第20話 集うよミーツ、色んな人!
どなど~なと口ずさみたくなる気分のベルです。こんにちわ。
今、私は幌を取っ払った馬車の荷台にいます。
御者はなんと探索者ギルドのマスターであるハーヴェイさん。
私を乗せた馬車は、街の中を進んでいくわけですが――幌がないので荷台の私は丸見えです。
なんで荷台がないのかって?
そりゃあ、私の体格だと幌が邪魔だからだよ!
一応、先に私が荷台に載ってから幌を被せるって手段は取れなくもなかったんだけど、面倒だからコレでいいや――とかギルマスが言いだしやがったワケでして……。
そんなワケで見せ物のように馬車に乗っているんだけどさ……。
「あ、ベルだ~!」「ほんとだー!」
「おーい!」「また遊んでねー!」
おや? 昨日のちびっ子たちじゃないか。
私のことをちゃんと覚えてたらしい。
元気良く手を振ってくれてるんで私も手を振ってあげる。
すると、何だかギャラリーが驚いたような顔をしているような、雰囲気が変わったような……?
はて……?
ともあれ、どうして私が馬車に乗せられ市中に晒されているのかと言えば――まぁご存じの通り、領主の館に向かっているだけなんですけど。
ちなみに御者をしているギルマスも、普段以上のキメキメスーツって感じ。黒のマウンテンハットも似合ってる。
だけど相変わらず隠しきれない筋肉の自己主張が激しい。
まぁ、アレだよね。筋肉そのものの自己主張は激しいけど、自身のムキムキをアピールするような変なポーズを、唐突にムキッとしたりしないところ良いよね。ギルマス。
これは完全に偏見の自覚あるんだけどさ、ギルマスのように丸太じみた四肢を持っているマッスル勢って、その肉体を誇示するように、ムキッムキッっと、何かにつけてポーズを取って見せびらかしてくる印象あるからさぁ……。
暑苦しいし鬱陶しいんだよね。
個人的にはこれ、正しい偏見だとは思っているんだけど……。
それでまぁ、ギルマスはそういうのしないから、それだけで暑苦しさとかなくて良いよねって話なんだけど。
……なんてことを取り留めもなく考えていた時――なんか変な気配が……。
「ベル。無駄口と呼ばれている男と面識はあるか?」
「がぶ?」
いや、ないけど?
とりあえず首を横に振ると、ギルマスは「そうか」と息を吐くように呟いてから、ニヤリと笑った。
「なら無視だな。関わるだけ損だ」
なんか良く分かんないけど、たぶん気配の元かな?
この間、マイフレンドやフィズちゃんと一緒にギルド向かっている最中にも似たような気配というか視線を感じたけど、それの主が無駄口って呼ばれている男なのかな?
などと色々考えているうちに、なにやら大きく仰々しい門に着きました。
すでに話がついているのか、何事もなく門をあけてもらい、ちょっとした公園のようなお庭を進んでいくと、大きなお家の前に。
家の前で待っていたメイドさんが一礼すると、馬車を誘導してくれる。
案内してくれたのは、馬車置き場のようなところだ。ギルマスはそこに馬車を止めると、そこにいた男の人と何か言葉を交わしてから、私を見た。
「ベル。降りていいぞ」
「がぶ」
やーっと、解放されたー!
私は荷台から立ち上がり、ぴょんと飛び降りる。
すると、メイドさんがちょっとビックリした様子を見せるけど、すぐに冷静な顔に戻った。
事前に説明されているのか、内心の驚愕やビビリを、仕事顔で隠しているのか――なんであれ、プロのメイドさんって感じで、表情を取り繕えてるのすごいね。
「案内を頼む」
「かしこまりました」
ギルマスも御者席から降りると、メイドさんに一声かける。
……ギルマスがなんか偉そう――と思ってしまうのは、私の心が小市民だからでしょうか……?
あるいは、メイドさんと接する態度としてはこれが正しいのかな……?
ともあれ、私たちはメイドさんの案内で、広いお屋敷の中のとあるお部屋へと通された。
そこにはすでにソファに座ったクロンダイクとフィズちゃんと、フィズちゃんに似た美人の女性が待っていた。
あの人がフィズちゃんのママかな?
ちなみにクロンダイクの足下には狼のソリティアが丸まっていて、フィズちゃんの膝の上にシャラランがいる。
フィズちゃんとフィズちゃんママが座っているソファの背後にいるのは、騎士っぽい感じの格好をしたマリーさんだ。
うん。元々カッコいい人だから、ビシっとした正装もサマになるねぇ……。
それともう一人――初めましてなメガネ美人も座っている。
どこか乳白色にも見える不思議な色合いをした淡く穏やかに艶めく金髪のその美人は、メガネの下にある茶色い瞳を見開くようにこちらを見ていた。
「すみません。お待たせしました」
「がぶがぶ」
「大丈夫だ。二人とも気にせず掛けて……いや、ベルは悪いが立っててくれ。その体格にあった椅子がないんだ」
「がっぶー」
おっけーと返事をすると、ギルマスは「すまんな、ベル」と一言告げて、ソファに掛けた。
「ベル~」
「がぶがぁ~ん」
ソファに掛けたまま手を振ってくるフィズちゃんに、私も手を振り返す。
すると、横にいたフィズちゃんママがすごい驚いたような顔をしていた。
「全員そろったところで、まずは紹介しよう」
ギルマスが席に座り、私がその横に立ったところで、クロンダイクはそう切り出した。
……テーブルの上に乗ったお茶とクッキーが美味しそう。
「今来たのが、この街の
紹介されたギルマスは、座ったまま頭を下げる。
「続けて私の横に座っている女性はカルミッチェ・コシティ。この街で
メガネ美人はやっぱりカルミッチェさんだったらしい。
彼女もギルマスに倣って、紹介されたおりに頭を下げている。
……二人とも、なんていうかこういう場になれてない?
