第22話 リーンカーネーションはノットシリアスで


「あー……ベル本人が理解できてなさそうだからな。オレから説明しよう」


 私の様子を見て、ギルマスが軽く挙手してくれた。

 うん。解説、助かるぜ。


「魔獣にはランクってもんがついている。

 基本的には強さの指標だな。あるいは、討伐難易度か。

 鑑定のスキルを使うとそれを見てとれるから、誰がランク付けしてるかといやぁ、たぶん神様なんだろう」


 E、D、C、B、Aの五段階が基本らしい。討伐難易度としてはAが大変で、Eがラクチン。

 分かりやすいっちゃ分かりやすいね。


 そして、お約束のようにSってのがあるそうで。

 E~Aまでは強さの指標にも出きるらしいけど、Sはそういうワケでもないらしい。

 いやゆる希少性とかも加味されたランクらしいんだよね。


 前世のRPGとかに出てくる、経験値やお金が美味しいメタルやゴールデン的なアレコレなんかは、戦闘力関係なくS扱いされたりするって感じのようだ。


 なので、神様のつけたランクがSでも、人間たちが作る図鑑などには分かりやすいように、SAとかSBとかって表記したりもあるらしい。

 ようするに、S+討伐難易度という形だね。うん、それは指標としてわかりやすい。


 ……で、Sを越えるレア個体が、ユニークレジェンダリィだそうで。

 ユニークは突然変異や、独特の成長を遂げた特殊な魔獣のこと。

 レジェンダリィは、その名の通り伝説級あるいは神話時代や原初時代などと呼ばれる古代から生きている魔獣ないし、それに近しい存在のことらしい。


 ULな私は、原初のオリジンタベルンに限りなく近い種族が突然変異を起こしたユニーク個体というそうで……そう聞くと私のレアリティやべぇなッ!!


「さっきの模擬戦の感じから、討伐難易度はB……いやAはある。

 戦闘力は見た範囲ではB程度だが、人間並の知能を持つというのは、それだけでランクA足り得るしな。

 つまり、共通魔獣ランク表記で言うなら、ベルはULAだな」


 それって完全無欠の超稀少で討伐困難な、クリア後用モンスターって感じじゃないですか、ヤダー!!

 エンドコンテンツ大好きなやりこみ勢みたいな人たちから、お金目当てとか、身体目当てとか、実力試しとかで、襲われるや~つッ!!!


 やめて! ベルに乱暴する気でしょ!? ゲームみたいに! ゲームみたいに! どこぞの悪夢の王のように十五ターン以内に倒されたって、私はラスボス討伐の手伝いなんてしてあげないんだからねッ!!


「本気で俺が後ろ盾にならないと問題が起きそうなデンジャーモンスターじゃないか……」


 好きでデンジャーモンスターに生まれたワケじゃないやい!


「カーマ。ほかにも気になるところがあるみたいだけど、何なんだい?」

「……」


 マリーさんに訊ねられたカルミッチェさんはちょっと困ったような顔をし、少しの間、天井を眺めてから、小さく息を吐いた。


「称号に……」


 称号?

 なんだろ、それ?

 ゲーム的に考えれば、実績の解除だとか、特定の行動やイベントのあとで手に入る肩書きみたいなやつかもだけど……。


「『暴食』や『ミックスビルダー』などの見慣れないものもそうなんですけど……そんなものが気にならないくらいのモノが混じってて……」


 歯切れの悪いカルミッチェさん。

 暴食やミックスビルダーに関しては、心当たりあるけどさ。

 それよりも、何でそんな言い淀んでるんかね?


「『試練と遊戯の加護』と『叡智の閃きの加護』というものが……」


 瞬間、部屋の中に何ともいえない空気が満ちた。


 強いていえば、「マジか、こいつ……」というものだ。

 それはもう、クロンダイクやギルマスとかだけじゃない。部屋にいる老執事さんやメイドさんたちまで、一様に同じ顔をしているんだから、なんかやばいってのは伝わってくる。


 唯一、そういう顔をしなかったのはフィズちゃんだった。

 彼女は無邪気な笑顔で私を褒め称えてくれた。


「ベルすごい! 全ての神様のお父さんと、全ての神様のお母さんから加護をもらってるんだね!」


 …………………………ああ。


 うん。わかった。

 部屋中から向けられる何とも言えない眼差しの理由がわかった。


 そりゃそうだ!

 すべての神様の両親ってようは創造神ってことでしょッ!?

