第20話
気がつくと、そこは村の入口だった。
街道から繋がる道の先には獣避け程度の柵が伸びており、木製の門が鎮座している。
周囲には虎市とケイトリン、そして再び白猫の姿に変じたアストレアしかいない。
虎市が転移による特有の目眩に目を白黒させていると、やがて柵の向こうからひょっこりと顔が覗き、声が放たれた。
「あ! 君たち……無事だったか!」
「ロビンさん!」
虎市の横でケイトリンが現れたロビンに対して手を振る。
そして二人と一匹の目の前で村の門が重々しく開放されると、そこから十数人の村人らと共にロビンが現れ、慌てるようにして虎市達へと駆け寄ってきた。
「二人とも! 大丈夫かい!? 村まで来ていたゴブリンが消滅したのを見てダンジョン攻略は成功したんだろうとは思っていたけれど……」
「ええまぁ……何とか」
「虎市さん達のお陰で何とか完全攻略出来ました!」
快活に言い放つケイトリンに対して村人達からおお、と感嘆の声が上がる。
ロビンは深く安堵のため息を吐くと、ケイトリンと虎市の肩に手を置き言葉をかける。
「いや、本当に無事で良かったよ……ケイトリンくんもそうだけど、緊急事態とはいえ記憶喪失の虎市くんを行かせてしまったのはかなり後悔があったからね……」
ロビンはポンポンと虎市らの肩を叩き、笑顔を向け告げる。
「ありがとう、二人共。お陰でこの村の皆は救われたよ」
ロビンの言葉に周囲の村人らも歓声を上げ、口々に感謝や称賛の言葉を述べながら二人を囲んだ。
村人らの歓迎にもみくちゃにされながら虎市は、苦笑を浮かべつつも不意に思う。
(なんか……嬉しいもんだな)
思い返せば、自らが行った行為が評価され、言葉で感謝されるという事など社会に出てから殆ど無かったような気がする。
ましてや義憤と勢いでがむしゃらに行った行為が喜ばれる等という事は何年振りのことだろうか。
(
(こいつ直接脳内に愚痴を……)
念話めいてアストレアから脳内に思念を送り込まれる中、やがてロビンの号令の元村人らのは村の中へと戻っていく。
「さあ英雄の凱旋だ! 今夜は派手に祝勝会と行こうじゃないか!」
「ハハハ……お手柔らかに」
最早お祭りムードといった体で戻っていく村人らを見送りながらくたびれて苦笑を深める虎市。
その横で同じく人々に揉まれていたケイトリンも体制を立て直し髪を整え直していたが、不意に虎市に言葉を放った。
「トライチさん、私も──ありがとうございました」
「え?」
「言い忘れていましたから、ドタバタしていて」
言いながら彼女は背負っていた大剣の柄を撫でると、虎市に笑顔を向ける。
「孤剣にてやり遂げん! って気張ってはいましたけどやっぱり不安でしたし……トライチさんが助けに駆けつけてくれて、嬉しかったです!」
「ケイトリン……」
「それにトライチさん、異世界から来られたんですよね?」
「えっ?」
ギョッとして思わず声を上げる。
が、言われてみれば普通にアストレアの前で異世界転移の事を話題に出し会話していたのだからバレていて当然である事に思い至る。
虎市は渋面した。
「異世界というのが何処なのか存じ上げませんけど、異世界転移した上に記憶喪失……そんな大変な状況で助けて貰えたなんて」
「はい?」
「この御恩は必ずお返しします! 記憶を取り戻して異世界に帰れるよう、一緒にがんばりましょうね! 微力ながらお手伝いします!!」
「いや記憶喪失の方は……まぁハイ、ありがとうございます」
虎市は若干の目眩を覚え頭を振るが中天の太陽の如き笑顔を前にして言葉に詰まり、そのまま流すことにする。
「じゃあまぁ……暫くよろしく頼むよ、ケイトリン」
「ハイ! 頑張っていきましょうね!」
虎市の言葉にケイトリンはハキハキ応じると、そのままロビンらの後を追って歩き出す。
それを見送りながら、虎市はふと周囲を見渡す。
村々の風景。
生い茂る木々と深き森。
視界いっぱいに広がる草原。
聳える山々。
見たこともない景色達。
────異世界。
(そうだな……分からないことだらけで、問題も山積みだけど)
長らく経験していなかった未知という空気を肌で感じながら、思う。
(暫くこの世界で、頑張っていくか)
虎市は心中でそう呟くと、先を行く人々を追ってゆっくりと歩み始めた。
第一話:了
不具合能力リビルド無双 ~召喚事故で転移したけどいつでもだれでもリビルド能力で追放者も悪役令嬢もアカBANも再構築でだらっと救済~ BURO @Buronkos_person
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