3.「トランスジェンダー」にされる子供たち。

二〇二一年・十一月――イギリスで一人の医師が内部告発する。


彼――デビット゠ベル博士は、タビストック゠アンド゠ポートマンNHSトラスト(ロンドン北部にある国民保健サービス)の元理事だ。トラストの下には、性別違和を診察するイングランド唯一の病院・タビストック医院がある。


ところが、タビストック医院では、ピンクのリボンや人形遊びを好まない女児が越境性差トランスジェンダーにされ、間違った身体に生まれたように扱われ、性別適合医療が施されているというのだ。


二〇一八年には、「充分な診断もせずに子供たちの人生を左右する決断に誘導している」とベル博士の同僚数人が病院に抗議する。しかし、彼らは懲戒処分の危機に晒された。


背景には、「ストーンウォール」や「マーメイズ」などのLGBT団体の影響がある。これらの団体が政治ロビー活動を行なった結果、「探求のために空間が閉ざされた」のだ。病院の職員たちは、越境者差別トランスフォビアのレッテルを貼られることを恐れて口を閉ざした。


内部告発を受け、上部機関のNHSイングランドが動く――引退した小児科医・ヒラリー゠キャス博士にタビストック医院の調査を依頼したのだ。結果、今年の三月に、「根本的に異なる医療方針が必要である」という中間報告結果をキャス博士は発表する。


報告書では、「新しい医療や革新的な医療が導入されるときに適用される審査のいくつかを、この専門サービスは受けていない」という指摘がされている。それは、「サービスの内容が、発展してきたから」だ。


二〇〇九年には、タビストック病院を受診する子供や若者の数はたった50人だった。ところが、二〇二〇年には2500人が受診し、4600人が待機するまでに膨れ上がる――十一年で九十倍だ。


患者の三分の一はを持っていた。そればかりか、児童養護施設や里親に保護された子供の割合も過剰だったという。


――なぜこんなにも増えたのか?


それは、越境性差トランスジェンダーがメディアで頻繁に取り上げられるようになり、教育現場にまでLGBT活動家が浸透するようになったからだ。結果、自己同一性アイデンティティに「ゆらぎ」のある思春期の子供や、異なる性に憧れを持つ若者、特定の性規範ジェンダーロールに従わない子供を持つ親が、次々と病院を訪れるようになったのである。


タビストック医院を受けた患者の一人にキーラ゠ベルがいる。


ベルはレズビアンだ。しかし、同性愛者に肯定的な印象を持っていなかった。やがて越境性差トランスジェンダーの存在を知り、自分は男性と思うようになる。


タビストック医院をベルが訪れたのは十四歳の時だ。


診療は表面的なものだった。ベルの性的特質について医師が尋ねることはなかったという。ただ、「あなたの好きな名前は何ですか? 移行したい?」と訊いてきたのだ。そして、性徴を止める薬を十六歳で服用し、乳房切除手術を二十歳までに受けた。


だが、二十三歳の現在、そのことを後悔してレズビアンとして生活している。


前にも述べたが、越境性差は今や「作られている」。もっと言えば、自分は越境性差だと名乗る十代やそれ以下の子供が爆発的に増えているのである。


同時に、元に戻ろうとする人々も増えてきた。やがて、三月十二日が「脱トランス啓発の日」と呼ばれるようになり、元に戻るための努力をした人々が自らの経験をSNSに投稿するようになる。


Washington Examiner には、キャンディス゠シャープスというカナダ人女性の声が載せられていた。

(元記事:https://what-is-trans.hacca.jp/3301/ )


キャンディスは、家庭環境が良くなく、学校では苛められ、インターネットに膨大な時間を費やす内向的な子供だった。そして十二歳の頃、性別を変えることが出来ると知る。自分の人生がなぜ上手くいかないのか、理解できたような気がした。


「私は男だ」と母親に告げたところすぐに病院に連れてゆかれる。


なぜ男性だと思うのか――大人は誰も詮索しなかった。


そして、性徴を止める薬と男性ホルモンを十五歳の頃から打ち込まれ、乳房の全摘出手術を十七歳の時に受け、子宮の摘出手術を十九歳の時に受ける。


キャンディスは記事内でこう答えている。


「大したことないって言われたんです――身体の一部がいやなら、それを取り除けばいいって。」


記事には、237名の臨床調査に基づくデータも載せられている。離脱する平均年齢は二十三歳で、トランスしてから五年が経っている。そして、その七割の人々が、自分の性別違和が鬱病など別の問題と関連していることに気づいているという。


