第12話 捜索・遭遇
ベルクダールを出発して三日。惑星シーアンまで近づくことが出来た。戦艦、巡洋艦、駆逐艦、戦闘機に軌道砲台、空間機動要塞……敵味方問わず様々な兵器の残骸が無数に広がっている。
そもそも惑星シーアンはコミューニン連合帝国とヴァルタヴァ連邦のちょうど中間宙域にある惑星で、激戦地として知られていたのだから当然だった。
「残骸が多い。どれがどれかまでは分からないけど……」
「とりあえず、大型船の残骸を調べましょ」
シーアンの周囲にこれだけ艦艇の残骸が多いのは、ここで行われた戦闘の激しさを物語るものだ。
今のところ、ゲオルク艦長の乗艦の残骸すら見当たらない。しばらくの間、大きめの残骸を中心に調べ回ってみた。動力が生きているものもいくつかあったけれど、船外服を着て中に入っても、誰もいないものばかりだった。
『この残骸も違う……』
『フローラ、そろそろ船外服の酸素が切れる。一度戻ろう』
大型船の残骸だけでも数百ある。こんな状態で探し回っていると、いつまでかかるか分からない。アントンがノエ・シュタウハーフェンで積んでくれた資材も限度はあった。
アルタイルの中に戻って、船外服を脱いだフローラも焦燥感が滲んでいた。
「……フローラ」
「……疲れたでしょ。コーヒー淹れるからあなたは休んでて」
フローラが珍しくギャレーに向かう。僕に顔を見られたくないからじゃないかな、というのは考えすぎだろうか。
捜索を始めて二日目。僕が恐れていた事態が発生した。
『こちらはコミューニン帝国航宙軍。そこの所属不明機、所属を明らかにし、当星系への滞在理由を答えろ』
「まずい、見つかった……」
通信してきた相手は、おそらくコルベットクラスの小型艇。まだ大分距離はあるけれど、こちらの位置が掴まれた以上、放っておけば拿捕されるのは間違いない。フローラはすぐに反転して逃げようと、操縦桿に手を掛けたけれど、僕はその手を押しとどめた。
「……フローラ、通信機使っていい? 僕に考えがある」
返事が終わる前に、僕は通信機のスイッチを入れた。
「同志航宙軍将校殿、こちらはコミューニン惑星開発公社、航路観測艇五九八番。惑星周辺のデブリの分布調査をしている」
普段よりも少し低い声で、できるだけ落ち着いた声を出すようにしつつ、僕は真っ赤な嘘を並べ立てた。向こうも戦闘目的で来ているわけじゃないだろうから、これで時間を稼げればいいと思った。
『こちら巡航艇ソーコフ、了解した。最近この辺りに武装勢力が出現する。何かあればすぐに救難信号を』
「……ユリウスってそんな芝居が出来たのね」
「フローラ、今のは時間稼ぎだよ。どうせすぐバレる。今のうちに距離を取ろう」
こんなところをうろうろする民間船なんて怪しいに決まっている。
だから聞いたことがある公社の名前を出したけれど、これは確認すればすぐにバレる。そのうち血相を変えた通信がこちらに届くはずだ。
「でも」
フローラはまだ未練がましく残骸の影が映るレーダー画面を指さす。大きい残骸以外に、まだ人が隠れていられそうなサイズのものはいくらでもある。運良く脱出艇などが紛れているかもしれない。
「今捕まったら、お父さんを探すどころじゃなくなるだろう? 一旦星系外まで出よう。僕らが発端になって戦争再開、なんて洒落にならないだろ?」
フローラはわかった、とうなずくと機体の姿勢制御を始めた。
「ここじゃ加速軌道が取れない……ユリウス、残骸が少ないのはどっち?」
「五時方向仰角二〇に向けて」
そのとき、通信機が耳障りなノイズを発した。ざらざらとした音声と共に、先ほど通信してきた連合帝国軍艦から通信が入る。
『惑星開発公社から、五九八番という観測艇はないと返答があった。どういうことか説明せよ。返答ない場合は攻撃する』
「フローラ、やっぱりバレた!」
「一気に距離を開けましょう、超光速用意」
「正面! 距離一二〇〇〇に重力波反応! 避けて!」
ものすごいスピードで突っ込んできたのは、連合帝国の巡航艇だ。僕らの様子を仲間から聞いて増援に来たみたいだ。
