2.でっちあげの「アウティング」。—―三重県議「アウティング」事件の真相。

二〇二一年・三月――三重県に住むゲイカップルが、同県議会議員の小林貴虎に公開質問状を送る。


同月・三十日――公開質問状が入っていた封筒の画像を小林議員はブログで晒した。そこには、ゲイカップルの実名と住所が写っていた。


マスコミは、「自民党議員がゲイカップルの個人情報を無断で晒した」と大騒ぎする。


『同性カップルの住所、県議がブログに公開 報道後に削除』朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASP4564BXP45ONFB00V.html


『公人がLGBTQをいじめる社会 男性カップル、暴露された住所』毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20210507/k00/00m/040/207000c


『住所と名前を三重県議に公表された同性カップルが激白「電話が鳴り続けて精神的に病んでしまった」』AERA dot.

https://dot.asahi.com/dot/2021040500077.html?page=1


当然、小林議員には批判が殺到した。


「公開質問状だからって、個人情報をばらしてはいけない」

「個人情報保護法違反、さらにはアウティング」

「自分の個人情報をばらまかれたらどう思うのか」

「あり得ないでしょ、人としても県議としても」

「社会人として完全にアウト」

「自民党議員ってヤバい奴ばっかだよね」


しかし、マスコミは報じなかった――このゲイカップルは、実名も住所も公表して活動を行なっていたのだ。


二人は、「伊賀へ移住して農業を行なう」という趣旨の『僕らの移住生活』というサイトを運営している。


ただし、彼らが本当に農業を行なっているのかは疑問だ。彼らのサイトで目立つのは、虹色の妙なグッズを通信販売で売ったり、「LGBT」に関する講演(無料ではない)を開いたりする記事ばかりである。


『僕らの移住生活』

https://www.bokuranoijyuseikatsu.com/


彼らの住所も電話番号も最初からここに書かれていた(現在は削除)。何しろ、ネットを通じた通信販売を行なっているのだ――事務所の所在地・連絡先・事業主の名前を公にする義務がある。


公開質問状の頭にはこう書かれていた。


「僕らの移住生活 加納克典 島田全宏

  LabelX 関西副部長 misane」


二人は、特定の団体の代表者として公開質問状を出したのだ。当然、この文は誰もが目にすることができる。


彼らは、「三重県議会小林貴虎議員への公開質問状を提出します」という公開状も各報道機関へと出していた。そちらにも全く同じ文字が書かれている。


なお、この事件に関する中日新聞の報道はこうだ。


「三重県の小林貴虎県議(47)=自民党県議団=にインターネット上で住所を公開されたとして、同県伊賀市の男性カップルが削除を求めている。(略)カップルは嶋田全宏(まさひろ)さん(45)と加納克典さん(41)。(後略)」

『同性カップルの住所公開 三重県議、質問状封筒の写真アップ』中日新聞

https://www.chunichi.co.jp/article/231008


騒動が起きた時、ツイッターで彼らはこう書いていた。


「②この『公開質問状に対する回答』の中で僕たちの住所が書いた封筒の写真が掲載されていました。僕たちの公式サイト『僕らの移住生活』のショップページの特定商取引に基づく表記に僕たちの住所を記載している為、ページ3」

https://twitter.com/bokuranoijyu/status/1377450942954528769?s=21&t=MTdBrgT7J0loZlUkuhAH_w


「問題ないとのご判断だったかもしれませんが、写真を掲載されたことにより嫌がらせなどうけないかと恐怖を感じました。ページ4」

https://twitter.com/bokuranoijyu/status/1377451037695430659?s=21&t=MTdBrgT7J0loZlUkuhAH_w


――恐怖を感じました?


住所も実名も顔も公表しておきながら、それでいて商業・政治活動を行なっておきながら、公開質問状を送っておきながら、「小林議員に公開質問状を送りました」と様々な報道機関に公開状を送っておきながら、今さら「恐怖を感じました」?


