「生産性がない」? 杉田論文を読み返す。
1.杉田水脈に理解を示した性的少数者たち。
二〇一八年――『新潮45』八月号に『「LGBT」支援の度が過ぎる』という論文が載った。書いたのは衆議院議員・杉田
これに反応したのが、同じく衆議院議員の尾辻かな子である――二〇〇七年に「結婚式」を挙げたにも拘わらず、選挙後に別れた「虹隠し」の尾辻だ。七月十八日(発売日当日)、論文の画像と共に、ツイッターに尾辻はこう投稿した。
「杉田水脈自民党衆議院議員の雑誌『新潮45』への記事。LGBTのカップルは生産性がないので税金を投入することの是非があると。LGBTも納税者であることは指摘しておきたい。当たり前のことだが、すべての人は生きていること、その事自体に価値がある。」
https://twitter.com/otsujikanako/status/1019511223979728896?s=21&t=Ce-FV8Diyk2w7nAsJ9woHA
尾辻の投稿をきっかけに、「杉田論文」は炎上する。
マスメディアは、「LGBTに生産性がない」と杉田が発言した――と大騒ぎした。LGBT活動家はもちろん、様々な言論人や識者が一斉に杉田を攻撃する。
「ナチスや優生学と同じ思想だ。」
「多様性への無理解と排除思想がある。」
「戦前の大日本生産党を想起させる。」
「生産性で人間の価値を判断する暴論。」
「出産できない障碍者や患者の人権も踏みにじっている。」
中には、「子供を作れないことは生産性がないということではない」だの「代理母出産や精子提供を頼れば子供を作れるのだから生産性はある」だのと主張する者までいた。
――ちょっと待て。
「LGBTには生産性があるから価値がある」と主張するのは、「生産性」がない者――障碍者や高齢者――に価値がないと言うことと何が違うのか。
しかも、代理母出産は女性と子供を金で買う行為だ――倫理的に著しく問題がある。そんな手段まで持ち出すのは、逆に「生産性」に激しく拘っているからだ――キリスト教諸国の同性愛者たちのように。
七月二十七日には、杉田水脈の論文に抗議するデモが自民党本部前で行なわれた。主催者側の発表によれば、四千人もの人々が集まったという。
これを受け、「新潮45」は、「そんなにおかしいか『杉田論文』」という特集を十月号で組んだ。編集部は、「主要メディアは戦時下さながらに杉田攻撃一色に染まり、そこには冷静さのカケラもなかった」と主張し、七人の論者による杉田水脈擁護の記事を載せた。
この特集はさらなる炎上を招いてしまう――「差別をしておきながら居直るのか」「杉田論文より酷い記事が載せられている」と。新潮社内部――出版部文藝――からも、「良心に背く出版は、殺されてもせぬこと」という批判のツィートが発せられた。
そうして『新潮45』は休刊――事実上の廃刊――となる。
これらの詳細について、長いあいだ私は知らなかった。私の部屋にはテレビがないので、バッシングとも無縁だったのだ。ただ、「生産性がない」と誰かが発言したと小耳に挟んで、「そりゃ言っちゃいかんだろ」とは思った。
だからこそ、私は知らなかったのだ――「そんなにおかしいか『杉田論文』」に二人のゲイが論文を載せていたことも、杉田水脈を擁護した性的少数者が少なくなかったことも、擁護とは言わないまでも理解を示した人がいたことも。
恐らく、大多数の当事者も私と同じではないか。私がリアルで出会うゲイたちも、誰一人この騒動に触れなかった。多くの当事者にとって、
『ジャックの談話室』には次のように書かれている。
「『新潮45』に杉田水脈議員が寄稿した『LGBT支援の度が過ぎる』という記事を巡ってパヨクたちが大騒ぎして、杉田議員の辞職を求めるデモまでおこっているそうです。
私はこの新潮45の杉田議員の記事を読みましたが、この記事のどこに問題があるのかさっぱりわかりません。
むしろ杉田議員の発言は、『よくいってくれた』と膝を打ちたくなるものが多かったです。」
『ジャックの談話室』「杉田水脈議員発言の炎上騒動」
https://jack4afric.exblog.jp/29965305/#29965305_1
また、ノンフィクション゠ライターの福田ますみ(『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』の著者)は、「黙殺され続けるLGBT当事者たちの本音」という記事の中で、杉田水脈に理解を示した様々な性的少数者の意見を取り上げている。
記事の中で取材を受けた一人のゲイは、「気がつけば、当事者とは無縁なところに『LGBT』なんて世界が完成していた」と言い、「『生産性』という言葉に引っかかるかもしれないが、その前後の文章を読めば何らおかしくない」と主張した。
また、元ゲイ向け雑誌の編集長・冨田
「曖昧な書き方をしているので、リベラルの活動家に、つけ込まれる隙を与えた。でも、尾辻議員の切り取り方もひどすぎる。生産性といったって、たとえば『生産性なきLGBTは日本から出て行け!』なんてことをいったら、そりゃ僕だって激怒しますよ。でも、そんなことは言っていない。」
両性愛者の作家・森奈津子氏は「言葉の遣い方を間違ったかな」とは思ったものの、「展開の仕方によっては建設的な議論に発展した可能性がある」として一定の理解を示した。
また、
「杉田論文を差別とは感じませんでした。いくつか細かい間違いはありますが、全体として間違ったことはいっていない。むしろ、どこで取材したのか不思議に感じたほど、LGBT当事者の声を汲み取っています。」
『黙殺され続けるLGBT当事者たちの本音』
https://hanada-plus.jp/articles/245
そもそも、「杉田論文」には何が書かれていたのだろうか。多くの人も何も知らないだろう――この論文は「差別」の一言で抹殺されたのだから。
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