第18話 竜神撃破! チカラこそパワーだ!


「くらえよッ、デブトカゲッ!」


 失礼な。ぽっちゃり竜と言ってくれ。

 ともあれ、激昂しながらサラトガくんは剣の切っ先を地面に付けた。


 お? 君の必殺技を見せてくれる感じ?


走牙刃ソウガジンッ!」


 勢いよく振り上げると、地面を滑るように駆ける衝撃波が放たれた。

 おお! いかにも、飛び道具236+Pっぽい必殺技ッ!


 私が目を輝かしてみていると、サラトガくんは何やら余計に怒った様子で、剣を振り下ろしてくる。


「余裕ぶってんじゃねぇぞ! 追灘ツイナッ!」


 振り下ろされた剣からも衝撃波が放たれた。


 ふむふむ。恐らくは走牙刃って技からの派生かな?

 二連発することで、走牙刃・追灘という技に変化するとかなんかそんな?


 さぁて、私はどうしようかな。

 この身体の丈夫さも試してみたいし……よし。


「がぶがぶ」


 私は防御姿勢で身構え――


「は? 避けないのかッ!?」


 何故か技を出したサラトガくんが驚いている。

 ふーむ、では君はどういう意図でもってこの技を出したのだい?


 問い正したいけど、がぶがぶしか言えないので我慢する。


 そして、受け止めた私に強い衝撃が走る。

 痛いかどうかで言えば別に痛くない。


 続けてもう一発衝撃がくるけど、やっぱり痛くはない。


 サラトガくんがそこそこ驚き、ギルマスが感心している様子を見るに、私の丈夫さは結構なところなのかもね。


 しかし、飛び道具かぁ……いいなぁ……。

 私もなんかそういうのないかな?


 何となくそれっぽい動作を頭の中で巡らせていると、急に脳裏に技名が過ぎる。


飛竜ヒリュウ空旋牙クウセンガ

飛竜ヒリュウ空旋双牙クウセンソウガ

飛竜ヒリュウ空旋連刃牙クウセンレンジンガ


 なんか三つも!

 まぁ何か名前似てるし……脳裏に過ぎった動作を思うと、派生するたびに技名が変わるってだけっぽな。


 でもやる! せっかくだしやる!


 右手にチカラを込めて、フックを繰り出すように振り抜く。


がぶぅうヒリュウ……がぁぶんがクウセンガッ!」


 同時に三日月型のエネルギー弾のようなものが、回転しながら飛んでいくッ!


 うん。これは飛び道具コマンド236+Pってよりタメ飛び道具コマンド4タメ6+Pっぽい技だね。


 私はそれを右手だけで止めず、流れるような動作で、左手でも同じ技を繰り出す。

 こうやって二連続で出せば、空旋双牙だ!


「こいつッ! おれと似たような技をッ!」


 そう思うだろ? でも違うんだなー!

 ここからが連刃牙への派生モーションだぜ!


 私は左腕を振り抜いた勢いを殺さないまま一回転しつつの右手のバックナックルからの発射ッ!


「なッ!?」


 これで三発目!

 まだまだ続くぞッ!


 右のバックナックルのあと、左手の甲を右から左へと振り抜いて四発目ッ!


「ちょッ!?」


 四発目を打ったモーションのおかげで、両腕が開く。

 最後に両手にチカラを込めながら、交差させるように振り抜いて、三日月型の衝撃波をX型にして打ち出した。


 合計五連の飛び道具ッ、これぞッ、空旋連刃牙クウセンレンジンガッ!


 たっのっしぃぃぃぃ~~~~ッ!!

 マジで格闘ゲームっぽい動きができるって、楽しい以外ないんだけどッ!


 いや、ゲームじゃないって分かってても、こんな楽しい動きできるの最高だよッッ!


「うおおおおッ!」


 私がテンションを上げていると、サラトガくんは五発の飛び道具を真っ正面から受け止めている。

 なんで受けてるの? 避ければいいんじゃね? 私は避けられること前提で雑に打ったのに。ただ打ちたかっただけとも言うけど。


 あ、もしかしてさっきのサラトガくんも、ただ撃ちたかっただけ?

