3.「しばき隊」によって行われた抗議デモ。

二〇一八年・七月二十七日――「杉田論文」に抗議するため、「五千人」(主催者発表)の人々が自由民主党本部前に集まった。彼らは虹色の旗レインボーフラッグを持ち、「生産性で人を差別するな」というプラカードを掲げ、「差別をやめろ!」と斉唱する。中には、「僕は子供の頃に同性愛者であることで苛められた」と主張する者もいた。


しかし、このデモは「しばき隊」によって企画されたものだった。


と――言うと、「しばき隊」が何か知らない人は「何それ」と思うだろう。知っている人でさえも、「なぜ『しばき隊』が?」と不思議に思うに違いない――私もそうだった。在日韓国人への差別問題がきっかけで誕生した「しばき隊」と、性的少数者の問題がなぜつながるのか分からなかったのだ。


実は、LGBT運動と「しばき隊」は、随分と前からずぶずぶの関係だったのである。


「しばき隊」は、「差別に反対すること」を建前とした愚連隊だ。


いや、正確に言えば、「しばき隊」という組織は存在しない。


「在日特権を許さない市民の会」などの嫌韓団体が起こした憎悪演説ヘイトスピーチ事件を知る者は多いだろう。彼ら極右は、「在日韓国人が様々な特権を得ている」と主張し、「朝鮮人を日本から叩き出せ!」「東京湾に放り込め!」「ゴ〇〇リ朝鮮人!」など、目にも当てられない罵倒を、街頭で――時には韓国人街コリアタウンで――吐き散らしていた。


そんな差別主義者レイシストへの対向カウンターデモを行なう団体として結成されたのが「レイシストをしばき隊」である。


「しばき隊」が初めて行動したのは二〇一三年・二月九日だ。この日、韓国人街コリアタウンである新大久保で、在特会と「しばき隊」が衝突する。当初から、「チンカスほじくって喰っとけ!」と叫ぶなど、彼らの言葉は随分と汚かった。


それからも、在特会のデモに対して「ゴ〇〇リレイシスト!」「国帰れ、田舎者が!」「糞ネトウヨ殺す!」と叫んだり、ペットボトルや生卵を投げつけたり、集団で中指を立てたりするなどの行動を彼らは起こした。在特会長の桜井誠(小太りな体型)の画像と共に「ヘイト豚は死ね!」と書かれた横断幕を掲げたこともある。


六月十六日には、「しばき隊」と在特会の乱闘事件が発生――結果、「しばき隊」側七名と在特会側二名が警察に拘留され、罰金刑が課せられた。


「差別に反対する」と言いつつ、彼らの暴言も在特会と同レベルだったのだ。


八月十日の朝日新聞には、「在特会と『どっちもどっちだな』という印象を受ける」「汚い言葉ではなく、他にやりようはないのか」という投書が載った。


しかし、「『ヘイト豚死ね』は言いすぎでは?」という新聞記者の質問に対して、代表の野間易道は「あっちがやっているのはマイノリティへの差別だが、こっちがやっているのは桜井個人に対する罵倒だ」と開き直っていた。


ただし、相手がマイノリティであっても彼らの言動は変わりがない。例えば、自らの運動に批判的な韓国人に対し、ツイッターで野間はこう言ったことがある。


「この糞チョソン人、すごいこと言うな。」


「しばき隊」が初めて行動した時のことを野間はこう書いている。


「ともかく、このときに確立したコンセプトで後のカウンター運動に受け継がれているものとしては、『レイシストを対面で叱る』である。それもできるだけ上から目線で、文字通り子供を叱るように振る舞う。『抗議』でも『批判』でもなく、『叱る』。俺たちはおまえたちよりも上の立場である、おまえたちと俺たちは対等ではない、それをあえて誇示するということが推奨された。」野間易道『実録・レイシストをしばき隊』


この「叱る」というキーワードは重要だ。


「しばき隊」を一つの生物にたとえれば、「巨大なモラ男」である。


結成当初の「しばき隊」は、女性の参加が禁じられていた――結局は喧嘩をする団体だからだ。「女性がいない(あるいは、ほとんど見られない)」ことと「上から目線で叱る」こと――この二つは、現在、LGBT界隈で暴れまわっている連中と共通する。


加えて言えば、「見境がないこと」も同じだろう。


彼らの攻撃対象は極右に留まらなかった。


八月二日には、「安倍ファシスト政権」に抗議する「ブルドーザーデモ」を開催した。そこでは、安倍首相(当時)の顔を模したゴムマスクを晒し首のように掲げ、地面に投げつけ、「安倍政権✊打倒」と書かれたブルドーザーで轢き潰すパフォーマンスが行なわれる。


ちなみに、「ブルドーザーデモ」のチラシにはこう書かれていた。


「THIS MACHINE KILLS FASCISTS」


「しばき隊」そのものは、二〇一四年・九月三十日に解散する。翌月、後継団体の「C.R.A.C.クラック(Counter-Racist Ation Collective:対レイシスト行動集団)」が結成された。


名前が変わっても行動は変わらなかった。


LGBT運動にC.R.A.C.が関わりだしたのもこの年だ。すなわち、日本最大のLGBT団体「東京レインボープライド」のパレードに、C.R.A.C.が母体の団体「TOKYO NO HATE」が山車フロートを出したのである。パレードには野間易道も参加していた。


