閑話 ニエル賞、暴君の目覚め

 フランスのロンシャン競馬場は生憎の雨が降りしきっていた。そんな中でゲート前に6頭立てで行われるニエル賞が幕を開けようとしていた。


 主戦騎手の池川を下ろしてアンオーリブは今季世界リーディング3位のジョッキー、A.ホームアローを迎え入れてニエル賞の出走が決まったということに日本の競馬ファンの賛否は分かれていた。しかし、当日、アンオーリブは・・・以上だった。




「な、何だ!?」


朝目覚めるとともにオーリブの調教師、梶原は目を疑っていた。いつも厩舎内ではおとなしく調教ですら調子が以上に悪い雰囲気だが・・・今日だけは違っていた。


「・・・目が・・・いや、馬体が・・・」


馬体がいつもよりも大きく、そして輝いて見えていた。その雨の中に見えた目は威圧を超えていた。この後、凱旋門賞から中2週間で菊花の冠を強奪したというのは別の話。




『さぁ、ゲートインが完了しました。凱旋門賞へ弾みをつけろアンオーリブ!さぁ、ゲートが開いたっ!!』


日本のラジオ実況がフランスの雨空を抜け日本に伝えられていく。


 走り始めていく3歳有力馬たち。その筆頭のアンオーリブ。そして、アラブからの刺客であり、来年のサウジCの最有力馬ノーザンブレイク。そして、ハナを切っていくの英国ダービーを18馬身で勝った。日本のディープインプラクション産駒の牝馬ムーンファール。


 そして、中国からは劉叛。ドイツからはバグロコウゲン。そして、アメリカの三歳王者サンデーローズ。その先の世界を見る者が最初の400mの直線を駆けていく。そして目の前には2.4mの急坂を駆け巡る。




 その坂の登りで一気に縦長になっていく。先頭の劉叛から最後尾のアンオーリブまでは約16馬身程。上りきってそこからだったのだ。フォルストレートに差し掛かる直前にオーリブが一気に追い上げを始めていく。


 追い込みのスピードはあまりにも異常だった。直線手前で差し馬、追い込み馬が一気に仕掛けていく。


 それと同時に逃げ馬や先行馬も直線に向けて貯めてきた二の脚を使って一気に行くはずだった。




 その瞬間、尾花栗毛の馬体が有り得ない勢いで足音を響かせていく。




 不良馬場であり、雨の中に一刀両断するように、逃げ、先行の馬を切り裂いていく。




 荒々しくそして、繊細な動きを世界のホースマンに見せつけていく。




 その差はアタマ差だった。しかし、その差は気が付けば3馬身と半馬身の差が残り10mで生まれている。




 気づけば真っ白な世界。雨音を切り裂く音。




 ニエル賞の結果は異常だった。日本馬は不良馬場に弱いというのを覆していた。




 アンオーリブは、暴君。それが世界にしめすことになるのは別の話。

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白金の王、豪脚を轟かす。 くうき @koooodai

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