ただ、僕らとヘッドオンするとは思っていなかったみたいで、凄いスピードですれ違うだけだった。
「さっきの巡航艇が反転した、こっちに来る!」
「振り切ってやる!」
加速Gが強くなる。このまま行けば多分振り切れる。そう思ったとき、機体が大きく揺れた。
「右翼エンジンブロックに被弾! オートで切り離されたよ!」
被弾したのは右側の翼の下に取り付けられているメインエンジンだ。よかった、もし胴体部に被弾したら、対消滅炉ごと吹き飛んでいた。
「こんにゃろう! エンジンは高いんだぞ!」
推力軸線が一気にずれた機体をフローラが立て直す。でもこれで超光速航行に入るための加速が出来なくなった。まともに動けない僕らは、このまま拿捕されるしかない。
まだ連合帝国の船とはかなりの距離があるけれど、すでにこの機体に出来ることは限られている。軍人なら、コンピュータのデータ消去とか、いろいろやっておくことはあるのだけれど。
「ユリウス、逃げて」
意を決したようなフローラの言葉に、僕は思わず首を巡らせた。
「逃げないよ。僕だって共犯者じゃないか」
逃げようにも、船外服一つで外に出たところでどうしようもない。そもそも、僕にはそんなつもりはない。
「でも!」
「いいんだ。シーアンで僕も死ぬかもしれなかった。捕えられたらとりあえずは捕虜だ。戦死よりよほどマシな運命だ」
「……なんで私に付いてきてくれたの」
「フローラが行くっていったから」
僕はフローラと出会った日のことを思い出した。有無をいわさない口調でいわれた時点で、僕は拒否権がなかった……と思い込んでいた。でも一番は、何度僕が聞いても彼女が行くといって聞かなかったからだ。
彼女が行くなら、僕もついて行く。そう思えたから。
僕は不安そうな目をしたフローラを抱き締めた。なんてことをしてるんだとも思ったけど、そうしないとダメな気がした。
「ちょっ……! ユリウス、何を」
「……君のことは僕が守る。おばさんともそう約束したからね」
「ユリウス……」
おずおずと、フローラの手が僕の背中に回された。
ああ、やっぱり僕は、この子に一目惚れしてたのかもしれない。もっと格好つけたいところだけど、そうも行かないのが悔しい。
そんなことを考えていると、警備艇のレーザーなんかとは比べ物にならない太いビームが、機体のすぐ側を掠めた。
「増援……? 今のは戦艦の砲撃だ」
「レーダーに新しい船が出た……大きい、確かに戦艦クラスかも」
しばらくすると、デブリの向こう側から大型艦が近づいてくるのが目視でもわかった。
「連合帝国の船が引いていく。あれは連合帝国の船じゃないのかな?」
「ユリウス、相手の所属は分かる?」
「……見ただけだと分からない」
「逃げも出来ないし……」
『そこのエアロダイン。こんなところで何うろちょろしてる』
低く、野太い声が通信機から発せられる。男、それも五〇代かそのくらいの人の声だ。連邦公用語で訛りはないから、連合帝国の人間ではなさそうだったのが救いかもしれない。
「人捜しです」
フローラはこともなげに答えた。腹が据わっているというかなんというか。
『人捜し? ほお、珍しい理由だな……見たところ、君らはダメージを受けて動けないと見た。そのまま死ぬかこの船に収容されるか、どっちを選ぶ? しばらくしたら、連合帝国の連中はまた来るぞ』
「収容してもらうしかないわよね? この場合」
「そうだね」
「じゃあ、お願いします」
フローラが返答すると、何か確認しているのか、しばらく通信は途切れていた。
『船長の許可が出た。君達を格納庫に収容する。姿勢を安定させろ』
「了解……これも海賊?」
「でもどうするの。助けてくれたんだから取って食われるわけじゃないだろうけど」
「お金ならあるけど……それで解決するのかしら、この場合」
ぐるぐると回っていた機体が、姿勢制御スラスタでピタリと停止する。近づいてきた海賊船(?)は、艦底部のハッチを開いて、僕らを飲み込んだ。
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