第21話 アパライズな目して見つめちゃ照れるよ
「領主様……ベルを、利用するの?
ベルは――友達じゃなかったの?」
「フィズ」
本音や建前ってのは大人の理屈だからねぇ……。
端で聞いている子供フィズちゃんには通用しない。
怒ったような顔をするフィズちゃんをコリンさんが宥めようとするけれど、ちょっと聞く耳持ちそうにない。
さっきまでは冷静だったコリンさんもさすがにアワアワしだした。
……まぁ、相手が領主様というか貴族だもんねぇ……。
「領主様は、友達を、利用するって言うの?」
「そうだ」
クロンダイクがうなずくと、フィズちゃんがキッと睨みつけながら立ち上がる。
肩に乗っていたシャラランがバランスを崩してシャラシャラと飛び上がるも、フィズちゃんの肩に戻りづらいのか、私の頭の上に乗った。
「フィズ!」
コリンさんが強く名前を呼んでも、フィズちゃんは止まらない。
クロンダイクの足下で丸まってたソリティアも立ち上がるも、相手がフィズちゃんなせいか、どうして良いのか困ったようにキョロキョロしてる。
「がぶがぶ」
やれやれ。
怒ってくれるのは嬉しいけど、この場でそれはダメなんだよフィズちゃん。
そんなワケで私はペタペタと歩いて、フィズちゃんの頭に手を乗せた。
それにあわせて、シャラランはフィズちゃんの肩へと戻っていく。
同じように、大丈夫そうだと思ったのかソリティアもまた、元のように丸まった。
「ベル?」
こちらを見上げるフィズちゃんに、私は首を横に振ってみせた。
「だって、領主様は利用するって……」
「がぶぶがぶんがぶ」
それでいいんだよ。
「……怒らないの?」
「がぶぶ、がぶぶうぶがぶがぶが」
怒る、必要がないからね。
「うー……わかんない。
ベルの言ってることがちゃんと分からないのヤだなぁ……」
そうだね。私もフィズちゃんに言葉が通じないのがもどかしいよ。
「でも……ベルが怒らないってコトは……。
領主様が利用するっていうのも、意味があるっていうコト……?」
「がぶ。がぶがぶがぶが」
はい。よくできました。
うなずいてあげれば、フィズちゃんはポスンとソファに落ちるように、腰をかけた。
その様子に、コリンさんは安堵するように息を吐いている。
それを見た私は、くるりと
おい、マイフレンド。お前、なんでニコニコしながら私とフィズちゃんのやりとりを見てるんだよ。
私は手を振り上げ、クロンダイクの頭に向けて勢いよくチョップを振り下ろすと……直前で寸止めして、ぽふっと乗せた。
それで終了。
「がぶが。がぶっが、がぶがががぶが」
おまえ。ちょっと、露悪がすぎる。
私はそれだけ言うと、元の場所へと戻った。
それを見ながら、フィズちゃんがまた訊ねてくる。
「ベル……それでいいの?」
「がぶ」
うん。問題ない。
必要なことだったとはいえ、ちょっと大袈裟すぎるフレンドを叱っただけだし。
「ったく、つくづく話が分かる奴だよ、お前さんは」
頭を乱暴に掻いてから、いたずら小僧みたいな顔でクロンダイクはそう呻くと、フィズちゃんに向き直った。
「嬢ちゃん、今の嬢ちゃんの行いは……俺だから許す。
だが、俺以外の貴族には絶対するなよ?」
「えっと……」
「そうよ、フィズ。クロンダイク様の言う通り。
相手が貴族である場合、どれだけ理解し難い納得のいかないコトであっても、基本的には逆らっちゃダメなの。
ちゃんと、教えているでしょう?」
「……うん」
クロンダイクとコリンさんの同時攻撃に、フィズちゃんはちょっと涙目になって俯く。
やっぱ、クロンダイクの奴、軽いチョップじゃなくてガチチョップしとくべきだったか?
「それと嬢ちゃん。怒らせて悪かった。
俺はベルとフレンドさ。そこは間違いないし、ベルだってそう思ってくれてるはずだ。
だが、俺は立場上、マイフレンドの為なんて理由だけでは動けない。貴族というのは――責任のある貴族っていうのはそういうモンなんだ」
フィズちゃんが顔を上げる。
「そうよ、フィズちゃん。
だからクロンダイク様は、ベルちゃんやフィズちゃんを守る為に必要な、責任ある貴族――領主として、それらしい理由を口にしただけよ」
補足するようにカルミッチェさんがそう言えば、フィズちゃんも何となく分かったようだ。
「……ごめんなさい」
素直にそう言えるのは美徳だよね。
「謝る必要はない。わざわざ怒られるような言い方をしたのは俺さ。
だけど、覚えておいてくれ――大人は、特に貴族や商人は、こういう本音と建前って奴を使い分けなきゃいけないってコトをさ」
「はい」
とりあえず、フィズちゃんのお怒りは収まったみたい。
あるいは、説得され、理解と納得をしたというべきか。
そんな一連の流れを一番ハラハラして見てたのはたぶんマリーさんだ。
なまじ、一般人代表みたいな立場なせいで、フィズちゃんが怒り出した時は本当に心臓に悪かったに違いない。
逆に言うと、ここまでハラハラした顔をするっていうのは、マリーさんが真面目で優しい人柄なんだってのがよく分かる一幕とも言えるね。
そんな中、ギルマスだけ我関せずみたいな顔してるというか、最初からこうなるって分かってたみたいでそれはそれ腹立つな。
デコピンしてやる!
