第33話「一時炳現」

「うわーっ!!」

世界のあらゆるものがいっぺんに輝き現れた。そしてまた消えていった。ぼくは目を開けてみた。目の前には、あの美しい女が立っていた。その背後には、輝く星々があった。この世のものとは思えないほど美しかった。ぼくはこの光景を一生忘れることはないと思った。彼女は両手で何かを抱えていた。それは赤ん坊だった。ぼくは彼女の胸元から顔を出している赤ん坊を見た瞬間、自分が誰なのかを思い出した。

「ああ、ぼくだ……」

そうつぶやいた途端、意識を失った。

気がつくと、そこは病院のベッドの上だった。隣りを見ると、妻と娘がいた。

「あなた! 目が覚めたのね」

妻は涙を浮かべていた。

「どうしたんだ?」

「覚えていないの? あなたは駅の階段で倒れているところを発見されたのよ」

ぼくは妻の腕の中にいる赤ん坊を見て言った。

「これはぼくの子どもじゃないよ」

「え?何を言っているの……?」

思いがけない言葉に妻は驚いた。

「じゃあこのおなかの子は……?」

妻が大きくなったおなかを見せる。そこには確かに小さな命が宿っていた。

「どうしてだろうなぁ……。ぼくは君と結婚する前に別の女性と結婚していたことを思いだしたんだよ。でも、そんなことは関係ない。今は君のことしか愛していないし、これからもずっと愛すると思うよ」

「はぁ……。じゃあこの子は?」

妻は腕の中の赤ん坊をぼくに近づけた。ぼくはその子を抱いてみた。するとその子の顔が見えた。それは紛れもなく自分の息子だった。しかし、不思議とその子が自分の息子であるという確信を持てなかった。まるで他人のように思えたのだ。それでもぼくの息子であることに変わりはない。

「不思議なこともあるものだなぁ。まあいいか」

それから退院するまでの間、家族三人で過ごした。妻は仕事を辞めて育児に専念した。やがて生まれる我が子を楽しみにした。そして生まれたわが子の名前は、なんとも奇妙なものだった。

『三太郎』

ぼくたちはこの名前について話し合った。

「なぜこんな名前をつけたんだい?」

「あなたの好きな小説の主人公の名前よ」

「なるほどねぇ。それで、この子の将来はどんな子に育つのか見当もつかんわけか。まあ、いいんじゃないか……」

「うわーっ!!」

また世界のあらゆるものがいっぺんに輝き現れた。そして消えていった。ぼくは目を開けてみた。目の前には、あの美しい女が立っていた。その背後にある星々は輝いていた。ぼくはこの光景を一生忘れることはないと思った。彼女は両手で何かを抱えていた。それは小さな箱だった。それをぼくに向かって差し出した。「なんだいこれ?」

「誕生日プレゼントよ」

「ありがとう!」

ぼくはその箱を受け取った。

「開けてもかまわないかい?」

「もちろんよ」

ぼくはゆっくりとその箱を開いた。中に入っていたものは指輪だった。銀色に輝く指輪が入っていた。ぼくはそれを指につけてみた。よく見ると、内側に文字が刻まれていた。

「M・K……?」

「うわーっ!!」

またまた世界のあらゆるものがいっぺんに輝き現れた。そして消えていった。ぼくは目を開けた。目の前には、あの美しい女が立っていた。その背後の星々は輝いている。そして、その手に持っているものをぼくに差し出していた。

「なんだいそれ?」

「手紙よ」

ぼくはそれを受け取り読んでみる。それは妻からのメッセージだった。

「親愛なる夫へ。わたしたち夫婦の間には、これまでいろいろなことがありましたね。ケンカしたり仲直りしたりと忙しい毎日を過ごしていましたね。今こうしてあなたと一緒にいられるのも、神様のおかげかもしれません。これから先の人生においても様々なことがあるでしょう。辛いこともたくさんあると思います。ですが、二人で力を合わせて乗り越えていきましょう。お互いの幸せのためにがんばりましょう。いつもあなたを愛しています。いつまでも一緒にいましょう」

読み終わって気が付くと、自室のベッドの上だった。

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