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「故人の気持ちも分かるし、お前の気持ちも分かる。だけど、残された者はその言葉を聞いたことで、どう思うのか。死ぬまで後悔したり、深い傷を抱えて生きていかなきゃ、いけなくなるかもしれないんだぞ」

 確かに彼の言葉を告げたとき、両親はいい顔はしていない。それどころか錯乱し、憤りすら覚えているようだった。

 僕は父の言葉を聞きたいと思っていた。僕たちのことをどう思っているのか、どうして僕たちを残して死んだのか。その事を聞きたかった。その意識が下敷きにあったからこそ、遺族は故人の声を求めていると思ってしまったのかもしれない。

 素直に謝罪する僕に、上司は頭をかく。

「まぁー何が正しくて、何が間違っているかなんて、結局はなってからしか分からないんだけどな」

 上司の言葉に僕は頷いた。

「まだ若いんだから、たくさん失敗して多くを学べば良い」

 僕の肩を叩いて、上司はその場を立ち去っていく。

 僕は上司を見送ってから、会場へと足を向けた。

 すでに片付けられているその場所は、一見すると何の会場か分からない程に閑散としていた。

 明日もまた、この場所で通夜が行われる予定だ。

 故人は中学生の男の子。十三年と二ヶ月の命。

 僕は二十五年と三ヶ月も生きている。どうしてそこに命の時間差が生まれるのか。僕には疑問だった。

 だけど一つだけ言えるのは、僕の命も有限であるということだ。僕だって、いつかは死ぬ。だからこそ、今ある時間を有効に使いたかった。

 腕時計を見ると、時刻は二時半だった。定時まであと三十分。

 不必要な残業は僕の中で、時間の無駄遣いだ。

 彼に何度も言った、時間は有限だという言葉を実行するために、僕は急ぎ足で会場を後にしたのだった。

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命の時間差 箕田 はる @mita_haru

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