第19話 決着のR&B、新着のM&B!
リズム&ブルース マッシブ&ビューティ
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猛烈な勢いで私はタックルをぶちかますッ!
それを受け止めるのは、当然といえば当然の大盾使いコンクラーベくん。
全身鎧に近い形の金属鎧に身を包み大盾を構えるその姿、大柄で精悍な顔立ちも相まって、なかなか頼りがいがありそうだ。
だがッ、その程度で私のタックルは止めらんッ!!
ガンッ!! という大きな音を立て、私は盾と激突する。
よろめくコンクラーベくん。
すかさず私は両腕を腰だめに構え、牛やイノシシが、その角や牙を振り上げるかの如く、勢いよく振り上げたッ!
両腕はコンクラーベくんを捕らえ、その威力によって彼を空の旅へと招待だ。
「うおおおおおおお………………ッ!?」
空へと打ち上げられながら、コンクラーベくんは目を丸くしている。
でもね、この技はここからが、本番なんだぜ☆
心の中でテヘペロしながら、私は両腕を真横に伸ばして、ぐるぐるとその場で回転する。
すると、私を中心にとてつもない吸引力を発揮する暴風が巻き起こり、それは竜巻となって天へと伸びる。
竜巻は当然、宙を舞っていたコンクラーベくんを飲み込み、それだけにとどまらず、その吸引力によって周囲にいた
暴風に飲み込まれ宙を舞う彼らを確認した私は、回転をやめる。
そして、竜巻の中心から真上に向かってジャンプした。
竜巻の頂上を抜けたあたりで、竜巻も収まると、もみくちゃになってヒトカタマリに纏まった神速たる猫たちが空中に投げ出される。
それを彼らよりも高い位置から見下ろしながら、私は全身にエネルギーを纏った状態で、右足をつきだした。
いっくぞ~!
「がぶがうッ、がんぶぅうがうぶんがうッ!!」
私は今、流星となるッ!
「コン!」
「無理だ! こんな空中に投げ出された状況じゃあ……」
「突っ込んでくるぞッ!?」
「纏ってる
「サラトガ、クラーベ……二人のコトは忘れない」
「デライドッ!?」
「余波なら、きっと死なないから」
「サンディッ!?」
「そう、ですね……。二人がケガするのは悲しいですが、私たち三人は余波で済みそうですし……」
「ピーニャまでッ!?」
何やら騒がしい彼らの中心――コンクラーベとサラトガの間を勢いのまま蹴り抜けて、私はシュタっとカッコよく着地する。
一瞬遅れて、空中で爆発と見紛う暴風が吹き荒れて、彼らを仲良く吹き飛ばすのだった。
「ぶっ、がぶっがぶ」
ふっ、決まったぜ!
孤高系特撮ヒーローのお約束キックのような必殺技が!
なお、一番ダメージを受けたのは、彼らが騒いでいた通り、サラトガくんとコンクラーベくんである。
まぁ、そうなるように狙ったんだけどさ。
そうして、ベシャリと落ちてくる神速たる猫のメンバーたち。
彼らの元へと、ギルドマスターは軽い足取りで近づいていく。
傷が治ったらお説教コースなんだろうなぁ……。
などと、その様子を他人事のように眺めていると、運動場の出入り口から癒しのヴォイスが聞こえてくる。
「ベル~!」
「がぁぶが~ん!」
そう。私の天使フィズちゃんだ!
タタタタタッと駆け寄ってきながら、私の
それを受け止めながら、フィズちゃんの頭を撫でる時に、私は幸せを感じるのであった。
やはりヒロインセラピーは実在する!
「すっごい
「がぶがぶ」
でしょでしょ?
