7.厚生労働省の調査結果から見えたもの。

二〇一九年、性的少数者の「働きやすさ」について厚生労働省が調査を行なった。結果、四割の性的少数者が「困りごと」を職場で抱えていると報告される。


これを受け、ゲイ活動家の松岡宗嗣は『LGBTの約半数が職場で困難。国が初めて職場のLGBT実態を調査』という記事を書いた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20200509-00177658


すなわち、「性的少数者は雇用の現場で不利益を被りやすいため、就業継続が難しくなり、心身に支障をきたすこともある」という。しかし、「当事者の困難が見えにくいため、企業による取り組みは進んでいない」のだそうだ。


その「困難」を書き出せばこうなる。


【プライベートの話をしづらい】

・LGB 15.2%

・T 21.8%


【異性愛者として振舞わなければならない】

・LGB 12%


【自認する性と異なる性で振舞わなければならない】

・T 22.8%


そして、「性的少数者をネタにした冗談・揶揄を見聞きしたことがある」と答えた者は、L・G・Bが19.2%、Tが24.8%だった。そのような冗談や揶揄を本人が経験した確率は、Gは11.9%、Tは8.9%である。


松岡はこう書く。


「メンタルヘルスについても、過去30日間で『神経過敏』『絶望的』『自分は価値のない人間』など感じたかという問いに対し、すべての項目でLGBTの当事者は非当事者に比べてメンタル不調の割合が高い傾向もみられた。」


本当かよ――というのが正直な感想だ。


性的少数者へのハラスメントなど私は見聞きしたことがない。いや、全体の二割程度しか経験していないのだから当然か。


「困りごと」とやらも、「プライベートのことが話しづらい」「異性愛者として振舞わなければならない」など、「そんなに困るのか?」と首を傾げることばかりだ。しかも、それぞれ12%と23%なのだから、あまり高い割合とも言えない。


そんなことで、性的少数者のメンタルが不調になるのか。


そもそも、両性愛者は異性も愛することができるので、同性パートナーがいない限りは異性愛者と変わりがないのではないか――とも思う。


実際に、厚生労働省の調査を当たってみた。


『職場におけるダイバーシティ推進事業について』

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/0000088194_00001.html


調査は三種類――事業主に対して行なわれたもの、異性愛者の労働者に行なわれたもの、性的少数者の労働者に対して行なわれたものだ。性的少数者は11万7千179人が回答した。内訳は、レズビアンが1607人、ゲイが3254人、両性愛者が1379人、越境性差トランスジェンダーが487人、性的指向・性自認が「その他」の者は2646人である。


まず、カミングアウトの割合であるが、L・G・Bのいずれも一割以下であった(レズビアン9%、ゲイ6%、両性愛者7%)。越境性差トランスジェンダーは16%であり、「その他」については5%である。


【カミングアウトの割合】(なお、公文書に著作権はないため、そのまま引用した。)

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340015830


カミングアウトした理由について、調査ではこう出ている。


【カミングアウトすることになった理由やきっかけ:複数回答可】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340039817


見ての通り、「セクシュアリティを偽りたくなかったから」が五割程度、「職場の人と接し易くなると思ったから」が三割程度、「性的少数者に理解のある職場だと思ったから」が二割程度、「特に理由はない」が四割程度――それ以外の理由を答えた人は、越境性差トランスジェンダーを除けばほぼない。


恐らく、言ってしまった方が上司や同僚との会話がスムーズになると思った・言っても問題がないと思ったから言った――というパターンが大多数ではないか。


ところで、カミングアウトすることはそんなにもいいことなのだろうか。


活動家は、「LGBTはカミングアウトできない!」「ゲイは『いないもの』にされている!」と大騒ぎしている。


だが、性に関することは個人の最も重要なプライバシーだ。また、そのようなことは対人関係上ほとんど影響を与えない――ましてや仕事には何の関係もない。「いないものにされている」のではなく、言わないのが普通なのである。


