「女性スペースを守る運動」に群がる醜怪な人たち。

「女性スペースを守る運動」に群がる醜怪な人たち【上】

森奈津子氏と絶縁した。


LGBTに関する問題を教えてくれたのは森氏である。このノンフィクションを多くの人に紹介してくれたのも森氏である。二年以上、森氏と私は共に闘ってきた。森氏がいなければ今の私はなかったかもしれない。そんな森氏と――絶縁した。


      *


森氏との亀裂が初めて現れたのは昨年の六月――理解増進法が成立する直前だ。以降、関係の修復に努めてきた。しかし、言葉を重ねれば重ねるほど亀裂は深まり、ついに決裂した。


その結果なのだ――ある匿名掲示板で森氏が中傷を始めたのは。


「千石さんだって好きで統合失調症なったわけではないし、本当に、精神の病気って残酷ですよね。

あの聡明な千石さんが、妄想・妄言の発信地となってしまうとは……。脳内の神経伝達物質のせいで、あんな状態になってしまうとは……。」

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16818023212936537832


この書き込みは、森氏による中傷の一つである。


何かの間違いではないか――そう思う人もいるだろう。しかし森氏で間違いない。後述するが、その証拠は全て押さえてある。では、


――なぜ、こんなことになったのか?


順を追って説明してゆく。読者らは判断してほしい――このような文章を書く者が統合失調症なのか。


       *


森奈津子氏――および、「女性スペースを守る会」の顧問弁護士・滝本太郎氏は今も煽動し続けている。


「手術要件がなくなれば、男性器のある〈女性〉が女湯に入ってくる。」


この主張に、実を言えば私は引っかかっていた。


たとえ〈法的女性〉であっても、男性器をポロンと女湯で晒して法的に本当に問題はないのだろうか。


すると、こう反論する人がいるはずだ。


「欧米諸国ではそうなったではないか。男性器のある〈法的女性〉が女湯に入ったり、十二歳の女の子を暴行した〈法的女性〉が女子刑務所に送られたり、女子スポーツが奪われたりした。他ならない――そのような事例を紹介し、警鐘を鳴らしてきたのは貴方だ。」


その通りである。


しかし、様々な事例を調べるうちに引っかかりは深まっていた。


イギリスでは、二〇〇四年に〈性別変更〉が認められた時点で手術要件はなかった。一方、〈法的女性〉を女子刑務所に入れさせると政府が決定したのは二〇一一年――性適合に基づく差別を禁止する「平等法」が成立した後だ。しかも、「女性への加害のおそれがあると審査された者は除く」とされていた。


しかし、この審査基準はザルだった。結果、性犯罪で有罪判決を受けた〈法的女性〉まで収監される。二〇一六年には、〈法的性別〉変更していない男性の収監も認められた。そして二〇一八年、性犯罪者の〈法的女性〉が女子刑務所内で暴行事件を起こす。


また、二〇一五年には、トイレ使用に関する訴訟がアメリカで起きた。


原告は、バージニア州で〈性別変更〉した身体的女性だ。訴訟の内容は、「男子トイレの使用不可は差別を禁止する州法に違反する」というものだった。


同年、バージニア州連邦地裁は訴えをする。しかし翌年、連邦控訴院で逆転勝訴となった。アメリカ連邦最高裁判所が原告の訴えを認めたのは二〇二一年のことだ。


もしも〈法的性別〉の変更のみで使えるようになるのならば、このような訴訟は起きない。


欧米諸国で拡がった混乱は、「性自認に基づく施設を使わせろ」と主張する様々な運動や訴訟が根強く続いたために起きたのだ。


では――「女装男が女湯に入っても合法になる日」は来るのか?


