想いの中のふとした『仕草』
御厨カイト
想いの中のふとした『仕草』
「ふぅ、……中々思いつかないな~。」
キーボードの上で全く動かない手にため息を吐きながら、俺はそう呟く。
頭の中には全く纏まっていないプロットに、自由気ままに動きまくっているキャラ達。
……あんまりにも無計画的過ぎて、そんな自分が笑えて来る。
「うふふ、今日も進まないの?」
そんな俺の様子を見慣れているかのように、彼女は軽快に話しかけてくる。
「はっ、うるさいな……。今日はたまたまだよ……。」
「一昨日もおんなじ事言ってたよ?」
「……頼むから楓ちゃん、もう俺のライフを削らないでおくれ。」
「アハハ、ごめんごめん。それで何か頼む?」
「うーん……、じゃあコーヒーお代わり。」
「砂糖とミルクはいつも通りで良い?」
「あぁ」
「分かった。ちょっと待ってて……。」
そう言い彼女はパタパタとカウンターへ向かって行く。
……やはり、この喫茶店は居心地が良い。
散歩中にふと見つけて、約3か月。
小説のネタで詰まってしまった時には、気分転換にここに来るぐらいには入り浸る様になってしまった。
それぐらいここの空気感が自分に合っているのだろう。
そんな事を考えながら、何も書かれていないテキストエディタをボーッと見ていると横からそっとコーヒーが置かれる。
「おぉ、ありがとう。」
「いえいえ、注文だからね。」
「それもそうか……、……うん、美味しい。コーヒー淹れる腕上がったんじゃないの?」
「ホント!?それは嬉しいな!」
「あぁ、コーヒー好きの俺を唸らせるほどだからな。」
「な~んだ、そんな甘々評価じゃ、本当か分からないな。淹れるコーヒーは苦いけど。」
「……誰が上手い事言えって言ったよ。と言うか、なんか俺の扱い酷くない?一応僕ココの常連だよ?」
「うーん、確かにそうなんだけど……、なんか修さんだったら良いかなと思っちゃうんだよね。」
「……なんじゃそりゃ。まぁいいや、……あ、そうだ、マスターの体調はどう?」
「おかげさまで快方に向かって行ってるよ。」
「それは良かった。」
「でも、いきなりどうしたの?」
「うん?あ、いや、マスターが倒れてから、楓ちゃんがこのお店を1人で切り盛りしてきているようだけど、やっぱり大変そうでちょっと心配してたからさ。マスターが戻ってくるようで一安心だよ。」
「……ふぅん、……心配してくれてたんだ……、……嬉しいな……。」
「ん?何か言った?」
「あ、うぅん、よく人の事を見てるなーと思ってね。」
「うん、まぁ、観察力に関しては自信があるからね。」
「その観察眼を小説に活かせられたら良いのにね?」
「グッ……、相変わらず痛い所を突いて来るな、楓ちゃんは。」
まるで苦虫を嚙み潰したような顔をする俺に対して、彼女は「アハハハハ」と軽快に笑う。
「あっ、そうだ、これ注文してたケーキね。」
一頻り笑った後、彼女はそう言いながら、1つのカップケーキを俺の前に置く。
えっ、俺こんなの頼んだっけ……?
……あれ?と言うかそもそもカップケーキなんてこのお店のメニューにあったっけ?
あ、もしかして他の人のと間違えてんのか。
……いや、今この店には俺しかいない……。
そんな疑問符を頭の中に浮かべながら、俺は楓ちゃんに声を掛けようと「あの、」と言いかけた時
ニッコリとウインクをしながら、人差し指で制される。
そして、その人差し指を自分の口元に持ってきて「しーっ」と言う仕草をする。
「いつも、このお店を御贔屓にしてくれるお礼です。」
そう少し頬を赤らめながら、彼女はカウンターの方へ帰ってしまう。
俺はそんな彼女の一連の様子に、呆気にとられながらも微笑みを零す。
どう考えても手作り、そしてハート型のカップケーキ。
そんなカップケーキがただの「お礼」な訳じゃないことぐらい俺にも分かるが……
そうして、カップケーキを一口。
……結構甘い。
でも、コーヒーと合わせたら良い感じだ。
……多分コーヒー好きの俺に合わせて作ったのだろう。
俺はそんな彼女の想いに微笑みながら、また一口カップケーキを食べ進めていくのだった。
想いの中のふとした『仕草』 御厨カイト @mikuriya777
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます