LGBT理解増進法が衆議院を通過。

令和五年六月十三日、LGBT理解増進法が衆議院を通過した。


この法案により、女子トイレや女湯などの女性スペースに身体男性が入れるようになるのではないか――と危惧している人も多いであろう。


結論から言えばその可能性は「低い」。それに歯止めをかける条文が組み込まれたのだ。ただし、手放しで安心はできない。また、そこに至るまでの経緯は非常にグダグダなものであった。


どういうわけか、理解増進法の成立を岸田首相は急いでいた。最初は、国際的なイベントであるG7の前に成立させる予定だったようだ。しかし、G7の後も妙に急いでいる。


五月十二日、既存の法案に修正を加えたものが自民党内の会合で事実上諒承された。主な修正内容は、「差別は許されない」を「不当な差別はあってはならない」に変えたことと、「性自認」を削除して「性同一性」に統一したことなどだ。


当然、この修正にはあまり意味がない。どうあれ、女性スペースに関する規定がこの法案にはない。また、「性同一性」も「性自認」も共に Gender Identity の邦訳である。


ただし、「性自認」が「性同一性」へと変わった過程は重要かもしれない。実際、「性同一性」とは、性同一性障碍特例法で遣われている言葉と同じものだという主張もある。法案成立後、もし女性スペースに関する裁判が起きた場合、立法の過程を汲んで裁判官は判決を下すだろう。


五月十六日、修正した法案について自民党は公明党と合意を取る。


五月十七日に行なわれた自民党内の会合では、保守派議員から反対・慎重意見が次々と上がった。しかし、幹部側が強引に議論を打ち切ってしまう。


五月十八日、自民・公明党は理解増進法を衆議院に提出する。同日、立民党・共産党は、あの危険すぎる差別禁止法案を衆議院に提出した。


そして五月二十六日――国民民主党・維新の会が、さらに独自の「理解増進法」を衆議院に提出する。ここに来て、三つのLGBT法案が同時に提出される異常事態と相成った。


国民・維新案の「理解増進法」は、自民党案を基本ベースにしたものである。


大きく違うのは、「性同一性」という言葉が全て「ジェンダーアイデンティティー」という横文字に置き換えられていたところだ。つまり、「性同一性」とも「性自認」とも解釈できるようにしたのである。


しかし、この法案には、まだ評価できる部分もある。


まずは、性的多数者の安心に留意する条文が組み込まれたところだ。


「【措置の実施等に当たっての留意】

第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。」


これは、女性スペースに身体男性を入らせないようにするためのものだ。


ただし、あまりにも言葉が弱すぎる。何しろ「留意する」だ。これは「気にかける」という意味である。望ましくない解釈が生まれる危険もある。しかも、必要なのは「安心」ではなくて「安全」だ。最低でも、「安全を乱してはならない」くらいでなければならない。


また、学校教育における条文では、「保護者の理解と協力」「心身の発達に応じた教育」などの言葉が挿入されることとなった。


「【事業主等の努力】

第六条2 学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する学校をいい、幼稚園及び特別支援学校の幼稚部を除く。以下同じ。)の設置者は、基本理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関するその設置する学校の児童、生徒又は学生(以下この項及び第十条第三項において「児童等」という。)の理解の増進に関し、保護者の理解と協力を得て行う心身の発達に応じた教育又は啓発、教育環境の整備、相談の機会の確保等を行うことにより性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する当該学校の児童等の理解の増進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策に協力するよう努めるものとする。」


一部の日本の学校では、女装俳優ドラッグクィーンを小学校に連れてきたり、同性愛者の性交についてLGBT活動家が教えたりするなどの事実が既にある。ゆえに、そのような過激で危険な教育を抑止する目的がある一文だと言える。


だが、どの程度の効果があるのか。


今までも述べた通り、LGBT教育の結果、自分を越境性差トランスジェンダーだと考える子供たちが欧米では爆発的に増えた。イギリスのタビストック医院では、性別違和を持つ子供のうち35%が自閉症連続体スペクトラム障碍だった。


そもそも、「心の性」というものを誰が説明できるのだろう? 誰にも説明できないのだ。それなのに、「性同一性の多様性を啓発せよ」と言う。まさかとは思うが、社会的な性役割ジェンダーロールを指して「心の性」と言うのか。それでも、保護者が納得するときは納得するだろう。ましてや――性別違和と発達障害との関連性は、ほとんどの国民には知られていないのだ。


国民・維新案では、「民間の団体などの自発的な活動の促進」という言葉が削られた。


だが、自民・公明案であれ、国民・維新案であれ、全国各地で啓発活動が行なわれ、教育現場にも職場にも「相談の機会」が確保される。LGBT活動家がそこに入ってくるのは当然だ。


理解増進法の提案者は、ツイッターで私にこう言った。


「何の問題もありません。新法では新たな予算はつかないが毎年の人権教育、啓発予算の範囲内で予算がつきます。それを使って自治体、学校で様々な取り組みが行われます。」


どうあれ、政府くにが音頭を取って、自治体・教育現場・職場に至るまで「理解増進」のための税金がジャブジャブ遣われることには変わりがない。


「性同一性障碍や同性愛者もこの世にはいる」という高々それだけのことを教えるために、そこまで税金を遣う必要があるのだろうか?


ましてや、「多様性への理解増進」のためにゲイを学校に呼ぶ必要があるのだろうか? いや、ないのだ。もし教えるのならば、保健体育の教科書にでも書けばいい。あとは先生が教える。


六月九日、盛大なちゃぶ台返しを岸田首相は行なう。


つまり、国民・維新案を、自民・公明案に大きく取り入れることを決定したのだ。そして、それを衆議院内閣委員会で決議した。多数者への配慮・学校教育での配慮を取り入れたのはいい。しかし、「性同一性とはジェンダーアイデンティティーのことだ」という文まで入れてしまった。


国民・維新案を大きく取り入れたことに、自民党内では大きな反撥が上がる。そうでなくとも、この法案は自民党内からの反撥・懸念が大きかった。様々な異論が党内から上がる中、岸田首相は党議拘束をかけた――つまり、強制的に賛成するように指示したのだ。


結果、十三日に衆議院で可決される。


参議院内閣委員会での審議は十五日、参議院での審議は十六日である。

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