冷蔵庫に放置した煮物からクリーチャーが生まれた

喰寝丸太

そうして、産まれた

 いきなりだが、マンションの部屋ごと異世界転移した。

 窓から外を見ると、緑色の肌をした小鬼がうろついてる。

 やつら棍棒を持っていて凶悪そうだ。

 ついさっきも、角の生えたウサギを撲殺したところだ。


 外はまあいい。

 俺の状況を説明する。

 マンションの部屋ごとなんで、壁はもちろんある。

 うちのマンションは防音対策の為に壁が厚い。

 ちょっとやそっとでは穴が開かないようになっている。

 壁に囲まれているのは少し安心できる。


 窓にはなんと鉄格子が入っている。

 この階は1階なので、防犯対策の為に鉄格子がある。

 ベランダはない。


 立てこもるには丁度いい。

 建物はこんなところだ。

 問題は水道と電気とガスが止まっている事だ。


 早晩ここを出ないといけなくなるかも。

 食料は十分にある。

 米も買ってあるし、カップ麺もある。


 缶詰やお菓子の備蓄も十分だ。

 カセットコンロとガスボンベも十分ある。


 一二週間は大丈夫だろう。


 水を集めないと。

 俺は小型の冷蔵庫を開けて、ペットボトルや酒を取り出した。

 冷蔵庫に食材はない。

 カップ麺やお茶漬け以外の自炊はしないからな。

 ご飯は炊くが、おかずは外でもっぱら買っていた。


 ウォーターサーバーのタンクも取り外したので、かなり水は持つだろう。

 俺は救助を待つ事にした。


 そして、一週間。

 家の周りがうんこだらけになった時、俺は旅立つ決心をした。

 臭かったからではない。


 いいかげん現実逃避を辞めたのだ。

 救助は来ない。

 異世界だものな。


 異世界救助隊みたいな存在はいない。


 保存食はまだ十分ある。

 俺はナップザックに食料や野営に役立ちそうな物をいれた。


 さあ、出発するぞと思った時、冷蔵庫から音がした。

 何だろ?


 開けてみる事にした。


 もわっと霧が冷蔵庫から出て臭気があふれ出た。

 やばい。


 何か入ってたっけ。

 ああ、そうだ。

 大家さんからの差し入れの煮物が入ってた。


「嘘だ!」


 放置した煮物が蠢いている。


「クリーチャーが生まれている! おいおい、勘弁してくれよ。異世界やばい」


 クリーチャーは茶色く濁った透明な本体にオレンジと赤と黄色と青と黒のぶちが混在した色をしていた。

 形はスライムだ。

 それも丸いのではなく平べったいのだ。


「ぷきゅ」


 何だこの可愛い声は?

 こいつ人に馴れたりするのかな。


「おい」

「ぷきゅ」 


 話し掛けると返事があった。


「出て来い」


 そう俺が言うとプラスチックの容器から出てきて、部屋のカーペットの上で丸くなった。

 おっ、スライムっぽい。

 何か食うかな。

 煎餅を差し出すと触手みたいな物を出して食べ始めた。


 意外に可愛いな。

 姿はあれだが。


「ハウス」


 そう言ってみた。

 クリーチャーは冷蔵庫の中に入って扉を閉めた。

 こいつの家は冷蔵庫なんだな。

 こいつの家も持って行ってやらないと可哀そうだ。


 キャリーカートに冷蔵庫を固定した。

 扉は開くようにしてだ。


 そうだ。

 名前を付けてやらないと、煮こごりに似てるから、コゴリ。


「お前の名前はコゴリだ」

「ぷきゅ」


 俺は異世界に足を踏み出した。

 しばらく歩いた時に、あの小鬼がやってきた。

 こいつらはゴブリンと呼ぼう。

 ゴブリンは俺を見ると棍棒を振り上げて襲い掛かってきた。

 パタンと冷蔵庫の扉が開き、コゴリが飛び出してあっという間にゴブリンを捕食した。

 うわっ、コゴリって強いな。

 コゴリが蠢くとなんと人間の形をとった。

 髪の毛は光る茶色を基調としてオレンジと赤と黄色と青と黒のメッシュが入った姿で、目は灰色。

 性別は女だ。


 コゴリは少女の形からスライムの形に戻り、冷蔵庫に収まった。

 そのうち言葉も喋れるようになるんだろうか。


 とにかくコゴリが居れば俺は生きていけそうだ。

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