暴走する「反差別」。

1.ゲイだとバラされて自殺? 一橋大学アウティング事件の真相。

LGBT活動家は、「インクルージョン」とか「ダイバーシティ」とかと新奇なカタカナ語を多用している。恐らくは欧米コンプレックスの裏返しだろう。


そんなカタカナ語の一つに「アウティング」がある。つまりは、カミングアウトしたことを他人に漏らすことだ。


「アウティング」という言葉は、「一橋大学アウティング事件」によって知られるようになった。大学院生のゲイが同級生の男子に告白、しかし暴露されてしまい、命を絶った事件である。


二〇一六年――この事件が報じられたとき、私も小耳には挟んでいた。あのときは、DQNな学生がいたもんだなあ――とは思ったものだが。


しかし、LGBTの問題に関わるようになり、事件の詳細が私の知るものと違うことに気づいた。


発端は、二〇一五年の春のことである。


告白する以前から、死亡したゲイ(Aと仮称する)は、同級生の男子(Bと仮称する)に妙な態度を取っていた。旅行先や桜の写真をLINEで頻繁に送ってきたり、「俺のこと嫌いになった?」と唐突に言い出したりしたのだ。


さらには、勉強しているBの所へやって来て、「俺の事で何か悪い点があったとしても、色々言われるのは辛いから何も言わないで欲しい」と泣き出した。


このときから、BはAのことを避けようと思っていたという。


そして、二〇一五年・四月――AはBに対して、「好きだ」「付き合ってほしい」とLINEで告白する。これに対してBは「付き合うことは出来ないが、これからも良い友達でいたい」と返す。


ところが何を勘違いしたのか、それから妙に馴れ馴れしくAは接してくる。


Bの証言によれば、次のことがあったという。


・評判がいいという十二個の法律事務所のリストを送ってきた。

・授業に来なかったら電話で起こしてほしいと頼んできた。

・LINEや口頭でしょっちゅう食事に誘うようになってきた。

・講演会参加の話を別の友人と話していたら自分も行くと言い出した。

・食事に行く話をしていたら誘ってもいないのについて来た。


Aを傷つけないよう、当たり障りのない言葉でBは返事を断っていた。しかし、授業中に話しかけてきて肩や腕に触れたり、「今日、香水強いかな」と言ってきたりするなど、Aの行動はまなかった。


Aは精神的に不安定な人だったのではないか。


それをほのめかすのが、五月下旬のエピソードだ。


その日、学校の休憩室ラウンジで一方的にAは話しかけてくる。「うん」「そう」とBは適当に相槌を打っていた。すると、Aは唐突に頭を抱えて「うあー」と言い出し、Bの腕に触れる。Bは咄嗟に「触るな」と言った。


結果、BはAを避けるようになった。しかし、Aの態度は変わらない。そのことを、Bは誰にも相談できなかったという。やがて、事情を知らない他の友人ともBは距離を置き始める。精神的に不安定になり、夜も眠れなくなった。


そんなある日、「お前がゲイであるの隠しておくの無理だ」とLINEで伝え、七名の友人グループに打ち明けてしまう。


――カミングアウトは本当に素晴らしいことだろうか?


一体、どんなリスクがあるのか分からない。される側にとっても、知りたくもないことを知らされるのだ。それどころか、ゲイがノンケに告白すること自体、普通ではない――そんなことをしても振られることは明らかなのだから。


Bに暴露されて以降、今度はAが精神的に不安定になった。授業などでBと同じ教室になると、吐き気や動悸が止まらなくなったという。やがてAは心療内科を受診し、不安神経症と診断される。


口外から二か月後、校内の建物からAは転落死した。


事故なのか自殺なのかは分からない。


事件を報じた当初の記事では、「パニックの発作で転落死」とされていた。


当然、Bの行動にも問題はある。Aのことを他者に相談するにしても、他にやり方はなかったのか。しかし、どうすればよかったのだろう。「こうすればよかった」と咄嗟に答えられる人は少ない。ましてやBは判断能力も鈍っていたはずだ。


この点を覆い隠し、議論もせず、「差別感情や偏見に基づくアウティングがあった」と主張することは全く公正ではない。


事実、この事件は「カミングアウトされた上でつきまとわれたらどうするのか?」という問題を示唆している。二人の間で何かの問題が起きたとき、第三者に相談したらアウティングになるのだ。そのことを恐れ、カミングアウトされることを嫌がる人も出てくるだろう。


また、Aの死因については事故なのか自殺なのかも判然としない。ところがこの事件は、アウティングされたゲイが「自殺」した事件として活動家は触れ回っている。


ゲイ活動家の松岡宗嗣などは、この事件を題材に『あいつゲイだって』という本を書いている。帯には、「校舎から飛び降りたのは私だったかもしれない」と書かれていた。

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