もし来るとしても、「手術要件の撤廃」が引き金となるのではない。それに、「女性専用施設の使用は〈法的女性〉の権利である」という判決が出たり、「〈法的女性〉を女性として扱わなければ差別だ」という法律ができたりした時のはずだ。


そのような役割を担いかねなかったのが、野党の提案した「差別解消法案」だ。これは、「に基づく差別を禁止する」ものである。


一方、位置づけが難しかったのが、与党の提案した「理解増進法案」だ。こちらには、「に基づく差別はあってはならない」という理念が掲げられていた。


「性同一性」も「性自認」も同じ意味―― Genderジェンダー identityアイデンティティ の訳である。「We」 という単語を「我々」と訳すか「私たち」と訳すかの違いしかない。


この理念の下に、「理解増進の施策」を行なうのが理解増進法だ。教育機関・事業主・行政は、政府が決定した計画に基づいて、当事者への相談の機会の確保・研修・啓発などを行なわせなければならない。


理解増進法の最大の問題は、「立法事実がないこと」――作る必要性がないことに尽きる。


何度も述べた通り、性的少数者への差別を受けたり、理解の必要に迫られたりすることなど、少なくとも私はなかった。いや、私だけではない。むしろ、過剰に気を遣われる時代が今なのだ。


普通、このような法律を作る場合、当事者の実態を調査した上で基本方針ガイドラインを事前に定めるものだ――障碍者差別禁止法のときのように。しかし、二〇一九年に「当事者の働きやすさ」について厚労省が統計を取った(そして、大きな問題は見当たらなかった)以外に公的調査はない。


(この統計結果については、拙稿「厚生労働省の調査結果から見えたもの」を参照のこと。https://kakuyomu.jp/works/16816927860040342257/episodes/16816927862083407186


そもそも、「LGBT」という概念を前提として法律を作るべきではない。性同一性障碍と同性愛を同じ括りで語ること自体が妙なのだ。


森氏は今もこう主張している。


「LGBT活動家は、LGBTの代表ではない。」


なぜ――この言葉が出るのか?


それは、同性愛者の活動家たちが、性同一性障碍の苦しみを自分の苦しみのように語っているからだ。


もし、保守派・右派のゲイたちがこの文を読んでいるならば、私は問いたい。貴方たちは、少なくとも以下の理由で怒っていたはずではないのか? と。


「お前ら左翼活動家たちは、辛いだの苦しいだのと言っているが、それは性同一性障碍の苦しみであって、同性愛者の苦しみじゃない。こんな寛容な国に生きていながら、何が辛いんだ? 俺たちは辛くないし、お前らと同じ存在だとも思われたくない。」


かつ、次の通りのはずだ。


「男性器のある者を『女性』扱いしなければ差別だ――と騒ぐのは、そんな妙な詭弁を出さなければ『LGBTへの差別』が見当たらないからだろう。だが、それは差別ではないし、ましてや『ゲイへの差別』でもない。」


では、さらに問いたい。


――LGBT活動家団体に受注を出し、教育現場や職場で啓発に当たらせる必要はありますか?


これには、言い淀むかもしれない。


他ならない――そのような政策を批判してきたのが、彼ら右派のゲイたちであり、森氏であり、私なのだから。


――それどころか。


右派ゲイたちは、次のような投稿を繰り返しては数百/数千の「いいね」をもらっていた。


「ゲイだけどLGBT活動家が嫌いです」

「LGBT活動家は当事者の代表ヅラするな」

「日本は寛容な国」

「外国人のゲイが日本に来るたびに寛容さに驚く」

「差別なんかない」

「LGBT活動家が開いている講演は差別ビジネスだ」


このような投稿を、森氏は何度「いいね」したり、リツイートしたりしたのか?


森氏は、「差別はない」とまでは言わなかった。しかし、「LGBT活動家に利権を与える法律は不要」「LGBTへの差別を禁止する法律が出来たら女湯が潰れる」と何度も主張した。


「理解させなければならないこと」を浮かび上がらせた公的調査はない。それなのに、「理解させる」法律が作られようとしている。ならば、左翼活動家の喚き立てる「不理解」を「理解」へと変える法律ではないかという危惧が生まれる。


なお、理解増進法案それ自体は、「身体的男性が女性専用施設を使えるようになるもの」ではない。ただし、複数の条件が重なった場合は一定の危険をはらむ。


例えば、「身体的男性の女子トイレ使用は、女性の理解を得た上で行なわせる」と基本計画ガイドラインに書かれた場合――女性たちに「理解」が押しつけられる可能性は高い。(この懸念は、理解増進法通過後の経産省最高裁判決で実現した。)ましてや、は言うまでもない。


