第3話
ハンカチを返してからというもの東雲は屋上に来る頻度が増えた。多分。
東雲は屋上に来るたびに色々な表情をしている。ある時は楽しそうに微笑み、ある時はどこか寂しそうに、ある時は無表情だったり、ある時は怒ったり、喜怒哀楽忙しい人だなと内心思った。
その日は珍しく放課後にきた東雲。東雲は昼休みに来る比率が多いため余計に珍しく感じる。
それに何故か今日の東雲は様子が少しおかしい。屋上にきて町を眺めるなり、なんかソワソワしてる。
いや、これもなかなか新鮮であるから覗きがいがあるというか、なんというか。
・・・こんなこと聞かれてたら犯罪者予備軍だなと内心考えるが心の中だけだし許されるろうと自分を肯定する。
そんな能天気なことをたらたら思考していると東雲が静止する。───と思ったらおもむろに僕のほうに歩いてくる。内心困惑する僕だが手に持っていた本に視線を移す。
僕の目の前で東雲が止まったことを目の端で捉える。東雲が僕に近づいてくることなんて初めてだ。東雲はいったい僕に何か用でもあるのか? そんなことを考えていると東雲は静かに口を切る。
「きみ、寂しくないの?」
東雲雫はそう僕に問いかける。
彼女の質問に僕は応えない。
いや、応えることなんて許されない。きっと。
「えっと、良かったらなんだけど……」
そんな僕なんか脇目も振らず東雲続ける。眼は泳ぎ、手は前でもじもじさせて落ち着きがない。やっと決心が着いたのか東雲は右手を胸の辺りで握ると勇気を振り絞る。
「わたしの友達になってくれませんか……?」
僕はベンチから立ち上がり屋上から去ろうとする。もうこれ以上、彼女と関わってしまったら
いけない気がした。去ろうとする僕の腕を東雲は捕らえる。
「消えてなくなりたい」
「っ……!?」
「消えたい、そう思っていますよね」
東雲はそう断言する。まるで僕の心を覗いたように。
「なんでそれを……」
僕は驚きを隠せないでいた。
それは彼女が僕が日々思っている事を言い当てたからである。誰にも行ったことはない、自分の中にだけ秘めた想い。
それを彼女、東雲雫は何故か知っている。
「わたし、聴こえるんです」
東雲はぽつりと呟く。少し、不安げで哀しさが篭もった声で。
「みんなの声が」
みんなの声が聴こえる? 東雲確かにそう言った。虚言か、妄言か、そんなことも脳裏をよぎったが彼女の表情からそれはないと何故か思った。
「ある日、わたしは不思議な力に目覚めました」
東雲は僕が喋る間もなく語り出す。
「それは人の心の声が聴こえるものでした。でも、聴こえる声には一つの共通点があり、哀しみ、不安、恐怖、絶望、負の感情が殆どでした。そしてきみの声も聴こえたの」
「………」
「消えたいって」
東雲は悲しい表情を浮かべながらもその優しい瞳で僕の眼を真っ直ぐ見詰めるのであった。
明日への生き方、教えてくれませんか? 五月雨皐月 @oomoriSalmon
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