以降、パレードにはC.R.A.C.の影が見え隠れするようになる。


二〇一八年の五月には、東京レインボープライド公式の研究討論会シンポジウムに、元「しばき隊」メンバーが論者パネリストとして登壇するにまで至った。


LGBT運動に「C.R.A.C.」が関わるようになり、運動は様変わりする。これについて、元参議院議員の松浦大悟――ゲイ――は、「多様性とはほど遠い『村社会』が出現した」と書いている。


つまり、「差別者との対話には意味がない、力ずくで排除せよ」という思想に共鳴する当事者が増えたのだ。そんな運動の姿勢に異を唱える者は、「村の掟」に背いたとして私刑が科せられた。


『ANTIFA(アンティファ)に染まるLGBT』松浦大悟

https://web-willmagazine.com/social-history/dhCh9


このような団体がLGBT運動に近づくことを早くから批判していたのが、両性愛者の作家・森奈津子氏だ。ところが、C.R.A.C.のメンバーやその親派シンパから暴言が寄せられる。「こんな奴は潰さなきゃ駄目だろ」と言われ、野間易道からは「サブカルクソ女」と罵られ、匿名掲示板には「森奈津子に嫌がらせして鬱病に追い込もう!」と書き込まれた。


「在特会には思想がない」と言われる。彼ら極右は、分かり易い標的ターゲットを見つけて攻撃しているだけだ。


ゆえに、その鏡写しであるC.R.A.C.にも思想がない。彼ら極左は「反差別のためならば何をやってもいい」という集団であり、「反差別なら何でもいい」のである。


最初に述べた通り、虹隠しの尾辻によって「杉田論文」は炎上した。


これを受け、ゲイ活動家である平野太一に対して、「TRP(引用註・東京レインボープライド)方面の人さそってデモやらない?」と野間易道がツイッターで誘いかける。平野は「どんどんやりましょう!」と答えた。


実を言えば、平野もまたC.R.A.C.のメンバーだったのだ。「杉田論文」に対する抗議デモは、日時も場所も平野が設定したものである。これに乗っかる形で、東京レインボープライドは、平野が企画したデモをツイッターで宣伝する。


当日の夜――自由民主党本部前には、醜怪な光景が現れた。


「五千人の人々が集まった」とは言うが、動画で確認できる限りは数百人程度であろう。


虹色の旗レインボーフラッグの一つには、「FUCK YOU VERY MUCH」と書かれていた。挙句、それを左手に持ち、右手の中指を立てた自撮りを投稿する者もいたのである。


プラカードも憎悪に歪んでいた――杉田の額に鍵十字ハーケンクロイツを描いた物、杉田の顔の上に照準器の十字を描いて「PUBLIC ENEMY(公共の敵)」と書いた物、怪獣・ダダの顔と杉田の顔を重ね合わせた物。まるで5ちゃんねるの罵詈雑言を視覚化したかのようだった。


太鼓の演奏が始まり、演壇ステージの者が叫ぶ。


「サベツをヤメロ!」


デモ隊が一斉に叫ぶ。


「「「「「サベツをヤメロ!」」」」」


太鼓のリズムに合わせ、百鬼夜行は歌いだした。


「サベツをヤメロ!」「「「「「サベツをヤメロ!」」」」」

「サベツをヤメロ!」「「「「「サベツをヤメロ!」」」」」

「サベツをスルナ!」「「「「「サベツをスルナ!」」」」」

「ジンケン、マモレ!」「「「「「ジンケン、マモレ!」」」」」

「スギタはヤメロ!」「「「「「スギタはヤメロ!」」」」」

「スギタはヤメロ!」「「「「「スギタはヤメロ!」」」」」

「コレガ・プライド!」「「「「「コレガ・プライド!」」」」」

「コレガ・プライド!」「「「「「コレガ・プライド!」」」」」


やがて歌詞はこう変わる。


「アベはヤメロ!」「「「「「アベはヤメロ!」」」」」

「アベはヤメロ!」「「「「「アベはヤメロ!」」」」」


言うまでもなく、デモの主題と安倍晋三は関係がない。あるとすれば、このデモは最初から、杉田水脈の「差別発言」にかこつけた反自民党デモだったということだろう(事実、彼らがデモを行なった場所は、杉田の事務所の前でも新潮社の前でもない)。


このデモを実際に目にしたゲイは、次のようにつぶやいた。


「以下、感想。

あまりに品性とセンスを欠く内容で見るに堪えない。

あれを見たら杉田議員を支持しない人達もさすがに引くだろ。LGBTの一人として、断じてこの人らの同類だと思われたくないし、安倍首相の言葉を借りるなら『あんな人達』に俺達の存在や権利をおもちゃにさせたくない。」


「でもこういうデモの実情って、絶対テレビや新聞は報じないよなー、きっと。せめてネットの中だけでも、あのデモの実情や、それに反対する当事者がいる事等知ってほしいわ。」


――――――――――

本エピソードは、森奈津子氏の『LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ』を参考とさせていただきました。なお、末尾のツイートは当人の許可を得て引用したものです。


『LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ』

http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264

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