アドバイス
逸らした先で目が合った絢都くんはほっとしたように笑った。
「絢都くん、ありがとね。空太の背中と私の背中を押してくれて」
絢都くんは今日、ぶつかって私の背中を物理的に押してきたし(決して根に持っているわけではない)、その後精神的に背中を押してくれた。
「ううんどういたしまして。ぶっちゃけもう少しキューピッドとして活躍したいぐらいだから」
「そうだな、昨日彼女に振られて暇になったらしいし心ゆくまで活躍しろよ」
にやにや笑いながらそう言った空太は意地悪だと思う。
「ちょっと空太!」
「大丈夫だよ光琴ちゃん。……それより何でお前が知ってるんだよ。そうやってすぐ揶揄ってくるから秘密にしてたのに……。てっきり光琴ちゃんとの会話に夢中で聞こえてないかと思ってたんだけど」
「あんなバカでかい声で友達に喋ってたら耳を澄ましていなくても聞こえるわ」
「そ、そうかよ……。まぁいいか、事実だし。それはそうと、空太からありがとうの五文字はもらえないのか?」
「なんか恩着せがましいけど、心の底から感謝してるよバカ」
「バカって言うな」
「照れくさくて死にそうなんだからこれぐらい許せよ。……お前のお陰でようやく気持ちを伝えることができたうえに念願叶って恋人になることができたから。ありがとう絢都」
「どういたしまして&おめでとう」
「何で棒読みなんだよ」
「だって、俺は昨日彼女に振られてばかりだってのにお前だけうまくいくなんて羨ましすぎるだろ。祝福したい気持ちは山々なんだけど今は無理なんだよ」
「……けど、彼女に振られたのってどうせお前が原因だろ? 綺麗なお姉さんをナンパしてるところを偶然通りかかった彼女に目撃されたからとか……、」
言いつつ空太が見上げると絢都くんはすぐにばつが悪そうな顔でそっぽを向いた。
「何だよ当たりかよ。当たって欲しくなかったわ〜……」
「そう、自業自得だよ。『やっぱり私は一番じゃなかったんだね』って啜り泣きながら言われてさ、違う一番だって言ったけど全然信じてもらえなくて別れて欲しいって……」
「被害者面すんな。ナンパしたお前が悪いだろ」
「そう、俺が百%悪い。でもどうしてもスルーできなくて声かけちゃうんだよなぁ……。空太も光琴ちゃんも一途でホント羨ましいよ」
途方に暮れたような表情でぼそぼそと独り言を呟く絢都くんを見ていたら、どうしても放っておけなくて、また少しでも恩を返したくて、私は緊張しながら口を挟んだ。
「あのさ……。本当に彼女さんのことを一番大切に想ってるなら、もう一度会って謝罪してちゃんと話した方がいいと思う。……後悔しないために」
そしたら、絢都くんは驚いたように一瞬目を見開いて、穏やかに微笑みかけて、「うん、そうだね」と静かに目を伏せた。
「それが一番いい。……俺ってホント駄目男だなぁ。自分のことしか考えてない、最低だ。既に振られてんのにLINEして、
「おい、どさくさに紛れて握手しようとすんな」
絢都くんがキラキラスマイルで私に向かって右手を伸ばしてきたけど、私が差し出す前に空太が素早く間に割って入った。
目の前に立っている空太の背中の右横からひょっこり顔を出すと、絢都くんが右手を下ろすのが見えた。
「握手するのも駄目なのか?」
「駄目だ、真顔で訊くな。お前は今日光琴の背中にぶつかったり光琴の左足の踵を踏んだりしたよな? 既に二回触ってんだよ、触りすぎだ反省しろ」
空太は不機嫌そうな声で言った後、うさぎみたいに高く飛んで絢都くんの頭を叩いた。
絢都くんはお金持ちのおばさまみたいな口調と高い声で言う。
「まあ、くうちゃんったら人の頭を叩くなんて酷いじゃない!」
「酷くねぇ。軽く叩いただけだ……。あっ、光琴。マジで軽く叩いただけだし暴力じゃないからな」
「ああ、うん……。それは別に問題ないんだけど、」
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