なお、二〇二三年の五月十日――滝本太郎弁護士は産経新聞の取材で、「理解増進法には直接的な強制力はないが、を解釈する上で影響を与える」と答える。そして、女性専用施設の利用に関し、身体的男性を女性として扱わなければ差別だとも読めると主張した。


後から考えれば、「他の法律」とは特例法のことだったのだろう。四か月後の違憲判決に理解増進法が使われると分かってに滝本氏は立ったのだ。


一方、理解増進法に好意的な者もいた。


その中心人物は、理解増進法の「提案者」――繁内しげうち幸治こうじ氏である。


繁内氏はゲイであり、一般社団法人「LGBT理解増進会」の創設者だ。理解増進会を立ち上げる以前はエイズ予防啓発の団体を運営していた。


一時期、エイズ予防啓発はゲイ活動家の飯の種だった――厚労省の助成金を目当てに多数の団体が作られていた。しかし、エイズの鎮静化で助成金が減らされる。


繁内氏が理解増進会を作ったのは二〇一五年だ。


その年の六月――宝塚市の自民党市会議員が、同性愛者に対する不適切な発言を行なう。結果、地元のLGBT団体と同和団体が激しい抗議を行なった。


このとき仲裁に立ったのが、穏健派の同和団体と深い関りを持つ繁内氏である。


繁内氏は上手く問題を丸め込んだ。そして、その市会議員のツテで、当時の自民党政務調査会長・稲田朋美に接近する。政務調査会は翌年、「性的指向・性自認に関する特命委員会」を立ち上げた。繁内氏は、そのアドバイザーに就任する。


ゲイ活動家の冨田とみたいたるは、二〇一七年に繁内氏を取材した。


理解増進法が成立すると何が起きるのか――繁内氏はこう答える。


まずは予算がつく。その予算を遣い、「全国津々浦々あまねく公平に」啓発が行なわれる。自治体にも責務規定がある以上、「しない」という選択肢はない。最初から同性婚を政府に要求することは難しい。しかし国を挙げて啓発すれば、欧米以上の成果が将来は得られるだろう――と。

https://life.letibee.com/interview-lgbt-jiminto_02/


理解増進会のホームページには、「LGBT研修の講師派遣をしています」とある。


「当会の代表理事や理事などを全国に講師派遣しています。

当会の研修・講演は、与党案として成立する可能性が高い『LGBT理解増進法(仮)』をベースにした当会にしかできない内容で、各府省庁での職員研修の内容を踏襲しています。政治やイデオロギーに偏りのないどなたにも安心して受講して頂けるものと考えております。」

https://lgbtrikai.net/


実を言えば、繁内氏と私は二年半前に顔を合わせていた。


二〇二一年・八月――森氏の招待で、理解増進法について語るZOOM会合へと私は参加する。主催者は、アライアンサーズ株式会社(資本金300万円)の代表でありゲイである久保くぼわたるだった。


久保氏は、「LGBT高齢者が共同生活できるシニアハウス」(!?)を作る活動を行なっている人物だ。その実現のために、左派LGBT団体「パープルハンズ」の北村浩と活動していた時期もある。


当時、繁内氏のことを私は深く知らなかった。


会合には、久保氏・繁内氏・森氏の他、LGBT活動団体「芙桜会ふおうかい」代表・近藤こんどうさとる、そして、松島圭や、女装家の「るり」など、ツイッターで名の知れた右派ゲイが参加していた。


繁内氏は、「理解増進法は、LGBT活動家をコントロールするものだ」と力説する。出席者たちは熱心に耳を傾けていた。近藤聡は、「どうしたらLGBTが生き易い世の中になるんだろう」と考え込んだ。


その雰囲気に私は戸惑った。


LGBT活動家を批判している人々が集まっているのだ。ならば、LGBT活動家を批判する話が始まるはずではないのか。いや、そのような話も少しだけしたが、「コントロールする」という繁内氏の説法に吸収される。(なお、コントロールするのかは最後まで説明がなかった。)


――これは一体どういう状況なのだ?


