるごはんの一粒一粒は、ことごとく農夫の苦労してつくったものである」

この文章を教科書に載せたのは誰であったか、もう忘れてしまったが、この教えは今なおわたしの心に残っている。そして、その心こそ、わたしにとって大切なものであったのだ。

教師になる夢を断念したときから、わたしは、自分が生きる糧として求めていたものは何だったのか、ふっとわからなくなった。自分の一生をかけて探し求めたものが、ほんとうは何であったのか……。しかし、それはまた、自分の生きてきた道程において、何か大きな意義があったのではないかと思う。それでなければ、これほどまでにわたしの心を揺り動かしたはずがない。おそらく、わたしは自分の人生の中で、いちばん深いところで、自分という人間と向き合うことができたような気がする。

あの日以来、わたしはいつも心に問いかけている。

「あなたの人生には、いったいどんな意味がありましたか?」

と……。その朝も、小鳥たちがさえずっていた。

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