5.代替案としてのパートナーシップと改憲。
日本国憲法が作られたとき、「結婚」という言葉には一つの意味しかなかった。
いや――「結婚」の意味など今も一つしかない。同性婚とは、同性同士の関係に結婚(異性婚)をなぞらえたものだ。
結婚を定義することは、性別を定義する。
どうあれ、有性生殖を前提とした制度が婚姻だ。子供を持たない夫婦は、必然的に生まれる例外だと言える。その例外を同性カップルにまで拡げたとき――何が起きるのか。
少なくとも、性同一性障碍特例法から「未婚要件」は撤廃されるだろう。同性同士で特別養子縁組が認められた場合、「未成年の子なし要件」の撤廃にも関わってくる。
「未成年の子なし要件」撤廃にしろ、同性カップルの養子縁組にしろ、子供には多大な困惑を与える――有性生殖の結果として彼らはいるのだから。
異性カップルであろうとも、赤の他人が親となることは難しい。それが法的に認められている理由は、(ある程度は自然に)親子関係が擬制できるからだ。しかし、同性カップルの場合、自然には存在しえない親子関係を擬制させられる。
もちろん、同性カップルにも法的権利を保障しなければならない。それについては、国制パートナーシップで対応すべきだ。
同性愛と異性愛には歴然とした差異が存在する。それは、(客観的には)両性愛者である私が長く感じてきたことでもあった。
結婚は、周囲に関係を打ち明け、それを長く継続させるものだ。しかし、殊にゲイに関して言えば、別れ易さも、関係性を周囲に打ち明けたいかも違う。
当然、同性婚の問題は憲法にも関わる。
憲法二十四条にある「婚姻」とは異性結婚を意味する。私が危惧していることは、憲法が捻じ曲げられ、正常な機能が奪われることだ。そうでなくとも、憲法に対する国民と国家の意識は破綻しかけている。
一方で、同性婚賛成派への譲歩も私は考えている。
どれだけ私が反対しても、国民感情が同性婚に傾く場合もある。読者の中にも、「著者の言うことはもっともだが、同性婚を認めた方が幸せになれる人がいるのでは」と思う人もいるだろう。
だからこそ、以下の条件がある場合は譲歩も考えている。
①結婚とは違う形で「同性婚」を設計すること。
②特例法の未婚要件と特別養子縁組を「異性婚」に限定すること。
③憲法を改正すること。
同性婚を作る方法は二つある。
一つは、「結婚」の定義を変えること――つまり、異性婚と同性婚を完全に同じにすること。
もう一つは、結婚の定義を変えずに、別の枠で「同性婚」を作ることだ。この場合、異性カップルと同性カップルの差異を鑑みて同性婚は設計される。
二〇一九年・五月――台湾(中華民国)では同性婚が認められた。
中華民国憲法には、婚姻に関する規定はない。
重要なのは、台湾で作られた同性婚は、結婚とは違う枠で法制化されたところだ。従来の民法には全く手が付けられていない。
同性婚を成立させた蔡英文政権は進歩派だ。しかし、保守派との対話と交渉を欠かさなかった。
中華圏では、「婚」と「姻」の意味は違う。「婚」は「二人の関係」を意味し、「姻」は「一族のつながり」を意味する。熟語で例を挙げれば分かり易い――「結婚」「求婚」「事実婚」、「姻戚」「姻族」「姻親」など。
台湾の同性婚では、当事者の二人を除いて家族関係は作られない――他の血族とは親戚関係を結ぶことができない。どちらかと言えばパートナーシップに近い――「婚」ではあるが「姻」ではないのだ。これは、漢族の伝統文化に配慮した措置である。
また、養子を取る権利は、当事者に連れ子があった場合のみだ。つまり、第三者の子供を養子とすることは出来ない。
日本で同性婚を作る場合、「婚ではあるが姻ではない」形態を採る必要は特にない。だが、既婚者の戸籍変更の問題や、養子縁組の問題などを考えれば、結婚と同性婚は分ける必要がある。
また、別枠で作るとしても憲法改正は必要だ。
同性婚推進派の中には、憲法二十四条にある「両性」を「両人」に変えるべきだ主張する人がいる。この案に私は反対だ。それでは、「結婚」という言葉の定義を変えることと変わりない。(そもそも、それに続く「夫婦」という言葉はどう変えるのか。)
アイルランドで行なわれた憲法改正のように、二十四条に第三項を創設するべきだ。
【第二十四条 改正私案】
第三項「同性における結婚関係も、同様とする。」
当然、やり方は一つだけでも、二つだけでもない。
同性婚の問題点や現在の状況を鑑みて、まずは国制パートナーシップを作り、国民の議論が熟してきたときに憲法改正を行なうという方法もある。
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