「ちょ、ベル!? 何をする!」
大した効果はないけど、気が晴れたのでよし。
「さて、リトルレディ。話を再開していいかな?」
「うん。話を止めちゃってごめんなさい」
「もう終わった話さ。謝る必要はない」
キザな笑い方をしながらクロンダイクは言う。
わざとらしいキザさがあろうともなかろうとも、こういうことをサラっと言えるのはすごいと思う。
それから、クロンダイクはまたちょっと真面目ぶった顔をして続きを口にしはじめた。
「ここまでの話だけなら、カルミッチェを呼ぶ必要はなかったワケなんだが……」
まぁそうだよね。完全な部外者だもん。カルミッチェさん。
「だがこの場で鑑定して欲しいモノがあったから、呼ばせてもらった」
ああ、なるほど。
私の混ぜ混ぜミックスしたポーションとかの話かな?
「先んじて鑑定してもらった、ソリティアとシャラランの種族が判明したからな。是非とも鑑定して欲しい奴がいる」
……あー……なるほど?
ソリティアとシャラランの種族名はクロンダイクが勝手に付けたのかと思ったけど、カルミッチェさんが鑑定してくれてたのね。
となると、鑑定して欲しい奴って……
「がぶ?」
「そうだよ。お前さんだよ、マイフレンド」
そっかー、私自身かー!
まぁ種族名もわからんちんなままだしね。必要は必要かな。
「もちろん、ベルが作ったポーションも鑑定するから安心しろ」
なぜでしょう? まったく安心できないですねッ!
「カルミッチェ、頼む」
「はい」
そんなこんなでカルミッチェさんが立ち上がって、私の方へとやってくる。
「ええっと、別に痛いとか怖いとかないんで、安心してね」
「がぶ」
もちろん。危害を加えてくるような人だとは思ってないよ。
フィズちゃんとクロンダイクの二人から名前が出てくるような人だしね。
カルミッチェさんは私に手を伸ばし、それからもにゅもにゅとお腹を触った。
「あ、もちもち。気持ちいいかも……」
そのまま何度も触ってくる。
……鑑定のスキルみたいのを使ってる様子がないので、純粋に楽しくなってきてるだけっぽい。
ふっ、さすがは働く女性に絶賛大ウケ。
生きて動くスクイーズこと私の、
だが、触るだけで良いのかねマドモワゼル?
「え? きゃっ!?」
私はカルミッチェさんを抱きしめ、お腹にちょっと埋もれさせてみる。
「うわぁあぁ……これ、気持ちいい……寝ちゃいそう……。
家に欲しいなぁ……こういうソファ……」
この、もちもちぽんぽんッ! 人をダメするお腹であるッ!
「ベル。何て言うか、傍目には腹からカルミッチェ女史を取り込んでいるようにしか見えん。正直、怖い」
え? そうなの?
――と、ギルマスの言葉に周囲を見回してみると、目を輝かせているのは、フィズちゃんとクロンダイクだけ。
コリンさんもマリーさんも、部屋に控えている老執事さんやメイドさんたちも若干引き気味である。
……Oh。
そんなワケで、埋もれたカルミッチェさんを優しく取り出す。
「あぁん、もっとぉ……」
ちょっとちょっとお姉さん! 名残惜しいのは分かるけど、何、艶っぽい声だしてんの!?
「カルミッチェ女史」
そこへギルマスが静かに名前を呼べば、カルミッチェさんは正気に戻り、コホンと一つ咳払い。
「では、改めて鑑定しますね」
今度こそ揉むためではなく、スキル使用の為に、カルミッチェさんは手を伸ばして私のお腹に触れる。
こちらを見つめる茶色の瞳に不思議な色が灯り――
「……鑑定終わりました」
その光も収まっていくと、カルミッチェさんは小さく息を吐いた。
「色々とツッコミどころ満載な情報の数々は置いておくにして」
ツッコミどころ満載なんだ……。
まぁ、異世界からの転生者ってそういうモンだよね。
お約束、お約束。
「まずは、ベルちゃんの種族名ですね」
お? ついに私の種族名が判明?
「魔獣としてのランクは、レジェンダリィユニーク」
「……レジェンダリィユニーク……」
言葉をそのまま受け取るなら伝説レベルの固有種族って意味だよね。
希少価値が高いってレベルじゃないねそれ。唯一無二なんでない?
「……世界に唯一の個体……。
それも、数百年に一度レベルでしか出現しないランクじゃないか……」
「だが、ランクはイコール強さではない。まぁレジェンダリィのランク持ちは基本的に強いんだがな……」
マリーさんとギルマスが若干青ざめてる。
「種族名はクラフティタベルン。
変異進化体のようでして、進化前の種族名は
よく分からないけど、すごそうな名前がいっぱい出てきたね。
フィズちゃんやメイドさんたちは頭に「?」が浮かんでるけど、分かっちゃってるらしい、クロンダイクや老執事さん、ギルマス、マリーさん、コリンさんは、なんか呆然としてますよ??
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