3.全ては経済紙から始まった。
二〇一三年――「電通ダイバーシティ・ラボ」が「LGBT調査2012」を発表した。
電通――広告屋の電通だ。広告代理店として日本最大であり、世界でも第五位の規模を誇る。
「電通ダイバーシティ・ラボ」は電通に作られた専門チームだ。主に、「多様性」に関するアイデアを研究している。
「LGBT調査2012」では、性的少数者の経済的な側面が強調された。すなわち、性的少数者は独身貴族が多く、金が余っており、上手くアプローチすれば莫大な経済的利益があるという。
これを受け、「東洋経済」や「週刊ダイヤモンド」などの経済紙が「LGBT市場」の特集を相次いで組む。
さらに、「電通ダイバーシティ・ラボ」が二〇一五年に発表した調査では、「LGBT層の消費市場は約六兆円もある」と報告された。
――性的少数者は六兆円ものカネが余っている。
この言葉に踊らされ、「LGBT」向けのサービスや商品が世には溢れだす。
様々な企業が、「LGBTへの取り組み」を積極的に進めるようになった。「LGBTフレンドリー」や「アライ」を売り出したところも多い。
企業の中には、同性愛者の社員がパートナーシップを結んだときに祝い金を出したり、転勤時のパートナーの赴任旅費を支給したり、パートナーやその親族のための介護休暇の付与を決定したりした所もある。二〇一七年には、「LGBTが働きやすい企業」として電通が表彰された。レインボーパレードにも、多くの企業が
しかし、これらの「LGBT社員への取り組み」は非常に利用数が少ないという。
当然であろう。そもそも、カップルで暮らす同性愛者が少ない。加えて、サービスを受けるためにはカミングアウトが必須なのだ。
さらには、同性愛者のカップルのための不動産・銀行口座・旅行プラン・結婚プラン・美容広告などの「LGBTむけ商品」もまた溢れ始めた。「LGBTの就活支援サービス」や「LGBTの老後むけNPO」も作られる。加えて、虹色の服や下着やら虹色のストラップやら虹色のブレスレッドやらも売り出されている。中には、虹色の和菓子や「レインボー棺桶」を作った所まであった。
これらの商法が成功したという噂は全く聞かない。
なぜなのか?
六兆円の経済効果はどこへ行ったのか?
だが、考えれば考えるほど当たり前のことだった。
レインボー棺桶と普通の棺桶、性的少数者はどちらで葬儀をしたいだろう?
性的少数者たちは、その他の人たちと変わりないように商品を買って生活している。もっと言えば、自分がほしい物しか買わない。「LGBT」という胡散臭い言葉をつけたところで、購買意欲が特別そそられるわけではない。
ただし、アメリカなどではLGBT商法が成功することもあるという。
欧米の差別事情の項でも述べた通り、アメリカでは同性愛者たちは一か所に集まって暮らしている。ゲイの
しかし、「LGBT」や六色旗といったものにゲイたちは馴染みが少ない。
十年代の初めならば、「LGBT」という言葉を聞いてキョトンとする当事者のほうが多かっただろう。どういう意味なのか未だ分かっていない人も多い。つまり、「LGBTむけの商品」を売られても、それが自分のことという認識がないのだ。
それは、六色のシマシマ模様も同じである。
六色旗はLGBT活動家の旗だ。活動家と没交渉のゲイたちは、六色旗とも没交渉だった。また、ゲイの世界は同時に「夜の世界」である。夜に虹は出ない。日本人が日章旗に
「六兆円の経済効果がある」という研究結果が発表されたのと同じ年――パートナーシップ条例が渋谷区で作られる。
パートナーシップを提案したのは渋谷区長の長谷部健だった。
長谷部健は、広告代理店である博報堂の元社員だ。区議会議員の時代から、広告屋らしい奇抜な政策を打ち出してきた。旧・宮下公園の命名権をナイキに売り渡して「ナイキパーク」へと改称させたのはいい例だ。同時に、宮下公園をねぐらにしていたホームレスは追い出される。
確かに、「同性同士での結婚を日本で初めて認めた」と誇大に宣伝すれば、注目を集めるに違いない。
パートナーシップが制定された年、渋谷パートナーシップは「グッドデザイン賞」を受賞する。
「グッドデザイン賞」は、「カラフルステーション」という団体が作った賞だ。
この「カラフルステーション」を運営していたのは、電通社員でゲイ活動家の松中権と、
渋谷区のパートナーシップ条例は、「宣伝・広告・メディア・コンテンツ」の分野で受賞した。つまり、この条例は、情報に関する「商品」だったのだ。「グッドデザイン賞」のサイトには、商品の内容がこう紹介されていた。
プロデューサー:長谷部健
ディレクター:東小雪・増原裕子・松中権・杉山文野
デザイナー:廣橋正
利用開始:2015年10月
販売地域:日本国内向け
どこで購入できるか:渋谷区役所
東小雪と増原裕子は、ディズニーランドで結婚式を挙げた例のレズビアンカップルだ。
しかも、見ての通り、賞を授けた団体の運営者である松中と杉山の名前がディレクターの名前にある。結局のところ、全ては自作自演だったのだ。
この茶番劇は、日本中の注目を確かに集めた。
しかし、そのパートナーシップは不発に終わってしまった。現在までの利用率は64組しかなく、増原裕子と東小雪もパートナーシップを二年で解消してしまう。
LGBT向けのビジネスやサービスは今も生まれ続けている――レインボーのワンカップ大関とレインボーのピンチョスを出す「LGBTフレンドリー」なホテルや、同性同士での「結婚式」を受け付けたりレインボーの和菓子を出したりする寺院も存在する。
その押しつけがましさに反撥する形で、「虹臭い」という言葉が生まれた。
「虹臭い」という言葉を作ったのは、とある若いゲイだ。以降、運動に批判的な当事者からよく遣われるようになった。チンフルエンサーこと古川亮介も、あの騒動の後はすっかりLGBT活動に批判的になってしまったらしく、「虹臭い奴らが嫌い」とツイートしていた。
二〇二二年の「プライド月間」は実に虹臭かった。
ファミリーマートなどは、フライドチキンの紙袋を虹色にしていた。それどころか、「LGBTQ支援グッズ」と称して、虹色の線が入った白ソックスまで販売していたのだ。
――もはやただの不良在庫処理ではないのか?
当事者を舐めるのもいい加減にしてほしいものだ。
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