第54話「すき通った構造物」

その構造物はてっぺんから底まですき通っていた。しかし、底には一片の光も見えなかったし、またどこにも開口部はなかったのだ。この謎を解こうとする者はいなかった――わたしたち自身を含めてね。

やがてわたしたちの好奇心が別の方向に向かうようになった――わたしたちがはじめて見いだしたもの、つまりその塔の床と壁を形づくっている物質のことに関心を持ったんだ。それは地球上の物質に似ていた。いや、そっくりだったといってもいいだろう。それにあの奇妙な力場、まったく非常識なエネルギーの場だ! だがこれは、どんな宇宙的な現象とも矛盾しないものだということが明らかになった。その物質を構成している粒子のひとつひとつ、あるいはそれらすべての組み合わせが、まったくおなじものなのだ」

そこでグライムズたちはその装置を見下ろした。

ソニアが口を開いた。

「その装置ってわけ?」

グライムズはうなずいた。

「きみが言ったようにだ……きみが言ったようにだぞ……それはただひとつの装置じゃあない……いくつもの機械装置が複雑にからみあって一つのものを造りあげている。そしてわれわれには理解できないほどの高密度で組み上げられている……どうやらこいつは、きみが言っていたとおりのものらしい」そう言ってグライムズは彼女の方へ顔を向けた。

かれは肩をすくめた。かれはこの話をもうずっと以前に聞いたことがあり、それを思いおこすために時間がかかったのだ。

彼女はいった。

ソニアの顔には驚きの表情が見られたが、それは一瞬のことだった。かれはその部屋をぐるりと見まわすと口を開いた。

「その装置はあなたたちの目に見えないわね」

グライムズが答えた。

「そうだよ、大尉。きみの目にもだ」

かれは椅子の中で姿勢を正した。

「われわれ全員がその機械の構成要素のひとつになっていることはまちがいないと思う。だから、この部屋の中ならどこでも見ることができるし、触れることもできる。この機械の動力がどんなものであるかを知るためには、それを動かして見るよりほかにないだろう……まあそんなところさ。ところで、われわれは今ここにある材料についての知識を持っていて、それを操作できるということを考えるべきだ」

かれの声にこもった自信を聞き取って、わたしたちは思わずニヤリとしたものだ。ソニアも同じ気持ちらしくニッコリした。だがグライムズの方は話を続けるうちに不安になったのか言葉少なになり声が小さくなった。

突然ガガガガガっという音が鳴り響いた。

「何の音かしら?」とソニアがきき返した。

「さて……」

そう言いながらかれは立ちあがると、ゆっくりと歩きまわりはじめた。

「おい!」

「何かしら? 聞こえたわよね?」

「ああ、聞こえた」

「あら……」

ソニアの声にかすかに恐怖の色が感じられた。彼女は立ちどまると耳を傾ける仕草をした。

「あれは何の物音なのかしら?」

「ぼくたちには何もわからない」と少佐が答えた。

「あの音の出所がどこかわかるかね、大尉?」

「ちょっと待ってちょうだい」

ソニアは目を閉じると両手を耳に持っていった。それからパッと目をあけるといった。

「聞こえなくなったわ」

気が付くとそのすき通った構造物が消えてなくなっていた。

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