第3話 たぶらかし
「この屋敷に娘御がおられよう」
「はい。お
「犬神さまが申された。その娘御に悪霊が
三郎左衛門は内心「ハッ」と思い至った。
そう言えば、一人娘のお里久は、近頃とみに
不安になった三郎左衛門は、悩んだ末、お里久を行者に預けることにした。
お里久にとっては、たまったものではない。若い娘特有の物思いに
行者が
「ほうれ、見なされ。娘御はよからぬものに取り憑かれ、狂い死にする一歩手前じゃ。発狂すれば首をくくるやもしれぬ。舌を
屋敷内は阿鼻叫喚地獄に陥った。
狂乱し、座敷や庭を逃げ惑うお里久は家の者に追い詰められ、井戸へと身を投げた。
だが、お里久は死ねなかった。下男の
ずぶ濡れで救出され、観念したお里久は口に布を詰め込まれて
そのお里久を引っ立て、「いざ、剣山の深山へ」と連れ去る行者。
以来、一年間、行者は加茂村に現れず、お里久の安否も確認する
三郎左衛門は激しい後悔と自責の念に
なにゆえに、あのとき得体のしれぬ行者なんぞに大切な一人娘を預けたのか――魔がさしたと言うよりほかないが、それにしてもあまりにも浅慮、あまりにも愚かな行為であった。
それとも、あのとき自分は行者のよこしまな呪術にかかり、一時的に分別を失っていたのであろうか。
わが罪の重さに煩悶し、眠れぬ夜を重ねる三郎左衛門の元に、下男の一人から急報が入った。
「旦那さま、大変にございます。あの行者が隣の三加茂村に現れました!」
三加茂村は、三郎左衛門の加茂村の屋敷から一里も離れていない。その三加茂村の名主である
三郎左衛門は行者を捕えて、お里久の行方を問い
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