 それなら、驚いちゃうのも無理ないね。私も驚いたし。


「アイツがおれの武想技アーツに耐えられたんだッ! おれがアイツの武想技アーツに耐えられないワケがないッ!」


 いや、その理屈はおかしい。


 まぁ私のことをナメてるしね。

 サラトガくんの必殺技――武想技アーツって言ったっけ?――それを真正面から受けた上で、サラトガくんの技よりも高度な武想技アーツを見せたっていうのに、まだ分からないのかねぇ……。


「おああああああ……かああああッ!?」


 お? 五発受けきったよ。なんか勝手にボロボロになってる感あるけどさ。


「ぜぇ、ぜぇ……どうだ。受けきった、ぞ……」


 多少は褒めてあげたいけど、ボロボロじゃん?

 こっちはほぼ無傷だったんだから、比べたら一目瞭然じゃん?


「今度はこっちの番だッ!」


 いつからターン制になったのよ?

 まぁいいけど。私も色々見たいし、試したいこともあるから。


「たりぁぁぁッ!」


 そうして駆け寄って来ながら、左から右へ横薙ぎの一閃を繰り出してくるサラトガくん。

 見た感じ、これは武想技アーツってやつじゃなさそうだ。


 しかし、こうやって迫られても剣を怖いって思えないのが不思議だね。恐怖心がないってワケでもなさそうなんだけど。

 転生特典なのか、魔獣に転生したことで感性がズレってるのか……。


 ともあれ、振られた剣に対して、私は右腕で受け止める。

 硬い鱗で受け止めた感じ。ドンという衝撃はあったけど、まったく痛くないし、別に腕がブレることもない。


 こりゃ相当丈夫だね、私……などと思った、その次の瞬間――


「がぶ?」


 サラトガくんの身体が一瞬より短くブレるように青白く光る。

 そう思ったら、彼は直前の横薙ぎの硬直や反動なんて無視するように、膝を曲げ、剣を低く下げた構えをとっていた。


 え? え? なになに? 


空天斬クウテンザンッ!」


 混乱する私をよそに、サラトガくんの剣が閃く。

 下から上へ、振り上げながらのジャンピングッ!


 これまた、分かりやすい対空技的623+Pな動きッ!

 

 だけど私の鱗にはキズ一つつかない。

 マジで頑丈だぜ、この鱗ッ!


 ――で、この手の技は外したり防がれたりすると、膨大なスキを晒す。

 それはゲームだけの話かと思いきや、現実となったこの世界でも同じようです。


 だから私は、隙を晒しながら降りてくるサラトガくんに、問答無用でそのボディへ掌底破をぶちあててぶっとばした。


 なんかカエルの潰れたような声が聞こえたけど、大丈夫。問題ない。私には何も問題は発生していないから、私は気にしない。


 そんなことより……ッ!


「がぶッ、がぶがぶがぶッ!」

「なんだ? サラトガがどうした……?」


 ああああああああッ、通じないッ!?

 さっきのなんか光って動きがスキップされたような変な技ッ! あれなに? 教えて欲しいんだけどッ!!


 私は必死にストレートパンチで伸ばした腕をブルブルっと振るわせ、それからアッパーをする動作をして見せた。


 サラトガくんを指差しては、それを繰り返していると、やがてギルマスは何かに気づいてくれたのか、手を打った。


「あ! もしかして、イナーシャルキャンセルについて聞きたいのか?」


 イナーシャルキャンセル!? キャンセルですってよ、奥様ッ!

 きゃ~~~ッ、なにそのすてきなフレーズ!!


 それそれそれ~~~~ッ!! と何度も指さすと、ギルマスは苦笑する。


「分かった。分かった。

 細かい事は今度教えてやるから、今はとりあえず模擬戦に集中してくれ」


 えーッ! 面倒くさい! 今すぐ教えて欲~し~い~ッ!

 模擬戦なんかよりも、そのイナーシャルキャンセルなる技を教えてもらいたいよ~ッ!


「ががぶぅ、がぶがぶががっぶぶがぶがぁぶー!」

 

 ならもう、まとめて掛かって来て欲しいなー!

