第2話

 クローゼットから白い半袖シャツを取り出すと、久々に手を通し、ボタンを留める。


 それから、ひかえめな色のチェックのスカートを履き、胸元にこれまたチェック柄のタイを結ぶ。


 高校このの制服を着る自分の姿にもたいぶ見慣れた 8月後半ー



 椅子に置いていた通学用の黒いリュックサックを背負うと、私は玄関に向かった。


〝いってきまーす。〟


 誰も居ない室内に向けて、そう一人声を放つと、飛鳥あすか 沙良さらは自宅玄関の扉を開けた。


 冷房がよく効いていた室内とは対照的に屋外は全くの無風状態でムワッと水分を多量に含んだ気持ちの悪い空気がそこにはよどむようにただよっていた。


 誰もこのんでこんな日に積極的に外に出たい人間なんていないだろう。私だって、勿論そうだ。


 自宅マンションの部屋の鍵を掛け、マンション共有部の通路を数歩ほど歩くと、エレベーターのボタンを押した。


 まだ家を出て五分とも経っていないのに、ジンワリと汗ばんでくる。


 暫くして来たエレベーターに乗り込むが、エレベーター内も、言わずもがなに暑い。


 こんな日にエレベーターが故障した際には、確実に熱中症間違いなしであろう。とー


 どうでも良い考えを巡らせていると、エレベーター内にある階を表示する電光掲示の数字が〝1〟になり、エレベーターの扉が開いた。


 エレベーターから降り、マンションのエントランスを通過すると、雨に濡れないようにと簡単ではあるが配慮されている水色のトタン屋根が付いた自転車置き場へと向かった。


 この自転車置き場は、ここのマンションの住民であれば、誰でも自由に置けるようになっている。


 だから、個人の所定の場所が決められてる訳ではなく、自転車が無造作に乱雑に停められている。


 その中から、自分の自転車を見つけると自転車自体に付いている鍵と、それとは別に盗難防止用に購入し、付けているナンバー式の鍵を外すと自転車に跨った。


 自転車のペダルを一度漕げば、先程の無風状態とは打って変わって少しは風がそよぐ。


 とはいえ、漂う空気自体が多量の水分を含み、暑いのであるのだから、高が知れているのだが、幾分かはマシだ。


 こうして、街路樹がいろじゅは植わっているものの、コンクリートだらけの住宅地の中、10分ほど自転車をげば、私の通っている高校に着いた。


 校門を抜けるとすぐ左側にある自転車置き場に自転車を止め、鍵を掛けると、昇降口へと向かう。


 普段なら生徒達でにぎわいを見せるこの昇降口も今日が、夏休み中であることもあって誰一人として居ない。


 生徒と言えば、校庭でサッカー部が練習していたのを通りぎわに見かけたくらいなものだ。



 直射日光が遮られた昇降口は、屋外よりは幾分か涼しかった。


 それは、直射日光が遮られた所為だと自分なりに簡単に解釈する。


 蒸れたローファーを脱ぎ、まだ自身の熱が移らずに、ひんやりとした上履きに履き替えると、目の前にある階段を上った。


 渡り廊下を渡って右奥にある図書室に向かう。


(ほんと、あっつい。)


 私は通学用にしている黒色のリュックサックの肩紐を片方だけ肩から外し、それを前側に持ってくると、中から黒と白のギンガムチェック地に薄ピンクのハートが描かれたハンドタオルを取り出した。それで額から吹き出す汗をぬぐう。


 き終わると、タオルを片手にとどめたままリュックのチャックを閉じ、再び背負う。


 リュックと背中との間でツーゥと一筋の汗が流れ落ちるのを感じた。


 汗で、制服の白シャツが肌に張り付き、とても気持ちが悪い。


 それでも、そのまま暫く歩みを進めると、沙良さらは、ようやく目的地の図書室の引き戸の前に着いた。











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