第17話台所
充は白い米をボウルに入れてゼンさんに渡す。
「あとは…これとこれとこれ!」
使えそうなものを手に取ると台所へと戻った。
「わ!」
すると倉庫の扉の前でふくとまるが座って待っていた。
あまりの近さに驚いてしまう。
「なんだ二人とも椅子にいたのに、ほらまた椅子に座ってな」
指で指すとふく達は何度も振り返りながらまた椅子に座った。
その様子に充は首を傾げた。
「なんだってあんなにこっちを確認するんだ?」
「充がどっか行っちまう…って思ったのかもな」
「え?」
ゼンさんが眉を下げて二匹を見つめる。
「ほら、あいつらのお母さんは…」
「あっ…」
そうだ、車に引かれて…
二匹は何度もチラチラとこちらを確認するように見ていた。
充は二匹にそばにいき、顔を近づけた。
「大丈夫、お前らが大きくなるまでそばにいてやるからな。じゃなきゃ俺がここに住めなくて困るしな」
ニカッと笑うが二匹はコテンっと首を傾げこちらをじっと見つめていた。
納得したのな分からないがそのまま椅子の座布団の上で二匹寄り添い丸くなった。
少し落ち着いた様子に充はほっとすると料理にとりかかった。
「よし!美味いの作るから待っててな。ゼンさんは米は炊けますか?」
「米ぐらい炊けるぞ、ボタンを押すだけだよな」
「洗ってから頼みますね、少し固めで」
「洗う?固め?」
ゼンさんは慌てた様子で聞き返してきた。
「ゼンさん…米を炊く時はどうしてたんですか
?」
「そりゃ適当に水入れてボタンをポンッ!だ」
充は頭を抱えた。
まさかこれ程料理を知らないとは思わなかった。
「いいですか、米は洗ってください。ザルとかでやると簡単です。あとは炊飯器の目盛りをよく見て米の合数に合わせてください」
「あっ!この数字はそういう意味か」
ゼンさんが炊飯器の目盛りをみて頷いた。
「でも毎回結構上手く炊けてるんだぜ」
「目盛りを合わせて炊けば毎回同じように炊けますから…で固めにしたい時は水を少し減らすんです」
充は目盛りより少し下で水を合わせた。
「なんで固めにするんだ?柔らかい方がいいんじゃないか?」
前に固いご飯を食べたのだろう心配そうに炊飯器の中を覗き込む。
「大丈夫ですよ、そんなに固くする訳じゃないですから」
充はカチャッと蓋を閉じてスイッチを押した。
「じゃあご飯が炊けるまで他の食材の準備しますね」
充は野菜を洗って切ったり、汁物を作ったりテキパキと動いた。
「充は凄いな、なんで料理が出来るんだ」
ゼンさんが感心して言うと動いていた充の手が止まる。
「料理は、最初はいやいややってました。やらなきゃいけなかったから…でも作ってみると時間を忘れてられるしここが自分だけの空間に感じて好きなんです」
キッチンの中では一人きりになれたから…
今までの境遇が思い出される。
親戚の家を移り住んでいた事を…決して嫌な事ばかりでは無かったが、やはり自分は一人なんだと思い知らされた。
「「にゃ~ん」」
すると手が止まる充にふくとまるの声が届く。
まるで自分達がいるよと言われた様に優しい鳴き声だった。
「ありがとな」
充は二匹にお礼を言って美味しいご飯を作ってやると気合いを入れて腕をまくった。
猫又の恩返し 三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5 @nawananasi
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