狐につままれたような気持ちで会合が終わる。


法案を私は読み返した。


確かに、「政府が作成した基本計画に基づいて施策を行なわせる」とはある。だが、問題点は、基本計画の中身が全く見えないことにあるのだ。


「政府のやることなんだから大丈夫だろう」と迂闊に信じるのは危うい。そうでなければ、森氏のことを迂闊に信じた私と同じことになる。実際、「コントロール状態とは何か?」という肝心のことを繁内氏は説明しなかったのだ。


それから長い間、繁内氏は私の前に姿を見せなかった。結果、「コントロールする」という言葉は空論として私の中で忘れ去られる。


しかし、の思惑は、私の周りにずっと張り巡らされていたのだろう。


二〇二二年・六月――理解増進法とほぼ同じ内容の条例が埼玉県で成立する。


埼玉県の「多様性条例」は理解増進法のひな形プロトタイプだ。複数の点(「性同一性」が「性自認」になっている点など)を除けば内容的に同じである。提案も賛同も自民党だ。


右派ゲイたちは、この条例を激しく攻撃していた。森氏もまた、「女子トイレが潰れる」「不適切な教育が子供に行なわれる」と批判する。


「女性スペースを守る会」も反対運動を展開。「『性自認』が法令化されると女性の権利が侵害される」「身体的男性が『女性である』と表明すれば女性スペースを使えるようになる」と声明を発表した。


もちろん、この条例は私も批判した――問題点は理解増進法と同じなのだ。


しかし、「女性スペースを守る会」の声明は破綻していた。条例で法律は破れない――教育基本法や戸籍法を突破できるわけがない。


同年・十二月――手術要件の訴訟が最高裁大法廷に回付される。


その三年前――二〇一九年にも、手術要件の合憲性は最高裁小法廷で争われていた。結果、「社会的な理解が追い付いていない」ことを理由に「現時点では合憲である」と判決が下る。最高裁大法廷への回付は、それが覆る可能性が高いことを意味した。


翌・二〇二三年の二月――荒井秘書官が不適切発言を行なう。これを受け、理解増進法案の整備を岸田首相は指示した。具体的な調査もなく、指針も定められず、国民的な議論も党内の意見調整も出来ないまま理解増進法は成立へ向かいだす。


四月四日と五月一日――滝本氏の主催する記者会見に森氏と私は出席する。


この二つの会見を、「LGBT法案に反対する会見」だと多くの人は思っていたはずだ。私もその認識だった。産経新聞もまた、「性的少数者団体が会見『LGBT法は不要』」という見出しで報じていた。


ところが、会見の正式な名前は「反対する会見」だったのである。


会見前のZOOM会議で私は疑問を述べた、「性同一性障碍特例法によって、性自認はもう法制化されているのでは?」。しかし、「問題となるのは性自認だから」と滝本氏から一蹴される。


そして実際の記者会見では、肝心の部分を森氏は曖昧にした。LGBT活動家の暴走については述べたが、LGBT法とどう関係があるかは言及しなかったのだ。


五月二十三日――『人権と利権』なる本を森氏は緊急出版する。その中では、colabo 問題からLGBT問題に至るまで、人権を利権にする社会活動家たちがこき下ろされていた。


LGBT問題に危険を感じる人が多い中、『人権と利権』は一時的に Amazon ベストセラー1位となる。


ここで確認したい。「利権」の定義とは何か? デジタル大辞泉で検索すると、こう出てくる。


「利益を得る権利。特に、業者が政治家や役人と結託して獲得する権益。」


事態が急変したのは、理解増進法成立の十日前――六月六日である。


このとき、LGBT法は三つの案が並立していた。


危険性が少ないのは、維新・国民案だと考えられた。ゆえに、滝本氏の提案で共同声明を出すこととなる――「理解増進法は廃案とすること。どうしても成立させる場合は、維新・国民案にある『ジェンダーアイデンティティ』を『性同一性』と修正して可決すること」と。


