第13話 旅のおわり
「……海賊船?」
「そのはずだけど」
収容後、空気の充填が終わった格納庫に降り立ったアルタイルを数人の男達が取り囲む。着ている服そのものは連邦宇宙軍の制服だった。この連中はどこからか仕入れてきたのか、あるいは追い剥ぎしたのか。
『エアロダインの搭乗員は手を上げて降りてこい。大丈夫だ、獲って喰おうってわけじゃない』
外から呼びかけられて僕らは武器も持たずに、手を上げてタラップを降りた。
「お前ら、どこの連中だ」
「ヴァルタヴァから来たんだ。人捜しでね」
フローラの前に立って、僕は海賊連中に答えた。せめてこのくらいの格好は付けさせてくれ……と思いながら、海賊達をにらみつけるようにする。
「船長、こいつらです。連合帝国の船に襲われてました。人捜しらしいですが」
海賊の一人が、格納庫のキャットウォークの上にいる男に叫んだ。
「人騒がせな客だと思ったが、よりにもよってお前か、ユリウス!」
船長と呼ばれた男は、僕らの方を見ると、大きなため息をついていた。その声に、僕は聞き覚えがあった。
「艦長……ゲオルク艦長!?」
聞き間違うはずがない。ヒゲを蓄え、顔に傷も増えているけれど、紛れもなくゲオルク・ケルマディクス艦長その人だった。
はしごを伝ってキャットウォークから滑り降りてきたゲオルク艦長は、見た目には非常に元気そうで、むしろ戦時中よりも若返ったのではないかという身のこなしだ。
「お前達はいい、下がれ」
ゲオルク艦長が指示すると、それまで僕らに銃を向けていた船員達が後ろに下がる。
「せっかくシーアンから無事に帰られるように手配したのに、また戻ってきたのか。というかお前、この機体はどこで見つけた? お前が操縦してきたのか? 家族の墓参りは終わらせたか?」
船長は僕の肩をバシバシと叩き、頭をなで回し、質問の雨を降らせてきた。
「あの、とりあえず僕への質問はあとにするとして、艦長に一言あるという人を連れてきたんですが……」
僕の後ろでうつむいていたフローラが、そこで初めて顔を上げる。ゲオルク艦長は目を見開いて、開いた口が塞がらないようだ。
「……フローラ。お前、フローラなのか。いや見間違うわけがない。お前、どうして」
「……親父、今まで何してたの」
「いやあ、戦争が終わったと聞いたんだが、もう連邦宇宙軍はうんざりしてな。いっそ海賊にでもなってやろうと、生き残った艦隊の人間を集めてたんだ。フローラ、どのみちお前も迎えに行こうと思っていたところだ。一緒に来ないか?」
今度は僕のほうが開いた口が塞がらなくなった。
戦争末期の激戦で、この人も精神がすり切れてしまったのだろう。
いや、趣味人というのはここしばらくで理解していたから、海賊稼業を新しい生き甲斐にでも据えようとしていたのかもしれない。
「……の……この……」
「うん?」
「この! 大馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
フローラの溜めに溜めた
「あだだだだだ……何するんだ、せっかく生きてた親父を殴るなん――」
倒れ込んだゲオルク艦長に、フローラは馬乗りになってダメ押しのもう一発。胸ぐらを掴み上げたフローラは、それでもまだ収まらない。
「私がどれだけ心配したと思ってるんだ! 殴られたのがイヤならいくらでもいってやる! 馬鹿! 阿呆! 道楽家! おたんこなす! あんぽんたん! 娘不幸者! 字が汚い! 部屋の片付け下手くそ! 靴下クサい! 髭伸ばしても似合わない! うわああああああああん!!!!」
馬乗りになって思いつく限りの罵倒をした勢いのまま、フローラは大声を上げて泣きながらゲオルク艦長にすがりついた。
思えば、出会ってからというもの、父親の話をするときに涙を見せるようなことがなかった彼女だから、僕もこれには驚いた。
なんだかんだいいつつ、やはりフローラは父親のことを愛していたのだろう。
「馬鹿馬鹿馬鹿! 生きてたならなんですぐに連絡してくれなかったのよ!」
「ごめんな、ごめんな、フローラ……」
その場にいた船員だけでなく、騒ぎを聞きつけた船員達が集まってきても、しばらくの間親子は抱き合ったままだった。
この親子の対面は思わぬ効果を生み出した。軍に嫌気が差して海賊稼業に身を投じようとした連中が、泣き始めた。
フローラが泣きじゃくる姿、それを抱き留めるゲオルク艦長を見て、郷里に残した伴侶、子供、親、恋人、きょうだい、ともかく残してきた人を思い出してしまった。
有り体にいえば、里心がついた、ということで、結局ゲオルク艦長はヴァルタヴァに帰還することを決断。船員達も全員一致で納得して、海賊船――ゲオルク艦長命名アインツへリアル――はヴァルタヴァへの帰路についた。
僕とフローラの旅も、これで終わった。
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