しかも、これは事務所か何かの住所ではなかったのか。本当に「恐怖を感じた」のなら、こんなツイートはしない。「実はここ住んでるんで」と小林議員に言って削除を求めたはずだ。


はっきり言って、公開質問状の内容も無礼だった。


どのような質問だったのか――順を追って説明すればこうなる。


発端は、とあるゲイ活動家が、「様々な地方でパートナーシップが作られ、混乱が始まって、最終的に同性婚が作られるのが我々の戦略だ」とツイートしたことだ。


これに対し、一人のゲイが、「パートナーシップ制度を取得したカップルたちは、これ分かってるんですかね?」とツイートする。


小林議員はこれを引用し、「一部の政治的思惑のために当事者は利用されてるんじゃないだろうか」「ましてや多くの非告白者クローゼットの当事者がこの制度要らないと言うのを聞くと」とツイートした。


さらに、森奈津子氏などの会話の中で、小林議員は、「死後や財産のことで約束を交わしたいのならば公正証書をまけばいい」「婚姻と同等の権利を要求するなら、同等の責任を果たさなければならない」とツイートする。


これに対し、「それでは婚姻だけが優遇される」「婚姻制度なくそう」と言ってくる者がいた。


小林議員はそれを引用RTする。


「私は同性愛者の間で一部婚姻と同等の関係を求めている人がいる現実を踏まえ、現行制度の中で出来る限りのことするのがスジだと兼ねてから言っている。

しかし同性婚推進者の中に『婚姻制度を無くせ』と言う主張がある限り、私は賛同しかねる。」

https://twitter.com/eternalhigh/status/1368765647899914240?s=21&t=MTdBrgT7J0loZlUkuhAH_w


これに対し、「僕らの移住生活」の二人は、前後のツイートを無視して小林議員のツイートのみを公開質問状の中で取り上げた。


そして、「LGBTQ+当事者を侮辱するようなツイート」「『誰もが生きやすい社会の実現』に向けて活動されてきた多くの気持ちを踏みにじるような発言」だと書いた。質問も、「政治的思惑に利用されているとはどういう意味だ」「同等の責任とは何か」「同性愛者が生きやすくなるために貴殿が何をしたのか」と難癖のようなものだった。


また、各報道機関に送られた公開状にも「LGBTQ+当事者やALLYの気持ちを踏みにじるツイートがなされた」「私たちの活動の努力が小林議員のツイートによって潰されかねない」などと書かれていた。


小林議員の言う「政治的思惑のために利用する」とはこのことだ。


ましてや、伊賀市のパートナーシップは六年以上もやってきて6組しか利用しておらず、そのうち2組が解消――利用率は0.177%である。昨年九月に作られた三重県のパートナーシップ制度は利用組数が22で解消は0、利用率は0.049%だ。「この制度いらない」というのは多くの非告白者クローゼットの本音だろう。


「僕らの移住生活」が言う「LGBTQ+当事者」だの「ALLY」だのは一部の偏った思想の持ち主でしかない。それを指摘されたので、「LGBTQ+当事者の気持ちを踏みにじるツイートがなされた」と報道機関に告げ口したのだ。


なお、質問状に対して小林議員はブログで明快に回答しているので、興味のある方は参考にされたい。


『公開質問状に対する回答』三重県議会議員 小林たかとら

https://tsu-coexistence.blogspot.com/2021/03/blog-post_30.html


しかも、この二人は後に、「小林議員に住所を公開されて以来、電話が鳴り続けて精神的に病んでしまった」「寝付けないし、動悸がすることもあった」と AER Adot. の取材に答えている。


――本当かよ。


それどころか、この件で全面的に「悪人」にされていたのは小林議員だ。「最初から住所を公開していた」という事実を報道していれば、小林議員はあそこまでの批判されなかっただろう。それについての責任をマスコミはいつ取ったのか。

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