5.アライに迷惑する当事者たち。

いわゆる「LGBT商法」で成功したほうなのがBLだ。


ここ何年か、「LGBT」を冠するドラマや小説がやたらと登場している。それらの作品の傾向は、LGBT運動の内情を反映していると言える。つまり、「トランス女性」やゲイを扱ったものばかりであり、女性当事者の存在は抹消されているのだ。


これらの作品は、どのような層をターゲットとしたものだろう?


人口の5%もいないゲイを対象としたものとは考え難い。少なくとも、そのような作品に対して私の周囲のゲイは誰も興味を持っていない。


これらの作品を出している編集部や作者などを調べると、購買層の傾向はおおよそ判る。


たとえば『おっさんずラブ』の漫画版は、女性向け漫画雑誌である「BE・LOVE」で連載されていた。


自分のことを「おっさん」と呼ばれて喜ぶゲイは少ない。一方、萌え属性としての「おっさん」はBL界隈で確立している。


『きのう何食べた?』の作者である「よしながふみ」はボーイズラブ雑誌の出身だ。


カクヨムからも、『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』が「LGBTを扱った作品」として売り出された。テレビドラマ版の題名は『腐女子、うっかりゲイに告る。』だった。


これらを見て思い出すのが、商品名を変えて売り上げを伸ばす方法だ――「スパッツ」を「レギンス」に、「お菓子」を「スイーツ」に変えるなど。


それと同じように、「BL」を「LGBT」に、「腐女子」を「理解者アライ」に置き換えようとしたのではないか。


「やおい」「腐女子」などの言葉はイメージが良くない。しかし、「LGBT」「アライ」ならば流行な感じがする。加えて、自分の嗜癖のための消費ではなく、誰かを理解するためだという大義名分も生まれる。


このような商法を「BLGT」と私は呼んでいる。


七崎良輔の『僕が夫に出会うまで』などがそれだ。七崎良輔と古川亮介は、現実では珍しいくらい「よくできた」イケメンのカップルだった。漫画版はBL作家が執筆していたし、帯には「本当にあったBLボーイズラブの物語」と書かれていた始末だ。


LGBTに取って代わられるまで、ゲイリブには不細工が多いと陰口を叩かれていた。ゲイは容姿を重視するし、口の悪い人が多いので仕方ない。故・ジャック氏などは、ゲイ活動家に「ねずみ男」「麻原彰晃」などと仇名をつけ、「疫病神みたいな不吉なオーラを振り撒いている、半径十メートル以内には近づきたくない気色の悪い人間が多い」と書いていた。


ところが、LGBTになってからは、若いイケメンのゲイが前に出されるようになる――それこそ、BL漫画にでも出て来そうな。


容姿のい者を運動に活用することは、作戦としては確かに間違ってはいない。実際、「LGBTムーブメント」は、BLやGL、「男の娘」ものなどの創作物の流行に乗っかった感じがある。


しかし、性的少数者の声をLGBT活動家が代表しているとは言い難い。むしろ、「勝手に代表ぶるな」と当事者からは非難されているほどだ。


第一章で書いた通り、LGBTに対して不信感を私が抱くようになったきっかけは、とあるフェミニストの失礼な対応だ。彼女は、私の女装画像を見て、私が同性婚に賛成しているものと勘違いしてすり寄って来たのである。


このような体験をした人は私だけではない。


あるゲイは、某音声SNSアプリでフェミニストから絡まれて迷惑したと言っていた。そのフェミニストは、「ゲイは男性社会の犠牲者」だと信じており、「ゲイはフェミニストの味方になってくれるはずだ」と思い込んでいるようであった。


ジャックの談話室にも次の事例が載っていた。


彼は、「LGBTフレンドリー」を自称する会社に就職したという。ゲイであることは黙っていた。だが、直属の女上司が彼のことをネットで調べ、大学時代にゲイサークルに所属していたことを突き止める。そして、彼がゲイであることを社内で言いふらした。「プライバシーに関わることなのでやめてほしい」と言うと、「うちはLGBTフレンドリーなんだから隠さないで」と開き直られる。結果、彼は会社にいられなくなり、別の会社に再就職したという。


あるオタクの両性愛女性は、「アライ」になる人が腐女子には多いと語った。彼女らの中には、「ゲイには特殊な才能のある人や、女性の気持ちが分かる人が多い」と言っている人も多い。だが、そんな人に限ってゲイの知り合いがいないと嘆息する。


「LGBT」とは、「アライ」を増やすための運動だ。しかし、恋愛と感動の「物語」で固めた張りぼてであるためか、市井の当事者との乖離は激しい。


あるゲイはこうつぶやいていた。


「よく『私は同性愛者の人権を認める』みたいな発言をして自分は善人アピールする奴がいるけどさ、当事者としてはこういう人間が一番信用できない。お前が認めようが認めまいが、俺達には最初から人権が憲法で保証されているんだよ。それを自分が左右できると考えている時点でお前は差別者だ。」

https://twitter.com/SKRBKY1/status/1627226846642475008?s=20


ある両性自認の身体的女性は、私にこう語った。


「アライだなんて恥ずかしい、メサコンを拗らせて他人に寄生する無知無遠慮な人々だという認識をもっと広めて、迷惑なアライ増産を止めたいです。」

https://twitter.com/rhapsodyblue56/status/1452418150503378949?s=21&t=22phvSHZUiAB8K6wvOm0XA


性的少数者からアライがここまで嫌われる国も珍しいのではないか。


ツイッターなどを通じ、このノンフィクションには当事者から多くの賛同が寄せられている。


もちろん、賛同ばかりではない。あるカクヨムのユーザーからは、「ホモフォビアが作品に溢れているのに『LGBT問題語ってます』って体でやっていて不快」「いわゆる名誉白人と呼ばれるタイプですね」「ネット界隈は差別や偏見に溢れた意見を発信する人が多いですし、こういう意見も受けがいいのでしょう」とツイッターで言われてしまった。


そのアカウントを調べると、BL小説を書いている異性愛者の女性だった。新宿二丁目へと出かけては、イケメンのゲイカップルを眺めているという。こんなことを彼女がつぶやいたのは、私が同性婚に反対していることが気に障ったからだ。


「アライ」が望む性的少数者を私は演じなければならないのだろうか?


何のために同性婚に賛成しているのだろう? まさかとは思うが、「同性婚が認められれば素敵なカップルが増えるから」という程度の考えからだろうか?


それどころか、私が本作で最も手厳しく批判しているのは「T」の問題だ。女装した男が女性スペースに入れるようになれば、腐女子を含めた女性に著しい被害が出るだろう。「LGBT」とは、「LGB」だけの問題ではない――「T」も「Q」もあるのだ。


そんなLGBT思想に異議を唱える当事者が、「しばき隊」界隈の虹衛兵から、どれだけ暴言を浴びせかけられ、中傷されてきたことだろうか。


今や、活動家なんかと一緒にされたくないという意識が性的少数者の間には漂っている。それは、「虹臭い」という言葉になって結露してしまった。

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