この程度が「いないものにされている」のなら、統合失調症だったにもかかわらず「うつ病は色々な種類があるからねえ」とか「暇だからなるんだ」とか言われていた私は何なのだ。「いないものにされている」のは精神障碍者ではないか。


カミングアウトの少なさを活動家が喚き立てるのは、それが欧米のマネだからだ。


差別が激しいキリスト教国では、市井に生きる性的少数者を巻き込んだ戦いが行なわれた。また、「ゲイは女みたいな男」とか「不道徳な存在」とかと言われてきた中、「同性愛者は、あなたの隣にもいる普通の人だ」ということを知らしめる必要があった。


しかし、カミングアウトした理由について、「社内での理解や、制度新設を推進したかったから」と答えたのは、越境性差トランスジェンダーと「その他」を除けばゼロだ。


カミングアウトによって起きた変化も調査されている。


【カミングアウトによって起きた変化:複数回答可】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340068046


見ての通り、七割が「特に変化はない」と答えた。


一方で、「希望しない形で配置転換や異動があった」「賃金や昇進などで不利を受けた」が、一割から二割ほどある。ただし、「希望する形で配置転換や異動があった」も、同じくらいの割合で存在する。


「カミングアウトすることによって」「希望する配置転換や異動があった」とは何なのだろう。まさかとは思うが、「俺は男が好きだから男の多い部署にしてほしい」と言ったのだろうか。


正直、カミングアウトはあまり関係がなかったのではないかと思う。ただ、そのような条項が解答欄にあったからチェックを入れただけの可能性がある。


なお、「職場の人から苛めや嫌がらせを受けるようになった」は、越境性差トランスジェンダーの3.6%を除けば、みな零パーセントだ。


いつのことか、「ゲイだとカミングアウトした結果、股間を触られるなどの激しい苛めを職場で受けるようになった」という記事を読んだことがある(本エピソードを書くために探したのだが、見当たらなかった)。あれを読んだとき、「性的少数者うんぬん以前に、この職場自体が問題ではないか?」と思ったものだが――やはりそうだったのだ。


「今の職場で見聞きしたことのあるハラスメント」と「今の職場で自分自身が経験したことのあるハラスメント」についても調査されている。


なお、この調査は異性愛者も回答した。


【見聞きしたハラスメント・経験したハラスメント】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340101034


二つ前のエピソードで紹介した「性的少数者やその周りの六割がハラスメントを見聞きしている」という松岡の主張は、これが元ネタだったのだ。


だが、「見聞きしたことのあるハラスメント」の調査は、「性的少数者をネタにした冗談を言う」を除いて性的少数者を攻撃したものではない。性的特質セクシュアリティを問わず、「容姿や外見に言及する」「望まない身体接触をする」などのハラスメントを見聞きしたことがあるかという問いなのだ。


また、この調査で回答している人々を「性的少数者の周りの人」と言うことは(どのような場所にも性的少数者がいるといえど)印象操作に他ならない。


「自身が受けたハラスメント」の割合でさえ、性的多数者の方が時として多い。それどころか、「性的少数者であることをネタにした冗談を言う」の割合は、ここに連ねられたハラスメントの中では相対的に低い。


性的少数者だけの問題ではなく、労働問題全般として考えるべきだ。


一方、「性的少数者であることで困ること」とは何であろうか。


【性的少数者であることを理由に困っていること】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340134682


六割が「何も困っていることはない」と答えた。「困っていることがある」と答えている人も、人によりまちまちで一概には言えない。強いて言えば、「異性愛者として振舞わなければならない」「プライベートについて話しづらい」がやや大きい傾向にはある。


「L・G・Bの四割が職場で困難を抱えている!」と言えば、深刻な問題があるように聞こえる。しかし、松岡を始めとした活動家が絶対に取り上げないのが、次の調査結果だ。


【職場で不快な思いをしたことや働きづらくなったことがきっかけで、心身に重大な不調が生じたり、通院したり、仕事を長期間休んだ経験】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340166427


