第6話 潜入、再び

「で……俺たちが呼ばれたと?」


 深夜の無理な要望にもかかわらず、駆けつけてくれた友人二人。俺たちは学校の校門前で待ち合わせたのだった。


 真っ先に理解を示してくれたこいつはひがし寿紀としのり。成績は学年でも首位で、頭もよく切れる。軍師としてこれ以上の人物はいないが、ただ少し堅苦しいところもあって、俺は少し苦手である。


「ったく、なんで俺まで」


 不機嫌そうにぼやくのは植芝うえしばけん。父親はエリート警察官であり、剣道の腕は師範代クラス。こいつもその影響からか、段持ちの腕前である。いざという時の戦闘要員としては申し分ない。


「いや~、まさか賢ちゃんまで来てくれるとは」


「お前が人命に関わるからっていうから仕方なくきたんだろうが! こっちは稽古で疲れてんのによ」


「そういうな植芝。それよりも錦見……電話での話は本当だろうな?」


「ああ、この目で見たから間違いない。今回の誘拐事件は旧校舎の化け物の仕業だ」


「あのなぁ……はい、そうですかって、にわかに信じられると思うか? 人間が月に行く時代に化け物だの、心霊だの」


「いや、本当なんだって! 信じてくれよ!」


「だが、現に行方不明者は旧校舎で消えたままだろ、植芝。こいつの話が嘘かどうかは行ってみればわかる」


 さすが東。話が早い。


「ちっ、嘘だったらぶん殴るからな」


 うっ、化け物にはできるだけ会いたくないが、だからといって殴られるのも困る。うまいこと、行方不明の女生徒だけ救出できたりしないものだろうか。

 なんてことを思いつつ、俺たちは閉まっている校門を上から乗り越えようとする。


「勇一~!!」


 すると、遠くからどこか聞き覚えのある声がした。この声は……。


「げ、由里! なんでここに?」


「それはこっちのセリフよ。勇一の家に連絡しても帰ってないっていうし、心配して探しに来たんじゃない」


「錦見、少し耳貸せ」


 東が耳打ちしてきた内容は、由里におとり役を任せたいとのことだった。


「な、ダメだよ! 現にさっき危ない目に遭ってんだから」


「しかし、お前のいう化け物は女生徒の足に執着しているんだろ? 佐伯さんがいてくれた方が遭遇率は上がるんじゃないのか?」


「そりゃそうだけど、由里が嫌がるかもしんないだろ」


「その時はその時だ。無理強いはしない」


「東君と植芝君も一緒だったんだ。みんなで何してるの?」


「いや、実はさ……」


 確かに東の意見はもっともだ。しかし、これ以上由里を危険な目に巻き込むのは気が進まない。事情を話して、さっさと帰ってもらおう。だが、俺の思惑とは裏腹に、由里はなにやら決意をした様子。


「私、やってもいいよ。囮役」


「お、おま、本気か? またあの化け物が出てくるかもしんないんだぞ?」


「だって、このままじゃみんなが危ないじゃない。それに男が三人もいるんだもん。どうにかなるでしょ?」


 あちゃ~……あのしおらしさはどこへやら。こいつは片時も離さないカメラを手に、いつもの好奇心旺盛な顔に戻ってやがる。


「佐伯さん、危険が迫ったら俺たちが責任もって逃がすから。安心してくれ」


「ありがと、東君。でも、また勇一が助けてくれるって信じてるから」

 

 何を言いだすんだこいつは! と、照れた俺は視線を逸らす。それに気づいたのか、由里も顔を赤くし視線を逸らした。


「あの~、惚気のろけはよそでやってもらっていいですか~?」


「ち、ちがうよ! そんなんじゃないって」


「そ、そうだよ、植芝君。勇一とはただの幼馴染おさななじみなだけなんだから」


「はいはい」


「さっさと行くぞ。お前ら、気合入れろ」


 こうして俺たち4人、再び旧校舎へと潜入を試みたのであった。

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福島少年団 ~霊界録~ 若狭兎 @usawaka

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