@wtnk

空の青

小春日和で過ごしやすい天気だった。




彼が私をモデルにしたいと話した時は大層驚いた。


声こそ私よりも高く、子供を感じさせる変声期前の声だが、身体は並の大人と並んでも大差ない程だ。顔もそこそこよく、クラスのいわゆる「一軍」と呼ばれる女子が話しているのを何度か聞いたことがある。

そんな中の上の彼がなぜ、下の下(自己評価ではあるが、他人からも微妙な反応を貰うので間違ってはいないだろう)の私を選んだのか心底不思議で仕方なかった。

彼は人物像よりも、空を描くのが好きだと噂で聞いた。デッサンももちろんこなすらしいが、飽きてしまい途中で大きくバツを描いて終わりにすることがほとんどだと言う(これも噂に過ぎないが)。

「遅いよ」

約束の15分前には着いたはずなのに、彼の冷たい声が私に届く。ごめんね、と軽く会釈しながら私のために用意されていたであろう席に座る。

「動いたらやる気が無くなる、1ミリたりとも動くな」

「相変わらず冷たいね」

相変わらず?親しい仲でもない私が使う言葉ではないだろう。しかし思うように口が動かず、やっとの思いで出せた言葉だ。中身なんぞ詰まっているはずもない。

「…」

彼は空に背を向けて私を描くようだ。彼が好きであろう空に。


「空は何色か分かる?」

しばらく時間が経った。一瞬誰に聞いているのか分からなかったが、直ぐに私だと分かった。彼と二人きりだと言うのに私以外にこの問いを誰が拾うと言うのだろうか。それにしても妙な質問だ。青以外ないだろう、いや水色か?そう考えるうちに彼の顔が曇ってゆく、早く答えねば。

「水色かなあ、今日は天気もいいしね」

天気はほんとに良かった、しかし日差しはそれほど強くなく過ごしやすい1日だった。ただ彼の顔の雲は晴れなかった。どうやら満足のいく返事は出来なかったそうで。

「君の心はくすんでる」

「空がどれだけ青くても君の心がくすんでいるようじゃあ、本当の空の青を見ることは叶わないよ。こんな綺麗な色を知らないまま君は枯れてゆくんだ。哀れだね」

芯の通った、高い声で彼はそう言った。

真っ白なキャンバスに、先程まで「青」の絵の具を持っていたのに、真っ黒な絵の具に持ち替えて私の心を表したかのような醜い顔を描いてゆく。まるで私の全てを知ったかのように、

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