第13話

 目が覚める。いつの間にか毛布にくるまり眠っていたようだ。陽の光を反射して輝く金色の髪が目に入る。のたのたと立ち上がり、空いている場所に座った。


「おはよう……リア。よく眠れたか?」


 そう聞かれ、私はフィルに頭を下げる。


「すまない、どうやら私は酒に飲まれてしまったようだ。どうやって寝床にはいったのか。……というか街を出たあたりから記憶がないんだが……。昨日フィルに世話をかけてしまったか?」


 頭を左右に揺らしながら思い出そうとするが思い出せない。あまり人のことは言えないな。おそらく飲みすぎたのだろう。当分酒は控えなければ。


「大丈夫。可愛いリアが見れたので」

「なっ!? 私はいったい何をしたんだ」

「んん、秘密だ」

「フィル!!」

「フィルもリアも本当に恋人ではないんですか?」


 じーっとこちらを見ながら朝ご飯を進めるミィが聞いてきた。


「違う。私が好きなのはフィーリアだ!」

「オレは好きなんだけどねー」


 ほぼ同時にミィに答える。フィルが寂しそうにこちらを見ていた。


「いや、フィルの事が嫌いとかそういうわけではなくて」


 ゴニョゴニョと小さな声でフォローらしき言葉をかける。フィルは「わかってる」と笑っていた。


「リアはもしかして大予言者フィーリアが好きなんですか!?」

「え、あ、そう……」


 そう、彼は過去の魔法使い。今は生まれ変わってフィルになっているそうだが、過去では未来視の力で人々を導く大魔法使いとして有名だったそうだ。


「そうですよね。この魔女の溢れる世界を予言したすごい魔法使いですもんね。かっこいいですよね!」


 ミィが自分のことのようにフィーリアの説明を始め鼻高々としていた。


「ミィもフィーリアの血を受け継ぐ者として恥ずかしくない魔女に……すごい魔女になるんです!」

「血を受け継ぐ?」


 私はミィを改めて見る。ボサボサの銀色の髪、色素は薄いが赤い瞳……。


「はい。ミィには大魔法使いフィーリアの血が流れています! だから本物の魔女になれたんですよね」


 フィーリアの子孫?

 彼は結婚していたのか。しかも子どもまで……。

 そうか、残念だ。好きになった人にはもう好きな人がいたのか。


「あ、その目は信じてませんね。フィル!! でも、これが大おじいちゃんの証拠なんですからね!!」


 ミィがロケットペンダントを開けて見せた。古いものだ。

 中にはフィーリアの顔らしきものが彫刻されていた。


「これに手をかざすと血縁なら色が浮かび上がるんです」


 そう言ってミィが見せてくれる。上から下に色が広がり銀色の髪と赤い瞳が浮かび上がる。


「フィーリア……」

「リアが好きだって言うから特別ですよ。また見たかったら言って下さい」


 パチンとすぐに閉められ、フィーリアの顔は見られなくなった。


「そうか、ありがとう」


 そういうことか、フィーリア。私達にミィを引き合わせたのは諦めさせるためなのだな。


「待て待て、ちょっと待て」


 フィルが慌てて話に加わってくる。


「フィーリアは独身のまま亡くなったはずだぞ? 記録にもそう残っている」


 フィルはミィがフィーリアの子孫であることを否定する。


「でも、お母さんからずっと聞かされてきましたよ。お母さんのお母さんもだって」


 フィルに否定されミィは泣きそうだ。


「フィル、記録の上だけで恋人はいたのかもしれないぞ? あれだけ美しい男だ。女も放ってはいないだろう?」

「いや、フィーリアは子を成してなどいない。どういうことだ」


 むしろ、フィルがなぜそこまでフィーリアの子孫を否定するのかが私にはわからなかった。

 いまのフィルにはまったく関係がないはずなのに。それどころか、恋敵でもあるのだから。子や愛する人がいたと私に諦めさせる切っ掛けになるというのに。


「なんと言われようともミィはフィーリアの子孫です。あ、もしかしてこれがお母さんから聞いていた運命の出会い!? 使命を果たす旅なのかもしれません」

「使命とは?」

「えへへ、それはフィーリアの血を受け継ぐ者の秘密です」

「そうか」


 フィーリアはフィルに何か願いを残したようにミィにも残しているのだろう。私にはこれっぽっちも言葉をくれなかったのに。


「やっぱり納得出来ない。ミィ、もう一度さっきの見せてくれ」


 フィルはペンダントを見せて欲しいと懇願したが先ほどの様子からミィに不信感を与えたのだろう。


「ヤです!! これはもうリアにしか見せません」


 となって、


「なら、リア! ミィに見せるようにお願いしてくれ」


 と、言ってきたので私は、


「嫌だ」


 と答えてフフッと小さく笑った。

 未来読みフィーリアともあろうものがミィとのやり取りをフィルに伝え忘れてなんてないよな?

 納得しきれない様子のフィルを見て再び笑いが込み上がりそうになる。


「なぁ、フィル。次の街はどんなところだ?」

「え、あー、確か――」


 諦めたようにハァと息を吐いたあとフィルはいつも通りの表情で話し出す。

 冷たそうな銀色の髪、血のような赤い瞳のせいか冷徹に見えたフィーリアと太陽の光みたいな金色の髪、その陽に温められた湖のような青い瞳で温和に見えるフィル。

 全然違うのに、私は少しずつ温かな陽だまりに手を伸ばしたいと思いだしている。

 なぁ、フィーリア。貴方はどこまで見ていたんだ?

 思い通りに私の気持ちが動いてる。そう思わせたくなくて、フィルには絶対に教えてやらないけどな――。


「ミィ、海は見たことないです!」

「お、そうなのか。リアは?」

「森の中で育ったからな。海なんて物語の世界だ」

「そうか。ならまずは街の美味しい魚料理屋からだな」

「ははは、知ってるのか? フィル」

「知ってるぞ。あとは海で泳いだりも出来る場所があるぞ」

「ほう」

「ミィもやってみたい!!」


 さっきまでの雰囲気は一変し、楽しそうだ。

 ふと、自分の右手薬指にリングがはまっているのに違和感を持った。あれ、私はここに指輪をつけていたっけ?

 しげしげと指輪を眺めているとフィルが言った。


「それ、今回の支払い分だ」

「あぁ、そうなのか」


 銀の台座に小さな赤い宝石がついていた。まるでフィーリアみたいな指輪だなとぽつりと呟いた。


「いつか、反対の手にもオレから指輪を贈るから」

「ん? そうなのか。じゃあ、これはフィルからではないのか?」

「いや、オレからだ」

「?」

「リアきれいです!」

「そうか。おい、フィル。ミィにも何かないのか」

「え、あー。なら、次の街で有名な海の宝石をミィにも贈ろう。真っ白でキレイなんだ」


 私はフィルとミィの会話に耳を傾けながら、指輪を反対の手で包みこんだ。


「ありがとう、フィーリア」


 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で彼に伝えた。


◇◇あとがき◇◇


こちらで魔女レマリアのお話は一部完となります。

運命の恋コンテスト用に書いた物語、どうでしたでしょうか。

読んで応援してくれた方、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

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私は最後の魔女、あなたは魔女の処刑人? 花月夜れん @kumizurenka

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