鈍感

夏伐

鈍感

 朝、朝食を食べながらテレビを見ていると、母がドタドタと足音を立ててリビングに飛び込んできた。


「また出たの!!」


 引っ越してから、母は霊感に目覚めたらしい。

 枕元に男が出て何かをささやくと言う。


「私思うんだけど、この家って事故物件なんじゃないかしら!」


 母がさも深刻そうにそう言った。

 私は味噌汁を飲みながら、そんな母を眺める。

 例の男は今も母に虚ろな瞳を向けて、耳元で何かをささやいている。


 この部屋の隅では老婆が正座して虚空を見つめ、私たちしかいないはずなのに階段を上り下りする音が聞こえる。部屋を時折、子供が覗き込む。


「気にしすぎだって」


 事故物件というよりもはや魔界みたいな状況で、さすがの母の鈍感も人並みに感覚が鋭くなってきたらしい。


 母は「真面目に聞いてよ~」と言いながら朝食を作りにキッチンに行った。


 男は母についていく。

 あの男はこの家についているのではなく、母についている。引っ越す前からずっと何かをささやいている。

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鈍感 夏伐 @brs83875an

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