 要するにこの世界を創った夫婦神それぞれからの加護ってことで……。

 考えようによっちゃ、それ神の使いじゃないかYOッ!?


「ベル、お前……創造の夫婦神が使わした御遣みつかいの類なのか?」


 マイフレンドがどこか困ったような顔で訊ねてくるけど、私は全力で首を横に振りまくる。


 知らねーよッ!

 死んで、目が覚めたら、この世界にいただけなんだからよッ!


 転生前の神様対面イベントとか一切なかったんだから!

 ……いや、私の記憶にないだけで、実は対面している可能性とか考え出したら怖いけど!!


「カルミッチェさん。その加護に対して鑑定はできそうですか?」

「ふつうの称号に対してなら出来るんですけど……ちょっと、試してみますね」

「称号鑑定が出来るレベルの時点で誇っていいんだからな?

 その加護の正体を見抜けなくても落ち込むなよ?」

「はい」


 お? 称号に鑑定とかもできるんだ?

 でも会話の内容的には結構レアなスキルなのかも?


「あー……たぶん、ベルちゃんは神様の御遣いではないのかもしれません。

 でも……これは軽々しく口にして良いかどうか……」


 なにやら鑑定結果が出たみたいだ。

 でも、カルミッチェさんはさっきとは別に、こちらを気遣うような感じで言い淀んでいる。


「俺の責任で教えてくれ。

 同時に、この場にいる者全員に、内容の口外を禁ずる」


 シリアスな顔で、クロンダイクは告げる。

 チラリとこちらを一瞥してくるので、私は首肯で答える。


 ……私も、その鑑定結果は気になるしね。


「わかりました。では――男神アームの加護からは『偶然の奇跡より生じた者よ。良き、今世を』。

 女神ヌカーニの加護からは『偶然の申し子よ。二度目の生を大切に』。

 ……鑑定結果にはそれだけが、読みとれました」


 偶然、偶然か。

 神様夫婦が揃って、偶然や奇跡と言うからには、私の存在はそういう産物なんだろう。

 だけどそれでも、排除なんてすることなく、むしろ楽しむようにメッセージをくれるなんて、ありがたいことだ。


「良き、今世を……?」

「二度目の生を大切に……?」


 しかしまぁ、この場にいる人たちはみんな頭が良いからね。

 その二つのフレーズから導き出されるものは当然あるよね。


「ベルちゃん……貴女は、自分が人生二度目という自覚はあるんですか?」


 カルミッチェさんが何とも言えない顔で訊ねてくる。

 そんな申告な顔しなくていいのにね。


 私はそんなカルミッチェさんに、気にしないでと言う気持ちで頭を撫でた。

 その上で、うなずく。

 そうです。私が人生二度目の魔獣です。


「二度目の自覚アリ……もしかして、ベルは前世の記憶ってやつが残ってるか?」

「がぁぶ、かっぶがぶぶ」


 いぇす、ざっつらいと。


 クロンダイクからの問いにはサムズアップしながらうなずいてやる。

 だけどマイフレンドは、いつものノリで私を茶化したりすることなく、酷く真面目な顔で、問いを重ねてきた。


「お前、もしかしなくても、前世は人間か?」


 あー……。

 それを深刻に捉えちゃう?


 私個人としてはすっごいお気楽に、この魔獣生活楽しもうと思ってるんだけど。


 それをどうやって伝えればいいかなぁ……。


 ま、いっかー!


 右手は前に出してサムズアーップ!

 左手は出来るだけ顔に近づけて横ピーズ!


「がぶがぶっがが。がぶがーぶぅ!」


 よくわかったな。だいせーかい!


「お前、どうしてこの質問にそんなふざけて……」

「がっぶぶ、がんぶぶががぶぶが。がぶぶがんぶ」


 勝手に深刻になるなよ、マイフレンド。

 いや、クロンダイクだけじゃない。この場にいる全員だ。


「ががぶが、がぶぶががが、がぶがぶ、がぶぶぶ、がっぶぶがぶが、がぶがうがぶぶ、がっぶぶがぶんがぶがッ!」


 私は、この姿で、楽しく、よろしく、やっていくのに、不都合なんて、まったくないんだからッ!


