第46話「刑務所」
刑務所の部屋の格子窓に差し込んだ月の光をじっと見つめる。それは地上に降りた霜かと思うほど白くキラキラと輝いている。ああ月。懐かしい故郷どのくらい眺めたことだろう。帰りたい、故郷へ。
俺が犯した罪は傷害致死である。俺は人を殺したのだ。
一昨年のことである。当時俺は某出版社で雑誌の編集をしていたのだが、その日も終電近くまで残業して会社を出たところだった。時刻はすでに午前二時を過ぎていたろうか。
俺はこの夜もいつものように地下鉄日比谷線の入谷駅を出て徒歩で家路についていた。途中、コンビニエンス・ストアの前で立ち止まり、缶ビールを買った。店を出ると酔っぱらった男に絡まれた。
「おい兄ちゃん」
男はそう言っていきなり肩をつかんだ。顔を見るとまだ二十代前半といった感じの男であった。
「何ですか?」
俺はちょっとうんざりしながら答えた。すると相手は言った。
「おまえなあ、人にぶつかったら『すみません』って言わねえのかよ!」
男は凄味のある声を出した。俺は一瞬あっけに取られたがすぐに気を取り直して言い返した。
「あんたが勝手にぶつけたんじゃないんですか? 」
「うるせぇあやまれ!」
男がこぶしを振り上げた。俺は無意識のうちに男を投げ飛ばしてしまった。その結果、今に至る。
刑務所で夜を過ごしているとさまざまな思いが心に集まり、あの日から判決確定までの出来事が胸に満ち溢れるのだった。
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