どうやら、フィズちゃんは途中から模擬戦を見ていたようだ。
カッコいい姿を見せられて何より何より。
「確かにすごい技だったね。それがフィズのお友達かい?」
「うん!」
少し遅れて、フィズちゃんの後ろからやってきたのは、赤ワインのような色の髪に、淡めの小麦肌をしたどこか迫力を感じる長身美人だった。
背中には背丈と同じくらいの大きさの大剣を背負い、腰元には片手で使えそうなハンドアクスを帯びている。
使い込まれたというか、着古したというにはボロボロでほぼ胸を隠すだけの布切れと化しているシャツに、大胆なダメージが入りまくりのジーンズっぽいズボン。その上から、やはり使い古されたようなロングコートを纏う。
そんな格好のせいで、綺麗に割れた腹筋や鍛えられた眩しい太股が顔を出しているので、堪能し放題だ。
長身のせいで小さめに見えるがなかなかのバストもお持ちなようで、完璧なプロポーションの人である。
前世でもこんな良い意味でも下世話な意味でも完璧な身体の女性なんてなかなかいなかったぞ。
前世で言うなら現実の女性よりも、路上喧嘩格ゲー第五作目の女性キャラモデリングに近いんじゃないだろうか、この身体……。
あれが現実に存在しているという現実に認識が追いつかないぜ……。
そんなすごい美人が、翡翠のような瞳で、私を興味深げに見てくる。
でも、そこにあるはあくまでも好奇心だけ。
敵意とか嫌味のようなものはない……と、思う。
「あ、紹介するね。この人はマリー・ブラッドさん。
しばらくはわたしのボディガードをしてくれるんだって!」
「がぶがぶ」
なるほど。
今のフィズちゃんの立ち位置は微妙だもんね。
クロンダイクとギルマス双方の判断かな?
そして、そのマリーさん。
風格からして、神速たる猫たちとは違うね。
少なくともギルマスがフィズちゃんに付けて良いと思える程度には強くて信頼できる人なんだってのは分かる。
「正確にはフィズとベルの護衛なんだけどね。
ま、よろしく頼むよ、ベル。
アンタの話はフィズやギルマスから聞いてるからさ」
「がぶがぶ」
差し出された手に、こちらこそと応じて、握手する。
「本当に人の言葉や文化に理解があるんだね」
「がぶっ」
そうだぞ。
もっとも、こっちからみんなへの言葉がなかなか通じないのがつらいところなんだけどさ。
「それでね、ベル。
今日、日が暮れたら私と一緒に行って欲しいところがあるの」
「がぶ?」
どこだろう? と小首を傾げると、フィズちゃんの代わりにマリーさんが答えてくれる。
「このクリングの街にある一番大きい家に住んでる人のところさ」
ああ。クロンダイクのところか。
「場所が場所だから、アタシも着替えないといけないのが面倒だけどね」
この格好が馴れているし一番ラクだ――とぼやくマリーさん。
気持ちは分かるけど、流石にその格好で貴族のお家訪問するのは問題なのも分かる。
マリーさんはともかくとしても……
「がぁぶがぁんが?」
フィズちゃんは?