 まるでミュージカルの舞台に立ったかのような気分で、踊るように歌うようにそう告げて、両手を大きく開いて見せる。

 これで、まだシリアスに深刻に私の心配をするんだっていうなら、座ってる関係者に対しても、ギャラリーに徹している名前もしらない執事さんやメイドさんたちであってもデコピンの刑に処してやる。


「はぁ……お前、それなりにモンスターライフを楽しんでるんだな?」

「がぶ」


 うん。

 だから、同情みたいなのは勘弁してほしい。


 そんなやりとりの中で、よく分かってないフィズちゃんが子リスのように可愛く小首を傾げながら訊ねてくる。


「えーっと、ベルは元人間だけど、別にタベルンでもいいってコト?」

「がぁぶぶ」


 そうだよ。

 前世が何であれ、今の私はタベルンだもの。


「こうやって抱きついても怒らない?」

「がぶぶがぶうがぶぶが」


 怒る理由がないね。


 抱きついてくるフィズちゃんをうなずきながら撫でる。


「付き合い方は今まで通りってコトで良いんだな、マイフレンド?」

「がぅ」


 応。

 むしろ、対応変えられる方が困る。


「分かった。お前さんは、俺たちが思っているよりも、現状を気楽に受け入れてるってコトでいいんだな?」

「がぅがぶが」


 おうともさ。

 それが伝わってくれたなら何よりだ。


 私のスタンスは伝えた。

 あとはそれを受け止める人たち次第。

 だけど、出来れば前世とか気にせず、フィズちゃんの隷獣で、クロンダイクのフレンドな稀少魔獣レアモンスターとして扱って貰えると助かる。


 ……それはそれで、対応に困る人が多そうだけどなッ!


 ともあれ、私を鑑定するっていうのはここまでのようだ。

 クロンダイクがみんなに意識を切り替えさせる為に手を叩いた。


「さて、だいぶ脱線しちまったが、次の話題に移りたい。カーマは席に戻ってくれ」


 席に着いたカルミッチェさんを一瞥してからクロンダイクはフィズちゃんを見た。


「フィズ。頼んでたものは持ってきたか?」

「うん。本当はすぐにお父さんに使いたかったけど……」

「それはすまないな。だが、未知なるモノを使わせるわけにもいかないだろ?」

 

 頼んでたモノっていうのは薬かな?

 フィズちゃんパパは体調崩しているらしいしね。


 でも、使う前に鑑定しないといけない薬ってなんだ……?

 ……いや、なんだじゃないな。心当たりしかない。


 そうしてフィズちゃんがテーブルに置いたのは、見覚えがありすぎる二つのポーションだった。


 そう、私が作った奴である。

 私が混ぜ混ぜして作り出したやつである。


「フィズちゃん、これは?」

「ベルのスキルで作ったモノだよ」

「へー」


 などと、カルミッチェさんは軽い相づちを打つけれど、目はマジになっている。


 確かカルミッチェさんて、鑑定能力こそ持ってるけど、本職は何とかっていうアイテムを作る職人って話だよね……?


 ……これ、鑑定されるとやばい奴では?

 この会議――というか私に関する情報って、ヤバいしかないのでは?


 なるほど。わたしの存在はヤバかった!

 ……あ、その気づきは今更ですね。はい。


 私の焦る胸中を余所に、カルミッチェさんは真剣な眼差しでテーブルの上のポーションを鑑定するべく、手を伸ばす。


「……え? これって……」


 目を見開き、ズレたメガネを慌てて直すカルミッチェさん。

 なにやら急ぐように、二つ目のポーションを鑑定し……。


 身体を震わしながら、カルミッチェさんはテーブルにポーションを戻した。


 そして、私を据わった目で見ながら、口元にだけ大変麗しい笑みを浮かべて告げるのです。


「ベルちゃん。明日、私の工房に来てくれないかしら?」

「が、がぶ。がぶがんがぶがあぶぶが。がぶがぶが~っぶ」


 あ、はい。拒否権はなさそうですね。従いま~っす。


「カルミッチェさん、わたしも一緒にいい?」

「ええ、もちろん。お菓子を用意して待ってるわ」

「やったー!」


 フィズちゃんが一緒に来てくれるなら、とりあえずいいか、な。

 ……いいのかな?



 そのあと――


 ミルカッチェさんにお誘い頂いたあとも会議は続いたけれど、基本的にはわたしに関するに細かい話ばっかりだった。


 称号と薬の鑑定の時が一番騒いだね。

 ……いやまぁインパクトありすぎただけとも言うかも。


 ともあれ、会議というか顔合わせは無事に終わって各自解散。


 フィズちゃんに持ってきてもらったポーションは鑑定が終わったので、彼女のお父さんに使って良いことになった。

 あれで、フィズちゃんのお父さんも元気になってくれればいいんだけどね。


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