愛着のあるお店

シヨゥ

第1話

「暇ですね」

「そうだね」

 昼時だというのに客足もまばらで店長とこうやって話す余裕すらある。

「お店、大丈夫なんですか?」

「厳しいね。ギリギリといったところかな」

「ホール、私以外いなくなりましたもんね」

「厨房も辞めてもらったしね」

「高橋さん。辞めてもらったんですね」

「うん。今は隣駅の洋食店で働いているよ」

「じゃあホールのみんなも?」

「うん。鈴木さんは高橋さんと同じ洋食店で、飯田さんは隣町のレストランだったかな。あと小林さんは2ブロック先の喫茶店で働いているよ」

「次の就職先知っているなんてすごいですね」

「辞めてもらう以上は紹介してあげないとね。こう見えて僕は顔が広いんだよ」

「紹介したんですね。なるほど。それじゃあなんで私にはお話が来なかったんです?」

「それは君が一番優秀だったからだよ。他の子が辞めても、君さえいればホールは回るからね」

「そんなに評価してもらっていたんですね。ありがとうございます」

「いやいや。感謝されることじゃないんだよ」

「どうしてです?」

「だって、こんな沈みゆく船に引き留めるような形になっちゃって、申し訳ない限りなんだよ」

 そう言ってため息をつく。

「思い切って潰しちゃった方が、まだ君の将来にとっては良いんだろうなとは思うんだ。こうやって残ってもらって、店を続けるのは僕のエゴでしかないからね」

「そんなこと言わないでくださいよ」

 さすがにその言葉を黙って聞いてはいられない。

「私はこの店が好きなんです。雰囲気も、味も、店長の人柄もすべて好きなんです。働くことができてうれしいと思っています。お客さんは少ないかもしれませんが、みんな見知った常連さんばかりです。常連さんがいるということは愛されている証拠なんですよ。だから、『思い切って潰しちゃった方が』なんて言わないでください」

「わっ分かったよ」

 店長がたじろいだ。

「そこまで思ってくれているとは思わなかった」

「これでも小さいころから家族と通って、愛着がわいて、勤めることにしたんです。好きじゃなきゃ続けられませんから」

「そうだね。ありがとう。お店を愛してくれて」

 店長の目には涙が浮かんでいる。

「まずは去ってもらった皆が戻って来れるぐらいになるまで頑張りましょう」

「うん。頑張ろう」

 店長が涙を拭うと来店を報せるベルが鳴った。

「「いらっしゃいませ!」」

 雑談はここまで。仕事の時間だ。

 ひとりでもお店を盛り上げる方法はいくらでもある。ひとりでも常連さんを増やすために頑張ろうじゃないか。

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愛着のあるお店 シヨゥ @Shiyoxu

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