今は、ふつうの格好しているけど。
フィズちゃんを指差しながら言ったからか、マリーさんは難なくこちらの言葉を理解してくれた。
「これから、ご両親と相談さね。
アタシ馴染みの貸衣装屋でも紹介しようかな、とは思ってる」
なるほど。
おめかししたフィズちゃんは楽しみだ。
「ベルもその時、お母さんたちに紹介できる?」
「どうだろうね。まず、フィズの家に行くのはアタシだけさ」
「そうなの?」
「ああ。ベルも領主邸には行くが、別行動の予定だよ」
「そうなんだ……」
しょぼん……とした顔をするフィズちゃんだけど、段階を踏むのは大事だよね。何せ私、魔獣だし。
「じゃあ、ベルは一緒に領主様のところにいけないんだ……」
むー……という顔をするフィズに、マリーさんは優しく笑いながら、膝を突き、目線を合わせる。
「そこは諦めるしかないさね。ギルマスから聞いてるけど、大事な話だそうじゃないか。
それに、いくら雰囲気の軽いお貴族様だからって、領主様は領主様だ。礼儀ってやつもある」
言い聞かせるように、諭すように語るマリーさんは、良いお姉さん感がでている。きっと面倒見も良い人なんだろうね。
その辺りの人柄も含めて、ギルマスはマリーさんを選出したんだろう。
「……うん、分かってる」
「そうか。良い子じゃないか、フィズは」
顔を上げてうなずくフィズの頭を撫でて、マリーさんは立ち上がった。
「マリー」
そこへ、ギルマスがやってくる。
「アイツらは大丈夫だったかい?」
「ああ。ベルがちゃんと手を抜いてくれてたから問題ない。
これで竜神気取りを止められるかどうかは、あいつら次第だ」
……手を抜いた記憶はないというか、ハイテンションで突っ切ってた気がしないでもないけど、大事ないならそれでいいや。
そしてそんな彼らだけれども、ギルマスの言う通り確かに天狗になった鼻ッ柱をへし折ったところで、そこで反省するかどうかは分からないねぇ。
ま、でも……私は大丈夫だと思うけどね。
少なくとも、デライドくんとサンディちゃんはまとも枠っぽいし。一番調子に乗ってるっぽいサラトガくんを説得してくれるんじゃないかな?
「ところで、マリーに追加で頼みごとがあるんだが」
「ギルマスはアタシを過労死させる気かい?」
「そう身構えるな。ちゃんと報酬は出すしな。頼みごとも大したコトはない」
そう口にするギルマスに、マリーさんは胡散臭いものを見るようなジト目を向けている。
そんな彼女の様子にギルマスは苦笑する。
「本当に大した内容じゃない。
単に暇な時にベルと手合わせしたり、
「どういうコトだい?」
「単にベルが興味津々だって話だ」
「でも、ベルは今の模擬戦でがっつり
不思議そうに私を見てくるマリーさんだけど、根幹を勘違いしている。
私はノリでやってるだけだ。あるいは、魔獣の本能に
「恐らくベルは、
そうそう。ギルマスの言う通り。
人間のように理屈を踏まえて使ってるワケじゃないんだよね。
「あるいは、
いえす。
「加えて、サラトガが見せたイナーシャルキャンセルに興味があるようだったからな」
「なるほど。イナキャンに付いて説明するなら、一緒に
うんうん――と、マリーさんは納得したように、うなずく。
その横で、フィズちゃんはちょっと首を傾げていた。
「でも、ベルってスキル使えてたよ?
そういえば、サラトガたちも私が気合いを入れている時に、
それって、もしかしなくても、この世界における魔力とかMPとか、そういう奴かな?
うーん、分からん。
人間の言葉が使えれば色々と聞けるのに、もどかしい……。
「フィズ。ちょいと勘違いしているようだけどね。
ましてやベルは魔獣だからね。種族固有スキルのようなものは、誰に説明されずとも、本能的に使えちまう可能性があるよ」
おお!
雰囲気はパワーファイターだったけど、マリーさんもギルマス同様に脳筋ってワケじゃなさそうだ。
「――って、そうか。本能で使えちまうかもしれないから、細かい理屈とかが良く分かってない可能性があるって話だね」
「そういうコトだ。
なまじ下手な人間よりも頭が良いから、気になるんだろうな」
そんなワケでマリーさんが納得してくれたようである。
これは、本当に助かる。マリーさんなら色々と教えてくれそうだ。
「今日は無理そうだから明日以降になっちまうだろうけど、色々と教えるよ、ベル」
「がぶがぶ、ががぶぶがぶぅ!」
よろしく、おねがいします!
私がペコリと頭を下げる。
すると――ー
「あっはっはっはっは。
礼儀正しく頭を下げる魔獣がいるなんてね。
こっちこそ、改めてよろしく頼むよ、ベル。
アンタと楽しくやれそうだ」
マリーさんは本当に楽しそうに笑いながら、そう言ってくれるのだった。
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