声明の詳細についてはZOOMで話し合った。「ジェンダーアイデンティティ」を「性同一性」に変えても同じではないかという意見は某大学教授からも出ていた。しかし、「成立する可能性が高いから」と滝本氏はお茶を濁す。


会議の最後、声明者名の記載方式について議題が移る。


森氏が、「白百合の会は削除していただけますか?」と言ったのはその時だ。「理解増進法は活動家をコントロールするものという繁内幸治さんの意見に賛成しますので。」


――あれっ? と思ってしまった。


それまで、「しげうち」の四音節でさえ森氏から聞いたことはなかった。ましてや――その理屈を信じている人がいることさえ初めて知った。いや、問題はそれだけではない。


――会としての意思を、なぜ私が今、知らされた?


だが、「これは、直して成立させてくださいというものだから」という滝本氏の言葉で森氏は抑え込まれる。


唖然としたまま会議は終わった。


やがて私は、「まさか『自民党だからいい法律を作ってくれるはず』と思ってる者はないだろうな?」とツイッターに投稿する。


すると、森氏周辺の右派ゲイたちから、「この法律は活動家をコントロールするためのものだ」と絡まれ始めた。私だけではなく、その他の理解増進法反対派にもネチネチと彼らは絡んでいた。


しかし、立法事実を否定していたのは彼ら自身である。


だからこそ、「理解が足りないから理解増進法が必要だ」とは決して言わない。「活動家をコントロールするために理解増進法が必要だ」と言う。


しかし、「コントロールされた状態とは何か」には決して答えない。突っ込んだことを尋ねると、「LGBT条例が地方で次々と作られてるのに対案はあるのか」などと話をはぐらかす。


中には、「日本はアメリカの植民地なのだから、LGBT法を作れと言われたら作らなければならない。理解増進法が成立しなければ差別解消法が成立する」とスペースで言い切った者もいる。


だが、日本のLGBT法などアメリカの国益にはならない。


圧力があったのは国際連合からなのだ。


二〇一九年、国連「子供の権利員会」は、様々な少数者マイノリティ(特に性的少数者)に対する差別軽減の措置(教育・啓発など)を行なうよう我が国へ勧告する。これに対する報告書は、二〇二四年十一月までに提出しなければならなかった。


また、国連人権理事会からは「手術要件は人権侵害」と何度も勧告を受けている。二〇二三年一月にも、「性的少数者への人権を保護し促進する法整備」「手術要件の撤廃」を要求され、「慎重を要する」と日本政府は回答した。


六月九日――自民党が、維新・国民案をほぼ丸呑みする。結果、「安心にこと」などという条文が加えられた。


これを受け、理解増進法に対して森氏は賛意を表し始める。周囲からは、法案の修正によって意見を変えたように見えたかもしれない。だが、先に述べた通り、その三日前から(あるいはそれ以前から)森氏は賛成していた。


一方、世論は反対に傾いてゆく。


女性専用施設の問題もさることながら、この法律は立法事実がない。ゆえに、「理解増進の施策」によって税金が動くことへの批判や疑問が噴出する。


繁内氏は、その少し前からツイッターを始めていた。しかし、当然ながら批判に晒される。


そんな繁内氏を森氏は擁護した。曰く、「LGBT活動家の横暴を阻止すべく繁内氏は戦ってきた」「成果を上げたら利権云々のデマを流すのか」「繁内氏が利権を得ているならば、協力していた私にも経費が支払われていたはずだ」と。


当然、私は繁内氏を批判しづらかった。しかし、ある故人に侮蔑的な言葉を吐いたのを見て我慢できなくなる。「利権など事実無根です」と言う繁内氏の投稿に対し、先に紹介した冨田格の記事のスクリーンショットを挙げて問いかけた。


「繁内さん、これは貴方の言葉ですよね? 『LGBT理解増進会代表理事』『LGBT理解増進法提案者』と bio に書かれている方がそれを言いますか?」

          (@Sengoku_Kyouka, 2023.06.11, 20:51)

繁内氏はこう答える。


「何も問題はありません。新法では新たな予算はつかないが毎年の人権教育、啓発予算の範囲内で予算がつきます。それを使って自治体、学校でさまざまな取り組みが行われます。」