 私はそう言いながら、サラトガくん以外のメンバーを指さした。


「ん? 全員でかかってこいって?」

「がぶがぶ」


 私がうなずくと、ギルマスは実に良い笑顔で彼らに告げた。


「どうやらベルの興味はお前らよりも、イナーシャルキャンセルに向いたようだな。相手にするのが面倒になってきたみたいだぞ」


 ザワリと、神速なる猫ラピーデ・キャッツのメンバーが全員殺気立った……気がする。

 サラトガくんもまだ完全にダウンしてなかったのか、立ち上がって仲間と一緒に構えた。


 そうそう。それでいいよ。

 とっとと終わらせよう。


 とか思っていたら、五人が揃って名乗り始めた。

 なんかノリが戦隊っぽいぞー……。


 キメポーズまでとっちゃってさぁ……。


 剣士でリーダー、サラトガ・クーガー。

 銃使いのガジェッティア、ピーニャ・コラーディ。

 大盾の重戦士、コンクラーベ・ラズベリア。

 弓使いで斥候、デライド・サマーズ。

 風と氷のブレシアス、サンディ・リヨン。


 パーティバランスは悪くないんじゃないかな? ガジェッティアとやらが何だかわからん役割だけど、回復役ヒーラーはいないのかしら?


 雰囲気的には、ピーニャちゃんが担ってる感じかな? 清楚で真面目そうなピーチブロンドの三つ編みっ子が、ヘソ出しシャツにローライズ気味のデニムパンツの上にジャケットとかいう、わりと露出度高めのイケイケ装備している感じ、なんか良いよね! あとポケットやポシェットを多めに装備しているから、アイテム係的な面もあるかしらん?


 サンディちゃんの名乗るブレシアスってよく分からないけど、風と氷って唄ってるし、魔法使いのことだと思う。格好も何か魔法使いっぽさあるし。杖を装備しているのもそうだし、この世界特有の西部劇っぽい格好と、魔法使いの格好がうまく融合してる感じ?


 そうなると、主要アタッカーはサラトガくんとサンディちゃんかな?


 だとしたら守備寄りバランス型パーティだと思うけど、対長期戦とか考えてるのかしら? 

 サラトガくんか、サンディちゃんが倒れた時に取れる戦術がすごい偏るよね?

 それに特化防御型の敵と遭遇すると詰まない? 大丈夫?


 まぁ私が心配することでもないと思うけど。


 それはそれとして、名乗りのノリとキメポーズ!


 ピーニャちゃんはなんかがんばって合わせようとしてるし、サンディちゃんは完全にやる気ないぞ。

 女性陣を無理矢理巻き込むのはどうかと思うよー……。


 ノリノリなの男子だけじゃん。

 あ、でも流石は斥候というか、デライドくんは、ポーズにだけノリノリで模擬戦に対してはやる気なさそう。


 サンディちゃんは物憂げな眼差しをしてるし……。


 デライドくんとサンディちゃんの二人だけは、模擬戦の意図と私の戦闘力に気づいたのかな?


 でもまぁ、そこは調子に乗ってるリーダーたちを諫めなかった君たちの落ち度ということで。諦めてね☆


 さて、五人を同時に相手するとなると、いっそ全員まとめて叩きのめせる、広範囲の超必殺技とか使いたいね。


 ぐるぐる回ってトルネードを起こしてみたりとか?


太暴タイボウ嵐竜ランリュウ轟塵撃ゴウジンゲキ


 キタキタキタキタ~~~~ッ!!

 

 ぐるぐる回転する妄想をしてたら、なんかすっごい技が脳裏に過ぎった。過ぎっただけで、すごいって分かる技だこれ~~ッ!


 まさに超必殺技とかクリティカルアーツとか秘奥技とかディストーションドライブとかそういう奴だッ!

 

「がぁぁぁぶぅぅぅぅぅ……ッ!!」


 両手を高く掲げながら気合いをチャージ!

 気分と気合いパワーゲージMAAAAAAAXマァァァァァァックスッ!


「チッ、何だこの想記力ルーマの高まりはッ!」

「これ……とても危険なやつでは?」

「みんな下がれッ、オレが前にでるッ!」

「やっぱこうなるよなぁ……」

「何であたしまで……」


 約二名すでに諦めてる感じなので、巻き込みは確定。だけど、二人には追撃は控えめにしておくね☆


「がぶぶッ!」


 いくぜッ!


 画面暗転とかキラ~ンってフラッシュとかカットインとかは、現実的にあり得ないけど、気分的にはそういうのが発生する感じで私は構えた。


「がっぶぅぅぅぅぅぅぅ………ッ!!」


 今、必殺の! ショルダァァッァァ……タ~~~ックルッ!!!!


 あ、ちなみにこれ始動技ね。

 ただのタックルで終わる技じゃないからッ!

 ヒット時に特殊演出に移行するタイプのアレだからッ!


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