二〇一九年には、アメリカ・テキサス州で次のような事件が起きた。


息子を治療して娘にしたい――そう主張する女性が元夫を訴えたのだ。息子の年齢は七歳である。あまりにも早すぎる治療に元夫は反対した。それに対して、息子に対する管理監督権と医療上の決定権を全て認めさせるよう母親は主張した。

(裁判について詳述した日本語記事:https://note.com/yousayblah/n/nba1e3135e582?magazine_key=m3cec8b9777ee )


結果、息子の治療に関する権限を母親が勝ち取ってしまう。元夫は、毎月の治療費を支払わされる羽目となった。息子は「ルナ」と名前を変え、女子生徒として学校へ通っている。


ちなみに、息子が「少女」として生活し始めたのは二歳の頃からである。小児科医の母親から「あなたは女の子よ」と言われたことがきっかけだった。


七歳の少年が性別違和を訴えるなど、日本人なら可怪おかしいと思うだろう。ましてや、こんな判決が出るわけがない。ところが、子供の性自認を否定することもアメリカでは「差別」となってしまうのだ。よって、そのことが元夫に不利に動いた。


二〇二一年、ホルモン抑制剤の投与や身体改造を未成年に受けさせることを禁止する法案がテキサス州議会に提出される。


当然、LGBT団体は猛反対した。


四月十二日には、テキサス州議会上院州務委員会で十歳の「トランス女性」・カイ゠シャプリーが演説する。


「自分のことは自分で決めたい。テキサス州の議員は、私が幼稚園に入る前から、事あるごとに文句をつけてきた。私は今は四年生です。いい加減にしてほしい。私を創ったのは神様。神様は、ありのままの私を愛して下さっている。神様が間違いを犯すというのですか?」

(カイの演説:https://twitter.com/yousayblah/status/1383258145649160194?s=21&t=j99xpXv2-sKFiDv0URG_RQ )


――幼稚園に入る前から?


性同一性ジェンダー゠アイデンティティはおろか、自己同一性アイデンティティでさえ覚束ない頃ではないか? 十歳でさえも、何かしらの治療を受けるのは早すぎるはずだが。


カイには三人の男兄弟がいる。母親によれば、生後十八か月ごろからカイだけに「女の子」らしい兆候があったという。二歳になる頃には、「女の子」のような振る舞いや嗜好を見せ始める。


そんなカイを母親は殴っていた――敬虔なクリスチャンなので、息子がゲイであることを恐れたのだ。


その後、LGBTQ団体に接触し、四歳の頃からカイを女児として育て始める。


実を言えば、子供が同性愛者であるより越境性差であってほしいと願う親は多いのだ。


聖書は、同性愛を明確に禁じている。しかし、両性具有については述べていない。同様に、男性の身体に女性の脳が存在する可能性も述べていない。もしも性別を間違えて生まれたのならば、それは同性愛者ではなく異性愛者なのである。


カイの事例を聞いて思い出すのは、ピンク色の物を男子が持っていただけでも「ゲイ」だと言われる欧米の風潮だ。


故・ジャック氏も書いていた――アメリカのゲイたちは、妙に「男らしさ」を演出する者ばかりだ。ゲイパレードでもゲイポルノでも、極端に身体を鍛え上げた者しか出てこない。アメリカのゲイリブは、「男性としてのアイデンティティを持つ」「ウケだけではなくタチもやる」ことを推奨していた。結局、それは「ゲイ=女」というイメージを嫌ったからである。


日本にある「男の娘」文化など、アメリカでは生まれようがない――なぜなら、ゲイの世界でも極端な男性性が求められるからだ。


ここに挙げた例ばかりではなく、十歳未満、時には二歳や三歳の「トランス゠キッズ」が「LGBT先進国」ではゴロゴロと生まれている。


だが、常識的に考えてほしい――二歳や三歳といった子供に、自分は男だとか女だとかという明確な自覚があるものだろうか。


今、手元にはないのだが、いつか読んだ性同一性障碍の本には、子供が性同一性障碍ではないかと心配する親の声が載せられていた。その理由は、女の子らしい遊びを娘が好まないとか、母親が化粧をしているときに息子がじっと見てくるとかいうものだ。


当然、子供にはよくあることであり、そのような年齢では性同一性障碍と診断できないと回答されていた。当たり前だ。しかし、アメリカやイギリスの医師たちにはこの最低限の良心が失われている。二歳や三歳の子供をトランスさせるのは、製薬会社や医師が利益を求めているからに他ならない。


今や、性別は「買える」時代になってしまった。


代金以外、何も支払う必要はないと魔法遣いは言っている。


――本当に?


もしこれが御伽噺おとぎばなしならば、知らされていなかったリスクを負って酷い目に遭うのがオチだ。しかし、これは現実世界での話なのである。

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