           (@5h7iAyQPmIKDSdA, 2023.06.11, 21:57)

拍子抜けした――反論するならば、「私の元には1円も来ません」だと思っていたのだ。


繁内氏には、それまで以上の批判が殺到する。「学校から職場に至るまで啓発が行なわれるのに『新たな予算がつかない』ということが本当にあるのか」「予算をつけるにしても、その必要性がどれだけあるのか」と。


だが、「新たな予算はつかないから大丈夫だ」と言うばかりで、支出の必要性について繁内氏は何も答えなかった。結果、ますます非難が寄せられる。


予想外の集中砲火に晒された繁内氏は、やがて、吹っ切れたように私に絡みだした。


「皆さんお金お金ばかり気になるのですね。そんなに規定の報酬を得て行う活動が気に食わないのですかね?」

「一般社団法人が報酬を受けて事業をしてはいけないと言う法的根拠を示して下さい。よろしくお願いします。」

「わが国では一般社団法人が正当な対価を得て事業をすることは違法でしたか?」

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16818023212727820608


私はゲラゲラ笑っていた。


しかし、翌朝のことだ――LINEを通じて森氏からメッセージが入ったのは。


「他者を批判するときはきちんと証拠を押さえてから批判するようにお願いします」「千石さん、繁内さんから名誉毀損で訴えられるかもと聞きました」「繁内さんは実名で活動をされています。開示請求をされたら千石さんの情報が開示される可能性があります」


思わず首をかしげる。


何が名誉毀損になるのだろう――。理解できる人はいるだろうか。いないはずだ――繁内氏への批判を森氏が不愉快に思ったことは理解できても。


森氏との摩擦を避けるべく、「繁内氏のことはもう言いません」と私は返信した。そうするうちにもネチネチとクソリプを繁内氏は送り続けていたが無視を決定する。


だが、困惑は消えなかった。表現の自由のために戦っていたはずの森氏が、なぜ、訴訟をチラつかせて他人の口をふさごうとするのか。


繁内氏が暴言を吐いたのはさらに翌日だった。


一日中クソリプを送り続けていた繁内氏であるが――ある人とのやりとりの中で、私を指してこう言ったのだ。


「心が病んでるから意味不明なんですよね。早く休養した方がいいんだけどね。」

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16818023212727867600


唖然あぜんとして、この発言について森氏に問い合わせた。さすがの森氏もあきれ、「彼の周囲の方々にチクり入れておきますね(原文ママ)」と返信する。


ツイッターでは繁内氏に非難が再び殺到した。結果、繁内氏は鍵垢となる。


釈然としない思いは深まっていた。


なぜ、こんな人物をかばうのか。庇うにしても、なぜ今まで私に何も話さなかったのか。まさか森氏も利権目当てなのか――そんな考えすら頭をよぎったのだ。


だが、別の可能性も考えられた。


というのも――森氏は左派LGBT活動家だったのだ。二〇一六年より前の発言は、「何でも差別と騒ぎすぎ」と今の森氏が批判する人々と大差ない。右派に接近しだしたのは、性自認主義と「しばき隊」によってLGBT運動が浸蝕されてからだ。


それは、松浦大悟も冨田格も同じである。松浦大悟などは、アメリカ国務省主導のLGBT研修プログラムの洗礼を受けた左派活動家だ。松浦の著書『LGBTの不都合な真実』には、アメリカのLGBT運動を絶賛する文章が次々と出てくる。


そんな松浦も、理解増進法に元は好意的だった。しかし、どういうわけか六月には反対に回ったらしい。それは、次のツイートからも判る。


「自民党のダメダメなLGBT理解増進法案が可決見込みなのかあ。これほどバッチをつけていないことが悔やまれることはない。女性の皆さん、ご愁傷様。あとは自己防衛を。」

         (@GOGOdai5, 2023.06.06, 19:45)

六月十五日――参議院内閣委員会に滝本氏と森氏が参考人として呼ばれる。


そして、を行なった。


このとき、「理解増進法ではなく差別解消法を通せ」と左派は騒いでいた。なので理解増進法に対し、「このような法案にして下さり大変ありがとうございました」と述べたのだ。


