第35話「従軍僧侶」
精選版 日本国語大辞典「陣僧」の解説
中世、武士とともに戦場へ赴き、臨終の念仏を勧めたり、菩提をとむらったりする僧。主に時宗の僧がつとめた。また、文筆の用をしたり、敵陣への使者となることもあった。
そして現代、ある軍の部隊に尼僧のスータラが従軍していた。部隊の指揮官は指揮官用のテントにこもって作戦会議中だ。
「うーん、このところ敵の動きがないなあ」
指揮官がタブレット端末の画面を見ながら言った。
「はい、私どもが戦っている相手はただの軍隊ではありませんからね」
スータラが応える。彼女はこの部隊の副隊長である。
「そうだよな。あのロボット兵器の部隊は本当に厄介だよ。あいつらがどこで何をしているのか、こちらにはさっぱりわからないんだから」
指揮官がため息をつく。
「はい、しかし、そのおかげで我々はこうして楽ができます」
「それはそうなんだけど……まあいいか、ところで次の戦闘だが、敵の補給基地への攻撃を行う予定になっている。そこで君たちにも協力してもらいたいのだが」
「わかりました。それで……」
銃声が聞こえた。続いて悲鳴。
「なんだ?今の音は?」
「襲撃です!奇襲されています!」
「何だと!?くそっ、誰の仕業だ?」
指揮官が部下の兵士に向かって怒鳴った。
「わかりません。しかし敵襲です!」「わかった。俺が出る。君はここに残れ」
そう言うと指揮官は自分の小銃を手にして外へ飛び出していった。
「待ってください。私も行きます」
スータラが後を追う。
外では兵士たちの死体が転がっていた。
「敵はいないのか!?」
指揮官が怒鳴った。
「います。おそらく光学迷彩を使っていると思われます」
副官が答えた。
「光学迷彩か……。確かあれは特殊な装置が必要だと聞いたことがあるぞ」
「はい、しかし、今我々を攻撃してきた連中はその装置を使っていました」
スータラがある方向を指さした。仏教における神通力で敵が見えるのだ。
「あそこです!」
「よし、全員突撃せよ!奴らを見つけ出せ!」
指揮官の命令で兵士たちが次々と発砲する。しかし弾はむなしく地面に当たるばかりだ。
その時、何か黒いものが飛んできて、兵士の一人に命中した。その兵士が倒れる。
「いたぞ!撃て!」
指揮官の命令に従い、銃弾が再び発射される。今度は命中し、血を流しながら倒れた。
「やったか?」
誰かの声と同時に再び攻撃が始まった。今度は複数の銃撃を受け、一人、二人と倒れていく。
「だめだ。撤収する!」
指揮官の判断で部隊は退却を開始した。
「くそ、かなりの損害だ」
部隊が退却した後、一人の男が姿を現した。全身黒ずくめで顔も見えない。男は懐から小さな機械を取り出し、スイッチを入れた。すると、目の前に立体映像が現れた。そこにはこの男の他に十人ほどの男がいた。全員が同じ服装をしている。
「こちらアルファ1、目標の破壊に成功した」
『了解』
「アルファ2からアルファ10まで、それぞれ所定の場所に移動しろ」
男たちはそれぞれ散っていった。
翌日、スータラが戦死した者のために念仏をしていると、別の僧侶たちがやってきた。彼らは部隊の指揮官に報告に来たようだ。
「昨日の襲撃についてだが、どうやら敵はかなり高度な技術を持っているらしい」
指揮官の言葉を聞いて、僧侶たちはうなった。
「やはりか。我々の装備では歯が立たないというわけですね」
「そこであなた方の神通力で何とかならないですか?」
すがるように指揮官が言った。「申し訳ありませんが、私どもの力は非力です。敵を打ち破れるほどのものではありません」
「そうですか…」
沈黙が流れる。すると昨日の全身黒ずくめの男が立体映像に映った男たちを引き連れて現れてこう言った。
「我々はある目的の達成のため、このような手段を用いた。しかし、この国の人々には罪はない。よってこれ以上の攻撃は行わないことを約束する」
それだけ言って、彼らは姿を消した。
数日後、敵の補給基地を破壊したという報告がもたらされた。
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