第34話「長三郎」

長三郎は幼時から船に乗って魚を釣ることを好んでいたが、齢三〇にしてたちまち無常を観じて出家してしまった。その際、

「拙僧も俗人と同じく、死ぬる時は只念仏して往生せんとおもい候」

と言い残したという。

また、長三郎が語ったところによると、彼は出家した後のある夜、夢の中で、自分の名を呼ばれて目覚めてみると、枕元に一人の僧侶が座っており、その僧侶に向かって、「何用あって私を呼んだのか」と尋ねると、

「私は貴殿の先祖でござる」

と答えたので、驚いて飛び起きて見ると、床の間に先祖代々の系図があったそうである。僧侶の甥が、将軍に反乱したそうだ。

「……この話には続きがあってね」

と、長三郎は続けた。

「私が夢から覚めた後、しばらく考えていたんだけれど、ふと思い立って寺の門を出てみると、いつのまにか自分が若返って、さっき見た夢の中のような姿になっていましたよ」

長三郎は笑って、それから真顔に戻って言った。

「私の先祖だというあの人は、きっと、私と同じことを体験していると思うんですよねえ……」

長三郎が亡くなった後、街の若者たちが船に乗り込んで、岸から離れていった。

昼飯を食べながら、若い衆たちは語り合った。

「あの世へ行ったら、どうする?」

「仏さまに会いたいなあ」

「俺は、まず女だ!」

「俺は酒を飲みたいぞ」

「酒なら、いくらでも飲めるだろう」

ふと見ると船の中にお坊さんがいた。

「おい、あれはなんだい?」

「ありゃ、お経を読んでいるぜ」

「俺にも読ませろ!」

若い衆たちが寄ってきた。すると、お坊さんは声を上げて泣き出した。

「ああ、悲しい!……悲しい!」

「おいどうしたんだよ坊さん!?」

若者の一人が声を張り上げた。

「おお、悲しい!……悲しい!」

「悲しい!……悲しい!」

「うわっ!!」

全員が悲鳴を上げた。陸地が燃えている

「……これは一体どういうことですか?」

「みんな死んだ人の生まれ変わりだよ。あの甥が生まれ変わって現れたんだ」

「なんですかあの甥って?」

「お前らの先祖だっていう坊主のことさ」

そういえば、そんなことがあったような気がしてきた。

やがて、船はどんどん沖の方へと進んでいった。

海の上には何やらうじゃうじゃと生き物がいるようだった。しかし、それが何かわからないうちに、彼らは消えてしまった。

「おい、もうそろそろ着きますかねえ?」

「うん?……まだかなあ」

だが、なかなか陸が見えなかった。

そのうち、船が揺れ始めた。そして、まるで地震のように大きく震えた時、彼らの乗った船は海の真ん中で粉々になってしまった。

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