誕生日おめでとう



「ほら早くしなさい!.......ごめんね?千颯ちゃん先に行ってて」




「分かった」


固いローファーに足を通し振り返る。

今日は大切な予選の日。別に勝てても嬉しくない。

何をしても、どれだけ褒められても、



話してても聞いてても食べてても寝てても。

何も感じない。



「お、お姉ちゃんおはよう!今日は予選頑張ってね…!私一番に応援してるから…」


「ありがとう琴音。でも今日は予選だよ?私が負けるわけないよ」


「そ、そうだよね!ごめんね」


玄関に響く鈴を鳴らしたかのような可愛らしい声が響く。どたどたとうるさく準備をする両親とはまるで違う世界を二人だけで生きているようだった。何も悪いことなんて言っていないのだからもう少し堂々としていればいいものを…


「千颯ちゃんごめんなさいね!遅れちゃって、ほら琴音…お姉ちゃんの荷物くらい持ってあげたら?本当に気の利かない子…」


「あっ……」


「…母さん、会場に着いたらウォーミング入るから早くいこ??」


「!!えぇ。そうね。お父さん、早く車を_____]



車に揺られ、人間のゴミのような母さんに冴えない顔で普通に不倫してる父さんのために少しの間、お祈りしてやるのだ。早く死ねますようにって。私も早くこんな人生終わらせたい。

隣を見ると琴音もまたつまらなさそうに揺られていた。景色に色なんてない。生きている意味なんて、もっとない。



「それじゃあ、客席から見てるからね。コーチにもよろしくね」


「琴音、行ってあげなさい」


「う、うん」


「ふふふ、頑張ってくるから期待しててよね!」


受付を済ませて通路を歩く。

いつも大会では琴音を側近に置く。母さんはうるさいし監督を困らせる。父さんは静かだけど気が利かないから。


「琴音、ごめんね」


「…え?どうしたの?」


「…母さんがうるさいのって私のせいだから…」


「そんなことないよ!私が何やっても駄目だからお母さん怒らせちゃってるんだよ…」


「すぐ練習終わらせてくるから。.....また迎えに来て」





更衣室の前につく、予選のため知らない制服の学生が行き来している

服を脱ぎ競技用の水着に着替える。予選は恐らく楽勝だろう。

勝ってどうするのだ。このままでいいのか。私の人生は…



「「よろしくおねがいします!」」



生ぬるい室内。水の音、何も聞きたくない。

いつものように部長の号令から部活が始まった。



....何もできないと、何でもできる。どちらがいいのか。答えは後者だ。何もできないのほうがいいに決まっている。これからたくさん学べる、怒ってもらえる。いいじゃないか、できなくたって。いいじゃないか、私じゃなくたって。



「ちゃ……お……」


「……」


「お姉ちゃん!」


「!!こと、ね…」


「どうしたの?さっきから全く私の話きいてない…」


「ご、ごめん!えっと、あれ、私、練習…」


「何言ってるの?さっき終わって迎えに来たところでしょ…?」


「……」


「飲み物を買いたいっていうから…」


「あぁ…」






そうだったか…


「お姉ちゃんが元気ないと....私心配だよ…」






なぜ





「お姉ちゃん?」





……






「千颯?」



そう、私はお姉ちゃんじゃない






横断歩道






コンビニ




信号




可愛い妹












「琴音、今から私が何をしても」


「許してね」


何もできない琴音






「また一緒にお昼寝したい」




虚しい人間の皮をかぶった化け物(私)





「あと、なんだろう」


「なんなんだろう」


「私も琴音みたいに、綺麗になりたいの」





私を




「私を見て。才能じゃない、何も考えられない私をみて」






「もっと琴音と居たい」





「愛してるの」


「いいよ」








「…っ」


身体を押される









「え」











四肢に激痛と衝撃が走った________






アイディアリクエスト提供:奏瀬

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それでも愛シテル〜ss集〜 ガンジー @soreai

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