4.同性婚と憲法を取り巻く諸国の事情。
同性婚について、ふと思い立って韓国語で調べた。
韓国には、「ナムウィキ」という大手ウィキサイトがある。そこでは、「同性結婚/争点」というページが丸々一つ作られており、同性婚賛成派・反対派の意見が詳細に紹介されていた。
さすがは議論好きな韓国人である――日本人のように、「ただ何となく」という理由で
ページには、「大韓民国法曹界の視点」という項目もあった。それによると、二〇一九年、進歩派の裁判官が憲法裁判所へ大量に入った時でさえも、同性婚に無条件に賛成したのは一人だったという。他の裁判官は、国民の意見がまず収集されなければならないという見解を示した。
なお、同性婚と矛盾する一文は韓国の憲法にもある。
【大韓民国憲法 第三十六条 第一項】
「婚姻および家族生活は、個人の尊厳および両性の平等を基礎として成立し、維持されなければならず、国家は、これを保障する。」岩波文庫『世界憲法集』高橋和之編
韓国の法曹界の一致した見解は、「両性」という言葉は、男性と女性のことに他ならないというものだそうだ。それについて詳述した記事も紹介されていた。
「同性愛を尊重するという憲法裁判官7人、同性婚賛成1人はなぜ?」
https://www.joongang.co.kr/article/23445289#home
「憲法学者の間では『婚姻と家族生活は個人の尊厳と両性の平等を基礎に成立する』という憲法三十六条一項に対して『婚姻を男女間の結合に制限したもの』という解釈と『同性婚も許容できる条文』という解釈が交錯する。
主流的な見方は前者の解釈だ。 延世大学法学専門大学院のイ・ジョンス教授は『現在、憲法解釈上の婚姻は男女間の結合と見るのが一般的』とし『憲法裁判官が同性愛(を認めるか)と同性婚(を認めるか)について異なる立場を明らかにしたのは自然』と話した。」(千石試訳。括弧内は原文にない。)
同性婚と憲法に関する議論が韓国でもあったのだ。
他の国でも同じ議論がないかと思い、同性婚が成立した国と憲法との関係も調べた。
結果、婚姻に関して憲法に何も書いていない国のほうが多数派だった。婚姻に関する規定がある国も、ほとんどの場合は同性婚と矛盾する言葉がない。
当然、そのような言葉がある国もある。
それがスペインだ。
【スペイン一九七八年憲法 第三十二条 第一項】
「男性と女性は、法的に完全に平等に結婚できる。」
にも拘わらず、二〇〇五年にスペインは同性婚を認める。同年、同性婚は憲法に違反すると六十一人の反対派議員が憲法裁判所に訴えた。しかし、「婚姻における平等性を本条文は定めたものであり、憲法には違反しない」という判決が出る。
一方、逆の姿勢を見せたのがイタリアだ。
イタリアの憲法には、同性婚と矛盾する言葉がない。しかし二〇一〇年――同性婚を巡る訴訟において、イタリアの憲法裁判所は、「憲法に書かれている『婚姻』とは、異性間の結合のみを指す」という判決を下した。
二〇一四年にも同様の判決が下る。しかし、同性カップルの権利を保障する法律がないことは違憲だという見解を示した。結果、イタリアではパートナーシップ法が作られる。
同性婚のために憲法を変えた国もある。
それがアイルランドだ。
アイルランドの憲法には「夫婦」という言葉が頻発する。
【アイルランド共和国憲法 第四十一条 第三項】
「1.国は、家族の基礎たる婚姻の制度を特別の配慮により保護し、かつ、侵害から保護することを約束する。
2.法律が指定する裁判所は、次の各号に掲げる要件が全て満たされた場合に限り、婚姻の解消を許可することができる。
ⅰ.手続き開始の日に、夫婦が5年間のうち少なくとも4年間又はそれに相当する期間、別々に生活していること。
ⅱ.夫婦間に相当の和解の見込みがないこと。
ⅲ.夫婦、夫婦の双方
ⅳ.法律で定めるその他の条件を遵守すること。
3.外国の民法に基づき婚姻を解消し、この憲法により設置された政府及び議会の管轄権内で当面効力を有する法律に基づき有効な婚姻が存続している者は、解消された婚姻の他方の当事者の存命中は、その管轄権の内では有効な婚姻を締結できないものとする。」
アイルランドの公用語は、アイルランド語と英語である。実際にアイルランド語の原文を当たってみると、「夫婦」に当たる言葉は "céilí" となっていた。調べてみると、「配偶者たち」だという。英語版でも同じ意味の "spouses" となっている。
つまり、日本語の「夫婦」のように「男と女」という意味がない。
二〇一一年に行なわれた下院総選挙後、アイルランドでは同性婚の法制化が検討される。同時に、憲法改正も検討された。一部の憲法学者の中からは、「同性婚の制定には憲法改正は必要がない」という指摘もあったという。しかし、二〇一三年、「結婚は一人の女と一人の男の結合を意味するという判決が既に出ている」と政府は反論する。
二〇一五年・五月――憲法改正に関する国民投票が行われる。
結果、国民の六割以上が賛成に投票し、憲法改正は承認された。
先述の四十一条には、新たな条文が創設される。
【アイルランド共和国憲法 四十一条 三項 4】
「男女を問わず、法律に基づいて合法的に結婚契約を結ぶことができる。」
また、パートナーシップを作るにあたって憲法を変えた国もある。
それがキューバだ。
キューバには、パートナーシップや同性婚と矛盾する条文が特にあったわけではない。
【キューバ共和国憲法 第三十六条(改正前)】
「婚姻および離婚は、配偶者またはその子供の国籍に影響を及ぼさない。」(英語版より試訳)
しかし二〇一九年の憲法改正では、婚姻の自由と平等を保障する条文が新たに作られた。それに伴い、パートナーシップを認める条文が盛り込まれる。
二〇一九年・二月二十四日――国民投票の結果、八割以上の賛成で改憲は承認された。
【キューバ共和国憲法(改正後)】
第三十七条「結婚・同性パートナーシップ・法的分離のいずれも、配偶者・パートナー・子供の国籍に影響を及ぼさない。」
第八十二条「結婚は、社会的・法的制度であり、家族の組織的構造の一つでもある。それは、自由な同意と、配偶者の権利・義務・法的能力の平等に基づいている。
その構成方法と効果は法律が決定する。
さらに、法律が規定する権利と義務を発生させる共通の人生設計を効果的に形成する法的能力を持つ安定した特異な結合を、法律に示された条件と状況下で認めるものである。」
同性婚と憲法に関する対応は国ごとに違う。我が国には我が国の事情もある。
忘れてはならないのは、我が国の憲法には大きな穴が既に開いているという点だ。
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