あと、
職人っていうくらいだから、何らかの道具かな? もしかしなくてもマジックアイテム的なモノ??
「ベース商会の会頭夫人であるコリン・ベースと、その娘のフィズだ。
会頭のジン殿は体調がよくないそうで、この場は欠席している」
やっぱりフィズちゃんのママだったか。
パパさんは体調不良で会えないのはちょっと残念かな。
そんなコリンさんもどこか馴れた様子でソファに腰掛け、頭を下げる。それを見ていたフィズちゃんも、真似して頭を下げる。
フィズちゃんはともかく、コリンさんも馴れてない?
……まぁいいか。
「ベース親子の背後にいるのが、フィズとベルの護衛を請け負ってくれた探索者のマリーだ」
紹介されたマリーさんはちょっとぎこちなく頭を下げる。
お。初めてではないけど、何度やっても馴れないって顔しているね。親近感わくぅ!
「最後に、今回の集まりの中心人物であり最重要人物である、仮称種族名タベルンモドキのベルだ」
私も紹介されたので、みんなのマネをして一礼してみせる。
すると、カルミッチェさんとコリンさんは、驚いた顔をした。
「事前に説明されてても、こうやって見ると驚くわね」
「フィズが言っていたベルさんって……魔獣だったのね……」
まぁいつもの反応ですね。わかります。
そりゃあ、私は魔獣ですものね。事前に説明されてても、こうやって目の当たりにすると驚くのも無理ないね。
「それと、私の足下にいるのは、シュベルトヴォルフのソリティア。
フィズの膝……から移動して肩にとまったのは、エッジバットのシャララン。
ベル共々、この子たちもまた重要な存在でな、あわせて紹介しておく」
「あう!」
「きぃゅ!」
紹介された二匹もよろしくとでも言いたそうに、一声鳴いた。
見た目は子犬と愛嬌あるコウモリだからね。女性陣からの受けは良さそうだ。
コリンさんはソリティアに、カルミッチェさんはシャラランに、ちょっとしたトキメキを感じてそうな顔をしたしね。
……っていうか、そういう種族名だったんだこいつら――などと思っていると、クロンダイクがこちらを見ながら、茶目っ気たっぷりにウィンクしてきた。
あー……なに? ノリで種族名を付けたの? いいけどさー……。
だったら私みたいに(仮)って扱いにしよーぜー……。
「カルミッチェとマリーの二人は巻き込んでしまう形で申し訳ないんだが……是非、協力してほしい」
そうして、クロンダイクは私についての説明をはじめた。
ところどころで、フィズちゃんに確認を取ったり、補足をしてもらったりしている。
ようするに、フィズちゃんとの出会い~ギルド登録するまでの話をかいつまんで……って奴だ。
え? 私? 私は喋れないから、話をしている最中は基本的にがぶがぶ相づち打ってるだけだよ。
「そんなワケで、希少種であり特殊なスキルを持っているベルと、書類上のその飼い主となっているフィズが危険だって話になる。
一応、私もソリティアの飼い主ではあるが、権力もあれば財力もある。それに単純に一人でも自衛できるだけの剣も使える。
ベルは強いが、人間社会には疎い。そしてフィズに至っては、権力も暴力も財力も足りていない」
そんな話を聞きながら、私はチラりとコリンさんを見る。
状況のややこしさに多少青ざめてはいるものの表情は冷静だ。それ以上に、情報を集めてできることをやってやろうという意志がある。
さすがは商人の奥さん。肝が据わっているというか、クレバーというか。カッコいいね。
「そして、これはクロンダイク個人ではなく、領主スパークルとしての意見だが――ベルは非常に有用だ。
その能力は金になるし、領地の為になる。フィズに懐いているのであれば、それを手厚く保護するコトで、領地繁栄に利用できる。
だからこそ、私はフィズとベルを守る為の手段を画策しているワケだ」
これを酷いと言うなかれ。
確かに私とクロンダイクはフレンドだ。そこはお互いの共通認識で間違いない。
だけどねぇ……クロンダイクはマイフレンドである前に領主なんだよねぇ……。
仕事サボって出歩くのが好きな問題児であっても、領主なんだよ、この人。
私財を投じて私やフィズちゃんを保護することはできるだろうけど、それだと限界がある。
だから、領主としての財力と権力を使おうって話になるワケなんだけど、それらは私情だけでは使えない。
要するに『友の為』なんていうのは理由にできないんだな、これが。
故に建前であれ本心であれ、領地の為、街の為、国の為――まぁ何でもいいんだけど、領主としての権力を使うための理由って奴が必要なワケだ。
それが、私を領地の為に利用するって話だ。
もちろん、私は私の意にそぐわないこと以外の頼みごとなら、協力するよ。
少なくとも、それをしなければクロンダイクがわざわざ領主としてなんて前置きしながら、汚れ役ぶった発言した意味がなくなっちゃうからね。
なんて話を、フィズちゃんとマリーさん以外は理解してるっぽいね。
ギルマスはともかく、カルミッチェさんとコリンさんも納得できいるところがすごい。
この二人……今でこそ庶民的な暮らしをしてるけど……って奴かしら?
まぁ、協力してくれる良い人たちってことで、深く詮索はしないけどね。
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短めの新作を一つ先日公開しました
『その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~』
https://kakuyomu.jp/works/16816927860343287087/episodes/16816927860343353114
やってみたかった婚約破棄モノです。
こちらもよろしければ、よしなに٩( 'ω' )وよろしく
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