4.「騒動の発端、尾辻かな子の欺瞞」――あるゲイの手記。

「杉田論文」が炎上した二か月後、「そんなにおかしいか『杉田論文』」という特集を『新潮45』は組む。そして、これこそが事実上の最終号であった。


特集では、七人の論者が「杉田論文」擁護の記事を執筆した。


論者のうち二人はゲイだ。一人は元・参議院議員の松浦大悟。もう一人は、とあるブログを運営する市井の同性愛者「かずと」氏である。


そんな「かずと」氏の論文「騒動の発端、尾辻かな子の欺瞞」を紹介したいと思う。


「かずと」氏は七〇年代生まれ、男性にしか興味がないことには小学生の頃から気づいていた。だが、自分が同性愛者だと長いあいだ認めなかった。同性愛者であることを隠し、同性愛の世界に背を向け続け、同僚の前では女性好きを演じ続けてきたのだ。


ある日のこと、尾辻かな子の著書『カミングアウト』を彼は手に取る。


表紙には、溌溂はつらつとした笑顔を浮かべるショートカットの女性が写っていた。ページを捲ると、同性愛者であることに悩みつつも前向きに生き、大阪府会議員を目指す尾辻の姿があった。尾辻の生き方に「かずと」氏は感銘を受ける。こそこそ生きてきた自分は何だったのか、誰かと話をしたい、自分も恋愛をしてみたい――そう思うようになる。


街に唯一のゲイバーを初めて彼が訪れたのは、『カミングアウト』を読み終えた夜か、週末のことだ。


「かずと」氏は尾辻に救われたのだ。ゆえに、尾辻のことを最初は熱心に応援していた。ところが、その熱はやがて冷め、疑問へと変わってしまう(何しろ、この人は「結婚式」を挙げたにも拘わらず落選後すぐ別れたのだ)。『新潮45』に載せられた記事は、そんな尾辻への手紙という形で書かれている。


「私は現在のパートナーと5年ほど同居を続けています。もしあなたが『カミングアウト』を書かなければ、私はいまだに『隠れゲイ』のまま恋愛とは無縁に生きていたかもしれない。私は非常にあなたに感謝しています。だからこそ余計に、現在のあなたの姿勢が残念で仕方がないのです。」


七月十八日、『新潮45』の記事をツイッターで尾辻は晒し上げ、「すべての人は生きていること、その事自体に価値がある」と批判した――当然、「生産性がない」とは「価値がない」という意味ではないが。


「かずと」氏が不審に思ったのは、杉田と対話することなく尾辻が唐突に記事を晒した点だ。杉田も尾辻も同じ衆議院議員であり、顔を合わせる機会はいくらでもあった。しかし、国会で会った時にでも、「杉田さん、ちょっとこれはおかしくないですか」となぜ訊けなかったのか。


尾辻のツィートに対し、杉田はすぐ返信する。


「尾辻先生、税金を投入する=福祉を活用する人=社会的弱者です。LGBTの方々は社会的弱者ですか? LGBTの方々でも、障害者の方は障害者福祉を低所得者の方は低所得者福祉を受けられます。年金も生活保護も受けられます。当たり前のことです。」


「その点に於いて日本の中で何ら差別されていないし、また差別すべきではないと思います。納税者として当然の権利は行使できます。その上で、何かLGBTの方々だけに特別に税金を注ぎ込むような施策は必要ですか?」


この問いかけに、尾辻は答えなかった。


なぜ尾辻が杉田に対話を求めなかったのか――このとき「かずと」氏は気づく。


「あなたはLGBTに税金を投入する必要がないことが分かっているからです。LGBTの中でも本当に支援が必要なのはTの中の一部の方だと分かっている。しかし、それを認めてしまえば、これまでの主張がすべて覆る、これまでの主張とは何かといえばTLGBTことです。更衣室やトイレ、制服といった問題、履歴書や各種書類の性別記載、いずれもTの方の問題でLGBには何ら関係ありません。」(傍点引用者)


「LGBというのは単に同性愛者か両性愛者かといった性的指向の話です。生きづらく感じる点は確かにあるでしょう。だからといって公的な支援が必要かといえばノーですよね。進学、就職、日常生活においても同性愛者、両性愛者であることは何ら関係ない。財産関係の問題なども実は養子縁組ですべてクリアできてしまう。(後略)」


杉田の質問に答えることができないのは、尾辻の仲間の活動家も全く同じだ。


しかし、なぜ、杉田の質問に誰もが答えず、「生産性」の一語のみを取り上げて執拗な攻撃を加え続けるのか――それは、尾辻を始めとした活動家たちが「LGBT法案」の成立を狙っているからだ。


これは、「LGBTへの差別を禁止し、理解を広める」ための法案とされる。その「理解を広める」方法とは、行政が活動家を雇って啓発を行なうことだ。成立すれば、LGBTに関する講習会が日本全国で絶えず行なわれるだろう。


尾辻自身も、「LGBT政策情報センター」という団体の代表理事だ。この団体の活動内容について、ウェブサイトには次のようにある。


(1)LGBTに関する政策調査および研究・情報提供

(2)LGBTに関する研修・講座・その他の会合などの開催

(3)LGBTに関する国内諸機関・団体、及び行政との連帯

(5)LGBTに関する広報出版事業

(4)LGBTに関する教育・人材育成事業

(7)LGBTのための相続・遺言・成年後見に関する相談支援事業

(8)上記事業に関連する範囲において行政などから受諾する事業


つまり、「LGBT」に関する政策を研究し、提案し、教育を行ない、行政と連帯し、行政から雇われることを目的とした団体だ。特に(8)は利権以外の何ものでもない。


講習会を行なうのは誰か? LGBT活動家だ。


LGBT活動家を雇うのは誰か? 自治体や国だ。


つまり、のである。


尾辻を始めとした活動家にとって、ビジネスチャンスに他ならない。


法案を通すために、尾辻を始めとしたLGBT活動家たちは、与野党問わず様々な国会議員に「LGBTは弱者である」という認識を植え付けさせてきた。その認識は、朝日新聞や毎日新聞を始めとした進歩派メディアを通じて世の中に拡がってきたはずだった。


ところが、これに異を唱える国会議員が現れる――杉田水脈だ。


「彼女はLGBTの中でもLGBに関しては社会的弱者でも何でもないと分かっている唯一の国会議員なのです。いや、正確にはもう一人います。当事者である尾辻さん、あなたです。しかしあなたにとってLGBTとは今もこの先もお金を産みだしてくれる存在、そのため永遠に弱者でいてもらわなければ困るのです。だからこそ杉田さんが邪魔で仕方ない。そこでデモなどを煽動してひたすら議員辞職を要求している。」


産経新聞への寄稿で、尾辻はこう記した――「今回の杉田議員の寄稿に、多くの人が傷つき、涙を流した」と。しかし、このような騒動を起こしたのは尾辻なのだ。杉田と対話をすることもなく、炎上させることを狙ってツイッター上に晒し上げた。もしも多くの人が傷ついたならば、「尾辻かな子さん、あなたに原因があります」と「かずと」氏は断言する。


「尾辻さん、私はあなたの著書『カミングアウト』に大いに感銘を受け、同性愛者としての一歩を踏み出すことができ、現在に至っています。おかげさまで非常に充実した日々を過ごしています。さまざまな意味であなたには感謝しているのです。だからこそあえて最後に申し上げます。」


「尾辻かな子さん、今のあなたは単なる同性愛者の恥さらしです。」

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