エピローグ・参考文献

エピローグ:「社会の守り手」。

本作を書く前、ある人からこう言われた。


「運動する者は社会の守り手でなければならない。」


当然である。松岡や遠藤は何をやっているのか。


――私は「社会の守り手」たり得ただろうか?


LGBTの問題に足を突っ込んだ契機きっかけは同性婚への反撥だ。しかし、同性婚を欲するカップルもいることも考えると、全否定することも躊躇ためらわれた。あくまでも「社会の守り手」である。伝統的価値観の守り手でも、意地の守り手でもない。


当然、養子の問題や憲法の問題など、同性婚を認めるとしても譲れない部分はある。しかし、もしも同性婚に反対するだけならば、私はこのノンフィクションを書かなかったかもしれない。


だが、LGBTの問題に深入りするうちに、越境性差トランスジェンダーの問題にも関わった。当然、それは私が当事者のことなのだ。しかし、女性スペースなど私は使ったことがない――まさかこうなるとは思わなかった。そこから、越境性差トランスジェンダーにされる子供たちや発達障碍のことへも足を踏み込んだ。


私はフェミニストではない。


いつのことか、「加害階級である男性がフェミニズムの理解者アライになれるわけがない」と言った人を見た。もしそれがフェミニズムの思想ならば、身体的にも社会的にも女性の扱いを受けない私がフェミニストになどなれるわけがない。


ただ――疑似科学やオカルトが嫌いなだけだ。LGBTの問題に関わる前は、ホロコースト否定論者や精神医学否定論者などと激しい舌戦を繰り広げていた。「アイデンティティが女性ならば女性」という思想も、それと同じ非科学的な態度でしかない。


疑似科学は時として社会に深刻な害悪を与える。あるいはそれ以上に、性自認主義は重大な人権侵害を世界中で引き起こしている。


私が社会の守り手となれるのかは分からない。しかし、虹色に覆い隠され、黙殺されてきた当事者の声を世間に広く伝えねばならないと思った。


だからこそ、あるレズビアンの方から「書いてくれてありがとう」と言われたとき、報われたと初めて感じた。


LGBTは男権運動である。


ゲイというだけで男性が弱者になることはない。ゲイが弱者になるのは、もう少し特殊な事情がある場合だ。越境性差トランスジェンダーの問題にしろ同じである。女性より優位にある男性が「私は女」と言った「だけ」で「弱者」になることはない。あるとすれば、その背後にある精神医学的な問題が絡んだときである。


そんな男権運動に対し、これ以上の特権はいらないと言うゲイがいるのは当然だろう。また、ただの男が「弱者」として祭り上げられる中、忍耐を強いられてきたのがレズビアンたちだった。それに留まらず、シスジェンダーの子供たちまで活動家はトランスさせようとしている。


社会の守り手ではない「LGBT」など、それこそ「生産性」がない。


「LGBT」は連帯のことだという。連帯する気がない私はLGBTではない。その一方、LGBT活動家に反撥する形で、四つの性的特質セクシュアリティを持つ人々が緩やかに連帯してゆくのも感じた。


以下、謝辞である。


――故・ジャックさま。


そちらのことを私は存じません。この文が届くかも分かりません。しかし、あなたのブログに私は救われました。「ジャックの談話室」に出会わなければ、この問題に私は関わらなかったか、関わったとしても遅くなったでしょう。虹臭い風潮ムーブメントの中で私が暗中模索していたとき、多くの資料を遺して下さったことに感謝しています。こちらのことは任せて下さい。活動家の横暴は必ず終焉させます。


――森奈津子さま。


男性当事者のことしか知らなかった私に、新たな問題を提示して下さり、多様な性的少数者と関わる契機を作って下さったのは森先生でした。本作を書くに当たっても様々な教示を下さり、ありがとうございました。特に、多くの方々に本作を紹介して下さったことは感謝に堪えません。


――ままかりさま。


性的少数者や発達障碍当事者の実態について教示を下さったことや、執筆中に起きた様々な問題についてアドバイスを下さったことなど、決して小さくなかった助力に痛み入ります。


――おすとらこん・つよしさま。


ゲイの子供が受ける苛めの実態についてお話を聴かせて下さったことについて、


――姫咲琴里さま。


GID当事者のトイレの利用などについてお話を聴かせて下さったことについて、


そして、白百合の会の皆様、性別不合当事者の会の皆様、ここに書くことのできない性的少数者の皆様、本当の意味での理解者アライの皆様、読者の皆様――全てに感謝しつつ、本作は完結させていただきます。


本当にありがとうございました。


(了)

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