【滝本】「差別というのを『不当な差別』と表現することによって、活動家の一方的な差別主義者だという糾弾闘争・差別糾弾闘争をできにくくしたものですから、言論の自由が守られることとなり、ありがたいと考えています。」


【森】「残念ですが、LGBTに対する差別・偏見はいまだに存在します。LGBTに対し、恐怖心を抱く人もいます。そのような方々に対し、LGBTに関する正しい知識を身につけていただくよう試み、『すべての国民の安心』を理想として何がいけないのでしょうか?」


同日――越境性差トランスジェンダーの弁護士・仲岡しゅんが一つの動画をツイッターでさらす。


「こんなの見つけたんですが、これは本当でしょうか?

もしこの会話が本当なら、理解増進法とは誰かの金儲けの話ということになりかねませんが。

なお、私も自治体でお話することはありますが、こんなふうに組織だった動きでは全くありません。

https://www.youtube.com/watch?v=gDcZ4VmpQ7k」

         (@URUWA_L_O, 2023.06.15, 1:35)

それは、「スペース」での会話の録画だった。


動画では、発言者のアイコンにボカシがかかっている。一人は、「法律が出来た後にセミナーの仕事が入る」「まあまあの富を手に入れる」「マニュアルを読むだけの簡単な仕事」と放言した。


彼が久保渉であることは誰の目にも明らかだった。その事実は、様々な間接的・直截的証拠からも確認できる。(久保氏がある人に送ったDMのスクリーンショットも押さえているが、一応は公開しないでおく。)


翌日、理解増進法が可決した。


森氏は大喜びし、「理解増進法が成立して左翼が発狂している」「理解増進法によって左翼の潰滅が始まる」とツイートする。挙句、こんなことを言い始めた。


「LGBT理解増進法が成立したので、ぶちまける。LGBT活動家が理解増進法に急に反対しはじめたのって、たぶん、予算に関する条文がないのに気づいたから。あれで新たな予算はつけられず、これまでの人権予算の一部でLGBT関連施策を行うだけ。LGBT活動家の今までの利権が削られるのだと、私は聞いてます。」

         (@MORI_Natsuko, 2023.06.16, 12:37)

――予算に関する条文がないから予算が削られる?


何だ――その理屈は。「聞いています」とは誰から聞いたのか。


なお、それから二か月半も経たないうちに男女共同参画局(内閣府)が予算倍増を要求する。うち、理解増進に関わる予算は七千万円増額されていた。


一方。


LINEのほうでも森氏の発言は妙になってきた。私に対し、理解増進法に反対してきた女性たちと関わるなと言いだしたのだ。そのために、彼女らの短所を一つ一つ挙げて「倫理的に問題のある人たちだ」と罵倒した。


当初、私は話を合わせていた。


だが、理不尽な思いが許容量を超えだす。


「倫理的に問題がある」と言うが、森氏の周りの男性は何なのか。耐え切れず、そのことを指摘した。すると、繁内氏の暴言は私の「言いがかり」が悪いと言いだしたのだ。そして、繁内氏が利権を得ているという妄想に駆られてデマを流していると非難した。


この時の詳細は割愛する。なぜなら、やがて読者も目にするからだ――どんな風に森氏が私を責め立てたのか。


一つだけ先に述べておくと、。それは、一連のLINEメッセージに証拠として残っている。


議論に疲れた頃――「これ以上、繁内氏を批判し続けるのであれば、白百合の会を退いてからしてください」と森氏は言った。


白百合の会を退くことを私は選んだ。これから起こることについて繁内氏への批判は不可避だ。繁内氏のことがそこまで大切ならば、森氏に迷惑をかけないためにも退会する他ないだろう。


なお、連絡会のメンバーとして残るか否かは滝本氏と話し合うことを私は提案した。だが、森氏からは断られてしまう。結果、運動からは身を退くこととなった。



というか、のだ――「女性スペースを守る運動」という茶番劇において滝本氏と繁内氏は恐らく連動していたのだから。


(続く)

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