マイネーム イズ シャンプー

Mari

*

浴室乾燥機の風が暖かい。



あ、どうも。

シャンプーと申します。

1人暮らしの女の子の家の浴室に居座ってます。


今、洗濯物と一緒に浴室乾燥機の風を浴びているところです。


洗濯物の柔軟剤の香りがめっちゃめちゃに広がってるんよね。

女の子らしい香りのする柔軟剤や、これは似合う。


あの子の雰囲気にめっちゃ似合ってる、って何時も思ってます。



ところで聞いてほしい話があるんですけど、いいですか?


僕、今ね?恋してるんですよ。

あの子にかって?

いや、あの子は恋愛対象とかじゃなくて、僕にとってのご主人様っていうか。

ここに居させてくれて有難うございます本当に、って感じの対象なんですよね。


僕が恋してるのは、リンスの横に居るボディーソープさんなんですよ。


ボディーソープさんは僕より先にここに居た方なんですけど、僕の前に居たシャンプーさんの代わりに僕が入って。


で、前のシャンプーさんと一緒にリンスさんも居なくなっちゃったから、僕と同じメーカーのリンスも一緒に入ったんですけど。

僕と一緒に入ったリンスが何か性格が合わなくて。


店先に並んでた時はシャンプー仲間に囲まれてたし、まぁ何人かのリンスとも仲は良かったんですけど。

一緒に入ったリンスとはあんまり喋ったこともなかったし、フィーリングが合わなかったというか。


まぁ、誰が選ばれるかなんて運ですからね。

仲良い同士のシャンプーとリンスが買われてったこともあるから僕もそうなるかな、って思ってたんですけど...ってこれ以上言っても仕方ない事なんでそこはもういいんですけど。


更に気に食わないのはそのリンスがボディーソープさんにちょっかいをかけてることなんですよね。


ボディーソープさんは色気のある魅力的な大人っぽい方で、リンスもボディーソープさんの事が好きなのか何なのか分かんないですけど、絡みまくってるんですよね。



僕もボディーソープさんと喋りたいんですけど、リンスの向こうに居るし何より緊張するんだよなぁ。



まぁ、まだまだこれからも一緒に居る時間は長いだろうしゆっくり距離を縮められたらいいな。




「どうしよっかなぁ」



あ、ご主人様や。

隣のリンスのボトルを持ち上げて中身を確認している。


そっか、確かに僕もリンスも結構減って来たもんな。

後2プッシュ分くらいか?

そろそろ補充してくれるんやろう。


「もういっか」



ご主人様はそう言うとリンスのキャップを捻り始めてその後すぐにリンスの悲鳴が響き渡った。



排水溝へと消えていくリンスの悲鳴。



ちょっと待てよ。

何が起きてる?


空になったリンスのボトルは流水でじゃぶじゃぶと洗われ、暫くするとリンスの姿は跡形もなく消えていった。



えっ、この流れ...まさか僕もなん???

待って待って、僕まだ残ってるよ!!??

いや、まぁ、リンスも残ってたけど!!

まだ僕居るって!!

ここに居まーす!!!僕!!ここに!!居まーす!!!!


居まぁぁああああぁぁす!!!!!



僕の叫び声も空しく、ご主人様はシャンプーボトルのキャップを捻った。



ちょっと待って!!!

ねぇ、待って!!!!

早い早い早い早い!!!!

まだボディーソープさんと全然仲良くなれてないのに!!!


早過ぎない??ねぇ早過ぎない??!!



「今回のはイマイチだったなぁ...。リピはないわ」



ご主人様の声がする中、ボディーソープさんはどんな表情をしていたんだろう。


僕はその表情を見れる事もなく、排水溝へと消えていった。


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