驚いたことに、性的少数者の方が「心身に不調が生じたことはない」と答えた割合は多かったのである。ゲイに関して言えば、「心身に不調が生じ、通院したり仕事を長期間休んだ」割合は異性愛者の半分だ。


また、「今の職場が働きやすいと感じる」「これからも今の職場で働きたいと思う」と回答した割合も、「その他」を除いて性的少数者の方が多かった。


【今の職場が働きやすいと感じている・これからも今の職場で働き続けたいと思う】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340206615


言うまでもないことだが、どのような属性であれ、「不自由なこと」を列記していけば、当てはまる者はいくらでも出る。それが、どの程度「働きにくさ」に影響するのかは全体像を見なければならない。ところがその全体像では、性的少数者の方が「働きやすい」という結果が出た。


一方で、精神医療メンタルヘルスの問題はどうか。


【過去三十日間で、「神経過敏に感じた」「絶望的に感じた」「落ち着かなく感じた」経験】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340228459


【過去三十日間で、「何が起きても気が晴れない」「何をするのも骨折りだと感じた」「自分は価値のない人間だと感じた」経験】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340250552


【総合得点】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340269294


総合得点について言えば、確かに、L・G・Bのほうが一割ほどネガティヴな結果を出している。この原因は何なのであろうか。


先ほどの「職場で不快なことがあって心身に影響が出た割合」は、性的少数者のほうが低かった。そうなれば、職場が原因ではない可能性が高い。


これに対し、「同性愛者に対する差別的な雰囲気が原因」と持ってゆくことも可能であろう。しかし、様々な可能性を検討せねばならない。


まず考えられるのは、同性愛者同士の関係だ。同性愛者であることを正面に出して行動することは、同性愛者の社会しか基本的にない。


パートナーシップのあの壊滅的な利用状況を思い出してほしい。なぜ、あそこまで利用率が低いかと言えば、利用しても何の恩恵もないこともそうだが、同性同士の関係が不安定だからだ。


また、後の章で述べるが、自閉症連続体スペクトラム障碍の当事者は異性愛者ではない確率が高いと報告されている。実際、同性愛者たちと集まって話せば、発達障碍やその傾向にある者が比較的多い事実に気づく。このあたりも関係していないだろうか。


また、他にも見逃せない調査結果がある。


【配偶者・パートナーとの関係】

https://kakuyomu.jp/users/Ebisumatsuri/news/16816927862340298122


驚いたことに、だったのだ。


活動家の中には、「周囲の圧力で同性愛者は無理やり異性と結婚させられている!」と主張する者がいる。しかし、厚生労働省の調査でこのような結果が出ていながら、なぜ活動家は黙り込んでいるのか。


実は、強制でも何でもなく、そのような選択をする同性愛者は古くからいたのだ。


ある古参のゲイなどは、「既婚ホモって昔から多いのよ」と言っていた。「え、夜の関係はどうなるんですか?」と問うたところ、「勃起は普通にできると言ってました」「子供が三人いるとかも珍しくないです」「色恋と結婚は別物らしいです」と答えていた。


実際、代理母出産も同性婚も認められていない現状で、同性愛者が子供を持ちたいと思ったら結婚するしかない。そもそも、「他人の子宮や精液を借りて子供を産みたい」「子供がどう思おうが構わない、同性パートナーと育てたい」と考える方が異常だ。


このあたりの事情は、『ジャックの談話室』の「女性と結婚したがるホモ」「ホモの夫に理解を示す妻たち」に詳しい。そこには、多くのゲイが「女性と結婚したい」と活動家の集会で答えたという驚きの事実や、世界的に見ても決して珍しくない事実も紹介されている。


興味のある方は次のリンクを参照のこと。


「女性と結婚したがるホモ」

https://jack4afric.exblog.jp/24165826/


「ホモの夫に理解を示す妻たち」

https://jack4afric.exblog.jp/24422662/


ただし、ここに書かれている例は男性視点だ。女性が抑圧されている社会において、男性と結婚させられるレズビアンがいることや、ゲイの不貞に付き合わされている女性がいることも忘れてはならない。

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