二〇二〇年、アメリカの非営利団体「PragerU」が一つの動画を公開する。

題名は『女子スポーツの終わり』だ。

https://m.youtube.com/watch?v=-BuV-s1SYLk

動画の主人公は、コネチカット州に住むセリーナ゠ソウルという女性である。彼女は八歳の時から陸上競技を始め、二〇一八年には州の高校生女子の部でトップ五に入る短距離走者となった。

しかし二〇一九年、突如として蹴落とされる。

というのは、女性を自認する男子が二人も女子競技に参加したからだ。その年の州選手権では、他の選手を大きく引き離して二人は一位と二位となる。

当然、不公平だという声が上がった。一方、ただの負け惜しみだという反論もあったという。

ちなみに、世界で最も優秀な記録を出した女子短距離選手は、アメリカ人のアリソン゠フェリクスだ。アリソンは、四百メートルを最高で49.26秒で走り抜けた。しかし、二〇一八年のデータを見てみると、この記録を上回った男子高校生がアメリカだけでも三百人近くいる。

セリーナの未来は、この二人のために暗くなる。ニューイングランド選手権に出場する機会や、優れたコーチの目に留まる機会や奨学金を得る機会を失ったのだ。

動画は、このことに抗議するため連邦裁判所に訴訟を起こしたと結ばれている。

このような事例は一つだけではない。

二〇二一年・五月十七日――イタリアの「トランス女性｣・ヴァレンティーナ゠ペトリロは、女子四百メートル走で新記録を達成したとフェイスブックで報告した。

ペトリロは性別適合手術を受けていない。しかし、二〇二〇年――パラリンピックに出場する女子選手として認められた。九月十一日と十二日に行なわれた陸上競技選手権大会では、女子百メートル・二百メートル・四百メートルの競技でそれぞれ金メダルを取っている。

同年・九月十日には、アメリカの総合格闘技団体 Combate Global で一人の「女性」がプロデビューした。｢彼女」――アラナ゠マクラフリンも「トランス女性」だ。性別適合手術の有無については、調べても分からなかった。

この日の試合で、女子選手のセリーヌ゠プロヴォストに窒息技をかけてアラナは勝利する。

ちなみに、アラナはアメリカ陸軍特殊部隊の元隊員だ。

十一月二十日にも、プリンストン大学とコーネル大学の間で行なわれた女子水泳競技に「トランス女性」が出場する。｢彼女」――リア゠トーマスも性別適合手術を受けていない。この日の大会でトーマスは、二百メートル自由形で１：43：06を記録し、五百メートル自由形で４：35：06を記録した。シルバニア大学の記録は塗り替えられる。それどころか、全米のほとんどの女性選手を上回る結果となったのだ。

圧倒的な体力差で女子選手を打ち負かす――まるで「異世界転生もの」のチート主人公である。それが、｢私は女だ」の一言で可能となるのだ。

一方、性別適合手術を受けた場合はどうなのであろうか。

｢アイデンティティが女性だ」と言ったら女性になるため、｢トランス女性」と言っても手術の有無は不明な場合が多い。それでも、｢手術を受けた」と明確に分かる事例もある。

ファロン゠フォックスは二〇〇六年に性別適合手術を受けたアメリカ人の元男性だ。二〇一二年から二〇一四年にかけて、プロの格闘家として女子部門に出場していた。

二〇一四年・九月十三日のこと、女子選手のタミッカ゠ブレンドとの戦いが行なわれる。結果、ファロンは一ラウンドで勝利した。しかし、倒れたブレンドが起き上がった時、頭から流れる血で顔は紅く染まっていた。脳震盪を起こし、眼窩を骨折し、ホッチキスを頭蓋骨に七つ打ち込むほどの傷を負ったのだ。

後のインタビューで、ブレンドはこう語った。

｢これまで多くの女性と闘ってきましたが、あの夜ほど試合で感じた強さはありませんでした。彼女が男性として生まれたからなのかどうかは、私は医者ではないので答えられません。ただ言えるのは、これほどまでに圧倒されたことは私の人生でないということです。私は普通、並外れて強い女性のはずです。しかし彼女の握力は格段に違いました。他の女性の腕の中では普通に動けたのに、フォックスの腕の中では全く動けなかった――」

言うまでもないが、たとえ性別適合手術を受けたとしても、男女の肉体の差は歴然としているのだ。